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渋川清彦主演映画、教頭先生の人生

渋川清彦主演『中山教頭の人生テスト』
“答えはわからない”を体験する映画

 渋川清彦の8年ぶりの主演映画『中山教頭の人生テスト』が6月20日(金)より公開となる。『教誨師』(2018)や『夜を走る』(2021)を手がけた佐向大が脚本と監督を務め、小学校の教頭・中山晴彦が児童や教師、保護者、自身の家族とかかわりながら、少しずつ変化していくさまを描いた本作。渋川清彦は主人公・中山教頭を、淡々とした中にも可笑しみと哀しみをにじませつつ体現している。ひとことで言えば、それは沁みる生き方。決して派手ではないけれどしみじみと感じられ、鑑賞後もしばらく心に残る。そんな映画に仕上がっている。

写真:徳田洋平 取材・文:佐藤ちほ



監督自身が正直だから台詞も正直になる

──『中山教頭の人生テスト』では小学校の教頭先生・中山晴彦の人生を描いていますが、そもそも教頭先生が映画の主人公になるというのはあまりないことのように感じます。

渋川 “教頭先生って何しているの?”というところからですよね。大抵の人は先生と聞くと担任の先生が思い浮かぶと思いますし。俺自身もそうで、教頭先生は正直よくわからない存在。“校長先生が話している時に横にいる人”というイメージで、謎の存在でした。

──脚本から読み取れた中山教頭の人物像はどんなものだったのでしょうか。

渋川 映画のキャッチコピーになっている中山教頭の台詞があって。『先生や大人がこうしなさいって言うことは全部まちがってる』という台詞なんですが、この言葉に出ている気がします。渋川清彦が言うとしたら、『先生や大人がこうしなさいって言うことは大体まちがってる』なんです。俺は“大体”だと思っていますが、中山教頭は“全部”と言いきっている。ふらふらしているように見える人が、こんなふうに『全部まちがってる』と言いきるんだと。その潔さ、正直さ…頑固さとも言えるのかな。芯のある男なんだろうなと思いました。

──渋川さんご自身は“大体”という言葉を選ばれるということは、正しい大人も一部にはいるだろうと。

渋川 俺自身はそう思うんです。いい大人、いい先生もいるだろうと。

──それは、ご自身が子どもだった頃に出会った大人たちを振り返ってみて思われることですか。

渋川 そうそう。例えば、子どもの頃ずっとサッカーをやっていたんですが、サッカーの先生はめちゃくちゃ厳しかったんです。でも、ただ厳しいだけじゃなかった気がするんですよね。先生に厳しくしてもらったおかげで、めちゃくちゃ強くなれたと思うし。本気でぶつかってきてくれていたんだなと今となっては思います。今は大人が子どもに対して本気を出すっていうことがなかなかできないじゃないですか。

──そういう時代ですよね。

渋川 あれはあれで悪くなかったと俺は思うんですけどね。

──ある児童に将来の夢を打ち明けられ、『なれると思う?』と聞かれた中山教頭の答えに、中山教頭の正直さがにじんでいたような気がします。うわべだけの答えを返さないのがいいなと。

渋川 俺もあそこの返しはすごく好きです。先生だったら普通は、『がんばればなれるよ』という感じで答えると思うんです。でも中山教頭は確信のないことは言わない。正直ですよね。そのあたり、佐向監督が書くものの良さだと思うんですけど。大げさにせず盛ることもなく、かと言ってすごく平坦にするわけでもない。そういうのがいいなぁと思うし、佐向監督自身が正直な人だから、台詞も正直になるんだと思う。映画監督をやっていて、自分で脚本も書いているけれど、“答えはわからない”と正直に言っている。そういうところがいいですよね。

──佐向監督の現場での演出はどんなものなのでしょうか。

渋川 静かなものです。自分から「こういうふうにしてくれ」みたいなことは言わないです。こちらがやってみたことを受けて調整していくような感じでした。ただ、児童役の子どもたちに対しては結構演出していたと思いますね。子どもたちはお芝居をするように仕込まれていたりするので、どうしても大げさに演じてしまったりするんです。そういうところが出たら佐向さんが削ぎ落としていっていたような気がします。