FLYING POSTMAN PRESS

笑い、感動、スリル満載の初夏映画

笑って泣ける物語、緊迫の脱出スリラー
紳士なクマが繰り広げる大冒険
エンタメ要素満載! 初夏の注目映画

 笑って泣ける日本映画に、心拍数が上がりっぱなしのサイコ・スリラー、紳士なクマが主人公のテッパンのシリーズ。GW直前から5月中旬にかけて公開される新作映画の中から、エンタメ度の高い4本の良作をピックアップ。その魅力を紐解いていく。



ユーモアと情感、胸を震わせる日本映画
鈴木亮平と有村架純が兄妹役で初共演
不思議な記憶を巡る、兄と妹の物語

 大阪の下町に暮らす兄妹が経験する不思議な出来事を描き、第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集『花まんま』の表題作を原作に、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)を手がけた前田哲が監督を務めて映画化。原作では兄妹の子ども時代が描かれたが、そのラスト近くに数行で書かれた“ふたりのその後”から着想を得て、映画ではふたりが大人になってからの物語を軸に描いていく。

 早くに両親を亡くして以降、死んだ父と交わした“妹を守る”という約束を胸に生きてきた兄・加藤俊樹に鈴木亮平。“自分とは別の人間の記憶がある”という秘密を抱える妹・フミ子に有村架純。いずれも兵庫県出身、関西ネイティブなふたりが息の合った掛け合いを披露している。さらに、フミ子の婚約者で動物行動学の助教・中沢太郎に鈴鹿央士、俊樹の幼馴染みでお好み焼き屋「みよし」の看板娘・三好駒子にファーストサマーウイカ、兄妹と不思議な縁で繋がる繁田家の3人に酒向芳、六角精児、キムラ緑子。芸歴50年を迎えるオール阪神・巨人も揃って出演し、関西のムードを醸し出している。

 ぶっきらぼうだが情に厚く、誰よりも妹思いの兄の俊樹。そんな兄に深く感謝しながらも、誰かを思いやり、兄の意に沿わない行動に出る妹。そんな兄妹を演じた鈴木亮平と有村架純が素晴らしい。可笑しみと哀しみの両方をにじませつつ、緩急をつけつつ掛け合うさまに笑って泣いて大忙し。兄妹が過ごしてきた年月のすべてをまとってそこに存在し、思いをぶつけ合っていることが伝わってくる。

 ふたりを取り巻く人々を演じたキャスト陣もいい味を出している。フミ子の婚約者を演じる鈴鹿央士は“カラスと話せる”という特技をふわっと、かつ最強のボケとして繰り出し、たびたび笑いどころを提示。俊樹の幼馴染み役のファーストサマーウイカは、世話焼きで乙女な大阪の女を好演。繁田家3人を演じるベテラン勢、酒向芳、六角精児、キムラ緑子は喪失と再生を体現し、ドラマを盛り上げていく。そんなキャスト陣を率い、ファンタジーな設定を取り入れながらも普遍的な感動を呼ぶ物語へと仕立て上げた前田哲監督の手腕も光る。

 幼い頃からふたりで生きてきた兄妹は、妹の結婚を前に遠い昔に封印したはずの秘密と向き合うこととなる。大切な人がそばにいること、その人と過ごすなんでもない日々こそが宝物だったと気づかせてくれる、愛に溢れた家族の物語が誕生した。

『花まんま』

https://hanamanma.com

2025年/日本/118分

監督 前田 哲
原作 朱川湊人『花まんま』(文春文庫刊)
出演 鈴木亮平 有村架純 鈴鹿央士 ファーストサマーウイカ 六角精児 キムラ緑子 酒向 芳 ほか
配給 東映

※4月25日(金)より全国公開

©2025「花まんま」製作委員会


マンガ家・東村アキコの傑作自伝が
永野芽郁×大泉洋の顔合わせで映画化

 『海月姫』や『東京タラレバ娘』などのヒット作を世に送り出してきたマンガ家の東村アキコが泣きながら描いた自伝であり、マンガ大賞2015を受賞した名作「かくかくしかじか」が映画化。原作者である東村自ら脚本家の伊達さんと共同で脚本を担当し、マンガ家を夢見るぐうたら高校生の明子と、その人生を変えたスパルタな絵画教師・日高先生の9年間を、映画オリジナルの展開も交えつつ描いていく。

 明子を演じるのは永野芽郁、日高先生を演じるのは大泉洋と、原作者もお墨付きの顔合わせに。さらに、見上愛、畑芽育、MEGUMI、大森南朋らがふたりを取り巻く人々を演じ、映画を盛り立てる。『地獄の花園』(2021)で永野芽郁とタッグを組んだ関和亮が監督を務め、個性豊かなキャストの魅力を引き出していく。

 東村アキコの故郷である宮崎に始まり、石川、東京と舞台を変えながら描かれる、かけがえのない時間。最恐の絵画教師との愛憎入り交じる青春の日々が今、明かされる。

 これまで何度映像化企画を持ちかけられても、「かくかくしかじか」の完璧な形での映像化は不可能だろうと考え、断り続けてきた東村アキコ。そんな原作者の背中を押したのは、本作の主演を務める永野芽郁と大泉洋の存在だったという。

 硬軟自在に演じ分ける幅の広さには定評のある永野芽郁と大泉洋だが、今回もそのセンスと実力をいかんなく発揮。ふたりとも塩梅が絶妙だ。ユーモアとエモーションの度合いをシーンごとに繊細に調整しつつ、グラデーションのある演技で物語に濃淡をつけている。

 師は弟子に「描け」と言い続け、弟子は師に自身の夢を伝えられないままでいた。勇気を出して大切な人と向き合ってみれば、何かが動き出すということ。かつては嫌で仕方かったあの時間が、やがて、どんなに願っても取り戻せない時間になるということ。明子と日高先生の9年間を追うほどに、そんなことが胸に沁みてくる。観る人それぞれが“大切なあの人、過ぎ去ったあの時間”を思い起こす1本。たっぷり笑った後に涙が溢れる、師弟愛の物語がここに。

『かくかくしかじか』

https://wwws.warnerbros.co.jp/kakushika

2025年/日本/127分

監督 関 和亮
原作 東村アキコ「かくかくしかじか」(集英社刊)
出演 永野芽郁 大泉 洋 見上 愛 畑 芽育 大森南朋 ほか
配給 ワーナー・ブラザース映画

※5月16日(金)より全国公開

©東村アキコ/集英社 ©2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会