FLYING POSTMAN PRESS

渋川清彦主演映画、教頭先生の人生

台詞をちゃんと言う、脚本を理解する

──中山教頭を演じる上で心がけていたことはありますか。

渋川 そういうのは何もないです。いつもと同じです。

──いつもどんな心持ちで現場に臨まれるのでしょうか。

渋川 台詞を覚えてちゃんと言うこと、それだけです。どうしても現場では緊張もするので、うまく言えないこともあるんです。長年やってきてもいまだにあるんですよ。今回も台詞をちゃんと言うことと、あとは、佐向監督の理想に近づけるようにと。監督が書いた脚本をちゃんと理解しようと、それぐらいだったと思います。監督が思っていた通りにできていたらいいんですけどね。実際にできていたかどうかはまだ聞いていません。

──児童役の子どもたちと一緒に演じる際にも心持ちは変わらず、ですか。

渋川 子どもたちと一緒のシーンでも心持ちはいつもと変わらなかったです。

──子どもたちと一緒のシーンで印象深いものと言うと?

渋川 映画の終盤に、中山教頭が教室で子どもたちを前に話すところがあって。そのシーンの空気は印象的でした。自分の芝居に対して全集中してくれていたというか。全員が真っ直ぐにこちらを見て、言葉を聞いてくれていた空気感がありました。

──クランクアップの際には児童役の子どもたちから感謝状をもらったそうですね。

渋川 そうなんです。表面に感謝状と、教室内の席順通りに子どもたちの写真が貼られていて。中を開くと子どもたち全員からの手書きメッセージがあって。うれしかったですね。映画が公開されたら、どこかの映画館で飾られるかもしれない。子どもたちに飾ってもいいかどうか聞いてからですけど(笑)。

──どんな魅力を持った映画になったとご自身では感じていますか。

渋川 それがうまく言葉にできない、というのがこの映画のいちばんの魅力なのかなと思います。

──イチ観客としての感想ですが、本作の中山教頭は“小津安二郎監督作の中で笠智衆さんが演じるような主人公”と、どこか通じるものがあると感じました。淡々とした中にも可笑しさと哀しさがにじみ、その生き方は沁みるものでした。

渋川 そう言ってもらうとうれしいですね。小津監督の映画も答えを求める映画ではないですよね。風刺的にシニカルに、ユーモアもありつつで日常を描いていますし。いいですね、小津的。この映画もそうあってほしいなと思います。