FLYING POSTMAN PRESS

濱口竜介監督新作、独特の映画言語

第80回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞
『悪は存在しない』、濱口竜介の世界

 『偶然と想像』(2021)で第71回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員グランプリ)を、『ドライブ・マイ・カー』(2021)で第74回カンヌ国際映画祭の脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞を、そして本作『悪は存在しない』で第80回ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞(審査員グランプリ)を獲得し、3大映画祭のグランドスラムを果たした濱口竜介監督。『ドライブ・マイ・カー』で第94回アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞したことも含めると、巨匠・黒澤明以来の快挙となった。

 その動向を世界中の映画人が注目する濱口竜介の最新作『悪は存在しない』は、ユニークな方法で製作されている。発端は、『ドライブ・マイ・カー』の音楽を手がけた石橋英子がライブパフォーマンス用の映像制作を濱口監督に依頼したこと。結果として、石橋のライブ用のサイレント映像『GIFT』と共に長編映画『悪は存在しない』は誕生した。

 物語の舞台は長野の水挽町。自然豊かな高原に位置し、東京にも近いことから年々、移住者が増加している町だ。ここにグランピング場を作る計画が持ち上がったのを機に、住人たちの暮らしが揺らぐ様を描いている。


point of view

 濱口竜介監督作では、基本的に俳優たちは淡々と演じている。感情を爆発させたり、ズンと落ち込んだりすることはないのに、これ以上ないほどドラマティックだ。物語がどう転がっていくかさっぱり検討がつかなくてスリリングだし、登場人物が沈黙した瞬間には“何か”が生まれた感じがし、思わず息をのんでしまう。

 また本作においては、不穏さと軽さを行き来する語り口が効いている。いい意味で観る側を落ち着かせない。観ている間中、ゆらゆらと揺らいでいるような心地になるはず。やがては、濱口監督から投げかけられた問いのあまりの大きさに茫然自失としてしまうはずだ。

 濱口竜介監督作にしかない独特の映画言語を深く味わいたい。


『悪は存在しない』

https://aku.incline.life

2023年/日本/106分

監督・脚本 濱口竜介
音楽 石橋英子
出演 大美賀 均 西川 玲 ほか
配給 Incline

※4月26日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほかにて全国順次公開

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