CINEMA
ストップモーションアニメに夢中
ストップモーションアニメの最前線 堀貴秀とアダム・エリオットの世界へ
実物のキャラクターを実際に作って動きをつけながら1枚ずつ撮影し、それらの画像を連続再生して作るアニメーションを、ストップモーションアニメーションという。その新たな秀作2本が6月のスクリーンにお目見え。堀貴秀とアダム・エリオット――作風は異なるが、いずれも独創的な作家ふたりの新作を紹介する。
独学のストップモーションアニメ作家 鬼才・堀貴秀のJUNKシリーズ第2弾
独学でストップモーションアニメ制作に挑み、7年かけて完成させた『JUNK HEAD』(2017)で2017年ファンタジア国際映画祭最優秀長編アニメーション賞を受賞したほか、世界の映画祭で賞賛された堀貴秀監督。JUNKシリーズは3部作であると自ら明かしていたが、その第2弾が登場。監督、脚本、撮影、照明、編集、そのほかを堀貴秀が担い、今回は約3年かけて完成させた。
第2弾の時代背景は前作の1042年前。ゴーストタウンになったはずの地下深部の都市に起こった異変を調査しようとする人間と人工生命体であるマリガン。人間側の隊長・トリス、トリスの養育係であり、前作ではパートンという名前で登場したロボットのロビン、マリガン側を率いるオリジナル個体のダンテら調査チームが、カルト教団ギュラ教の襲撃を受けながらも任務を遂行する様子を描いていく。
グロキモかわで、ユーモアとあたたかみも感じさせるキャラクターたちが、スチームパンクな地下世界で驚愕のストーリーを展開していく。1042年前の“失われた未来の物語”にハマるひとときを。
point of view
堀貴秀はやはり変態で天才だ。キャラクターはミニマムな作りでありながらグロさとかわいさ、格好良さが同居していて、その唯一無二のテイストがクセになる。背景美術や小道具のキーワードはスチームパンク、あるいはディストピアと言ったところか。細部まで精巧に作り込まれ、物語への没入感を高めてくれる。
見た目にインパクトがあるだけではなく、ストーリーもいい。第2弾ではマルチユニバースの概念を巧みに取り入れ、たびたびサプライズを仕掛けてくる。予想の斜め上を行く展開続きにワクワクしつつ、その独創性に感じ入ることになるはずだ。加えて、ギャグセンスは今回も冴えわたり、声を上げて笑うこともしばしば。緩急のついた語り口もまた、堀貴秀作品の魅力のひとつなのだと再確認できる。
ファンの期待を裏切らない第2弾。観た後は第3弾への期待がさらに高まること間違いない。
『JUNK WORLD』
2025年/日本/104分/PG12
監督・脚本・撮影・照明・編集 | 堀 貴秀 |
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配給 | アニプレックス |
※6月13日(金)より全国公開
©YAMIKEN
オスカー受賞監督アダム・エリオット 不完全な自分と人生を肯定する物語
『ハーヴィー・クランペット』(2003)で第76回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞、長編デビュー作の『メアリー&マックス』(2008)では2009年アヌシー国際アニメーション映画祭最優秀長編映画賞ほか数々の映画賞を受賞し、世界が注目するストップモーションアニメの作家となったアダム・エリオット。第97回アカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートされた最新作では、幼い頃から周囲になじめず、カタツムリだけが心のよりどころだったグレースが、ピンキーという陽気でヘンテコなおばあさんとの出会いを通じて自分の殻を破り、少しずつ生きる希望を見出していく姿を描き出す。
セットの数は200、小道具は7000個、カットの総数は13万5000、製作期間は8年。デビューから一貫してCGやAIには頼らず、ハンドメイドのぬくもりと味わいをまとったビジュアル、欠点のある人々が日常を生きる姿をほろ苦くもやさしく綴ったストーリーで観客を魅了してきたアダム・エリオット。不完全さを愛するその美学がここに凝縮されている。
point of view
アダム・エリオットの創作はストップモーションアニメの王道を往く。つまり、人の手で作ることを信条としている。人の手で作られたキャラクターやセット、小道具は凸凹しているし、左右対称でもない。でも、その欠陥が個性となり、独特の色合いと風合いが作品に備わることになる。ストーリーも同様だ。本作に登場するキャラクターはアウトサイダーばかりで、人とは違うところを持っている。例えば、本作の主人公のグレースは幼い頃からいじめられっ子で、孤独だった。そんなグレースが風変わりなおばあさんと出会い、“人と違ってもいい”と認めてもらい、“人と違う自分”を自身でも受け入れ、やがては生きる喜びを見出していく。そんな姿をユーモアとペーソスを交えつつ描き、観る側を笑わせ、泣かせる。きっと、自分自身の不完全な人生をも肯定してもらったかのような気持ちになるはず。アダム・エリオット流の人生讃歌がここに。切なさと愛おしさがこみ上げる1本だ。
『かたつむりのメモワール』
https://transformer.co.jp/m/katatsumuri
2024年/オーストラリア/94分
監督・脚本 | アダム・エリオット |
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声の出演 | サラ・スヌーク ジャッキー・ウィーバー コディ・スミット=マクフィー ほか |
配給 | トランスフォーマー |
※6月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほかにて全国順次公開
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