CINEMASPECIAL ISSUE
丸山隆平主演映画『金子差入店』
収容者への差し入れを代行する差入屋 闇と希望を映すヒューマンサスペンスで 丸山隆平が俳優として新境地を開く
刑務所や拘置所への複雑な差し入れルールを熟知し、依頼人に代わって確実に差し入れを届けるプロフェッショナル=差入屋。そんな差入屋を生業とする主人公と家族が不可解な事件に巻き込まれるさまを、サスペンスフルかつ情感豊かに描いた映画『金子差入店』が5月16日(金)より公開となる。
『泥棒役者』(2017)以来8年ぶりに映画で主演を担うのは丸山隆平。演じるのは元収監者で、出所後に家族と暮らしながら差入屋を営む主人公の金子真司。殺人犯や自分の母親を殺した男との面会を望む少女とかかわる中で、心が揺れ動く男の姿をリアルに体現している。その姿はきっと、多くの観客にとって初めて観るもの。俳優として新境地を開いている。
取材・文:佐藤ちほ
やるからには全身全霊をかけて
──古川豪監督が書き下ろした『金子差入店』の脚本を最初に読んだ時は、どんなことを感じましたか。
丸山 そもそも差入屋という仕事が存在するのを知らなくて。実は普段、差し入れ魔なところがあるんです。その普段の感覚があったからか、“大口の差し入れをしたい時にアイディアを提供してくれる仕事とかかな?”と、割とポップな仕事を想像していたんです。でも、脚本を読んでみたらそういうものではなかった。塀の中にいる人たちへの差し入れを代行する仕事というのは、社会に貢献できる仕事であると同時に、偏見もあったりする。被害者側からしたらそうじゃないですか。なんで加害者に差し入れなんてするのかということになるわけで。罪を犯した側と被害者側、両方の見方が描かれているのが印象的でした。また、その差入屋という仕事を入り口に家族やご近所さんとの関係も細やかに、しかもサスペンスを交えながら描かれていたので、最初の印象を率直に言えば“情報量のとても多い脚本”でしたね。同時にとてもやりがいのある作品だと思いました。こういった作品や役に出会えるのは役者として幸福なことだと。やるからには全身全霊をかけないといけないと思いました。時間的にも精神的にも多くを注ぎ込まないといけないだろうと、そういう怖さもありました。
──主人公・金子真司の人物像を、ご自身ではどう言い表しますか。
丸山 金子はとにかく家族が大好きで、何があっても家族を守ろうと思っている。ただ沸点が低くて、一度沸騰してしまったら制御ができなくなるところがあるんです。怒りで沸騰してしまうと視界がボヤけて頭はグワングワンする…みたいなことになるじゃないですか。金子はそういう状態になりやすい人間なのかなと。そのせいで過去に罪を犯して塀の中に入ってしまったわけで。引き金が引かれた状態のままで生きている感じがありますね。ただ、今の金子には自分より大切な存在がいるわけです。時折自分を抑えられなくなる自分が、大切な家族をどう守っていけばいいのかと、どこか怯えながら生きている。そういう人間なのかなと思います。あと、仕事のことで言えば、差入屋をしているのは贖罪という意味合いもあるのかなと。かつて塀の中にいた自分は差入屋の伯父に助けてもらった。心を救ってもらった。そんな経験をしているからこそ、かつての自分と同じような人たちのためにこの仕事をしよう。そういう素直な気持ちが根底にはあると思うんです。塀の中にいる人に差し入れするという行為が果たして正しいことなのかどうかと揺れることになる。そういう姿も人間らしいと感じる部分です。
──金子にとって妻、息子、伯父という同居家族は守るべき存在ですが、同居していない母親はまた別かと思います。金子にとって母親はどんな存在で、人格形成にどう影響を及ぼしたと思いますか。
丸山 どうしようもないんだけれど切っても切れない関係というか。すごく身近でありながら同時にすごく疎ましい存在。“いなければいいのに”と思うこともあるけれど、なんだかんだ、やっぱり母親というか。“腹を痛めて産んでくれた人間ではあるんだよな”という思いが、金子は拭いきれないんだと思います。きっと、そう珍しい関係性ではないような気がします。普遍的とも言える関係性なのかもしれない。そんな母親からどんな影響を受けたんだろうと考えると、キレやすいところは多分そうなんでしょうね。悪い男に引っかかってばかりの母親と暮らしていた幼少期、金子としてはずっと我慢していたところがあって。結果、自分が汚いと判断したものに対しては我慢がならなくなってしまった。そういう人間に育ったのは、母親の影響も大きいような気がします。