FLYING POSTMAN PRESS

丸山隆平主演映画『金子差入店』

自分自身と向き合ってもらえる映画

──殺人犯の小島に彼の母親の代理で面会に行くシーンが何度か出てきますが、合わせ鏡のように見える瞬間がありました。

丸山 それは泣ける感想です。うれしいです。

──金子にとって小島は“一歩間違えたらこうなっていたかもしれない”存在だったのかなと、面会室のシーンを観て感じました。

丸山 そう、そういう瞬間って実はあると思うんです。自分ももしかしたらこうなっていたかもしれないと思うような瞬間が。ギリギリのところで、自分にとって大事な存在が引き留めてくれている。実はみんなギリギリで生きているんですよね。

──面会室のシーンを撮影中、小島役の北村匠海さんと役について、あるいは作品について話したりすることはありましたか。

丸山 話さなかったです。正直、演じている時は“こういう気持ちで演じよう”というのはなかったと思います。“相手はこう来たか。じゃあ、こうしよう”とか考えながらでは間に合わないんですよね。ただ、テストの時にふと“北村君、これをどう構築してきたんやろ?”と考えたりはしましたね。それは、役者・丸山隆平として役者・北村匠海君に思ったことです。あの演技を違和感なくできること自体がすごいと思うんです。狂気じみた人、なんか変な人を“作り”でやると、どうしても観客に透けて見えると思うんですね。“誰かの何かをテンプレにしているな”とか気づかれると思う。でも、北村君が演じた小島は“こんな奴がいるんだ。何考えているかわからないな”と思わせながらも、同時にちゃんと人間だと感じられる。面白かったというか、不思議でしたね。どう構築したらこうなるんだろうと考えたりしました。あと覚えていることと言えば、しんどかったということかな。小島との面会のシーンの金子は怒り一色ではなくて。グワッと爆発しそうになりながらも、どうにか抑えて話す時ってあるじゃないですか。それに近い状態でずっといたような気がします。自分の内側でいろんな感情を渦巻かせながら、なんとか抑えてやり取りしていた。相当しんどかったです。

──古川監督の印象も聞かせてください。

丸山 まず、現場の空気はめちゃくちゃ良かったです。古川監督は各セクションの方々に愛されていて、それが現場の空気ににじみ出ていたと思います。古川監督は“この人の作品をとにかくたくさんの人に観てもらわないといけない。そのために何か自分も力にならないと”と、自然と思わせてくれる吸引力のある人。そんなふうに感じていました。

──古川監督の演技指導はいかがでしょう。言葉を尽くす、というやり方なのでしょうか。

丸山 人によってはあったかもしれないです。金子が拘置所で出会った佐知役の(川口)真奈ちゃんとかには、そのシーンごとに丁寧に役の心理を話したりしながら作っていっていたように思います。これは古川監督の面白いところなんですが、誰かに真剣に向き合っている時は向き合っているその人自身になっているんです。例えば、真奈ちゃんと向き合っている時は真奈ちゃんの気持ちになっている。そういう感じがすごくしました。

──ご自身は言葉で演技指導を受けることはなかったですか。

丸山 いくつかは言ってくださいました。動き方とか物理的なことではなく気持ちの部分ですね。例えば、塀の中にいる時に命と向き合うことになるシーンでは、「命がどんなものかというのは、丸山さんの経験の中にもあると思います。その気持ちを大切にしてください」と言っていただいたりして。ただ、本当にいくつかという感じで、途中からは何も言われなくなりました。「途中から金子になっていたから。別に何も言うことはなかったです。あえて現場で言うことでもないので言わなかったですけど」と、のちに古川監督に言っていただいて。こちらに委ねてくれていたんだなと思います。

──振り返ると、『金子差入店』の経験はご自身にとってどんなものだったと言えますか。

丸山 言葉にするのは難しいですね。この経験が次の作品に生かせるのかどうかも、まだわからないです。作品によって求められることが違うわけですから。ただ、イチ役者としてありがたい経験だったというのは間違いなくて。古川監督にとっては初めての長編監督作で、そんな大切な作品の主人公を委ねてくださったことに喜びを感じていますし、この作品が役者としての代表作のひとつになったらいいなと思っています。

──どんな魅力を持った映画になったと感じていますか。

丸山 いろんな要素があると思うんです。差入屋という日本独特の職業をこの映画で初めて知る方も多いでしょうし、サスペンス要素も楽しんでいただけるんじゃないかな。日常の中でつい目を背けがちな感情がたくさん詰まった映画だとも思います。人間、生きていくからには必ず他者とかかわるわけですよね。家族だったり、ご近所さんだったり、一緒に働いている人たちだったり。そんな人たちとかかわりながら、じゃあ自分はどう生きていくのかと、改めて自分自身と向き合ってもらえるような映画になったと思っています。


丸山隆平(まるやま りゅうへい)

1983年、京都府出身。SUPER EIGHTのメンバー。歌手・ベーシスト・俳優。俳優業の近作にドラマ『着飾る恋には理由があって』(2021)、ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2022)、舞台『ハザカイキ』(2024)、『浪人街』(2025)などがある

『金子差入店』

https://kanekosashiireten.jp

2025年/日本/125分

監督・脚本 古川 豪
出演 丸山隆平 真木よう子 寺尾 聰 ほか
配給 ショウゲート

※5月16日(金)より全国公開

Ⓒ2025映画「金子差入店」製作委員会