FLYING POSTMAN PRESS

染谷将太の映画観、受け継いだもの

現場で気づけた瞬間、気持ちが上がる

──染谷さんにとって映画とはどんなものですか。

染谷 もともと自分は、ただただ映画が好きで。たまたま役者という仕事に就いて“公私共に”となっただけなんです。映画が好きだからよく観ますし、映画が好きだから職場にもなっている。もはや自分にとって映画がなんなのか、うまく言葉にできないぐらいです。ただひとつ、こうして公私共に携わり続けられるのは幸せなことだと思っています。

──俳優として作品を世に送り出す上では、どんなことを大切にしているのでしょうか。

染谷 その時々でできる最大限をやる、一生懸命やる、ということに尽きます。自分にとってはそれしかないです。一生懸命やることが、作品に対してもお客さんに対しても最大のリスペクトになると思っているので。

──子どもの頃から俳優業を続けてこられて、心が折れる瞬間はありませんでしたか。

染谷 子どもの頃は心が折れたことが2回ぐらいありました。“一生懸命やる”の意味合いも今とはまったく違っていましたね。子どもの頃は、ちゃんと自分の台詞を言えて大人たちを納得させないといけないと思っていて。そのために“一生懸命やる”というものでしたが、今は自分が“一生懸命やる”ことが作品にどうかかわってくるのかを考えられるようになった。そのあたりは変わったと思います。

──役作りの段階、撮影現場、完成した作品を世に届ける時。いちばん気持ちが上がるのは?

染谷 自分は現場ですね。準備している時はどうしても“苦しい”が先立ちます。脚本を読んでいる時は大体ひとりだから。いちばん悩む時間ですし、ひとりだからどうしても視野が狭くなりますし。でも、現場が始まると、当たり前ですが自分の都合では止まってくれないわけです。それが逆に良くて。というのも、現場の波に乗っかっていけば自然と気づける瞬間があるんです。現場のアハ体験がある。“脚本をひとり読んでいた時はこう思っていたけど、実際に芝居してみたらなるほど、こういうことだったんだ!”と気づけた瞬間、気持ちが上がりますね。完成した映画を初めて観た時ももちろんうれしいんですが、気持ちが上がるというよりは“自分の手を離れて旅立っていく”という感覚が強い。やっぱり、自分は現場がいちばんなのかなと思います。

──『BAUS 映画から船出した映画館』の現場でもアハ体験はありましたか。

染谷 サネオがスピーチをするシーンがあります。そのスピーチは脚本で読んでいる時から納得できる、共感できるものだと思っていましたが、どうすれば実際に説得力のあるスピーチにできるかとすごく考えたんです。会話ではなく一方的に話す行為の中で、どうやったらちゃんと聞いている人たちに届く音になるんだろうと。演じる前まで悩み続けていましたが、現場でステージに立ってしゃべり始めた瞬間、腑に落ちた。“映画ってこういうものだよね”と、サネオとして思っていることを素直に音にしてみたら、改めて“この台詞って何も嘘がないな”と思えたんです。あれはアハ体験でしたね。これは後で聞いたことですが、実は甫木元君も撮影の米倉(伸)君も撮る前は“このシーンはどう撮ろうか?”と悩んでいたそうです。でも、実際に始まったら、“あ、こういうことか”とふたりとも腑に落ちたと。あの瞬間は僕ひとりではなく、みんなでアハ体験できたということなのかなと思います。

──映画が完成した今、聞かせてください。青山監督の呪いは解けましたか。

染谷 逆に深まったんじゃないですか(笑)。

──永遠に解けない呪いなんでしょうか(笑)。

染谷 そうかもしれないですね(笑)。この映画にかかわった全員、一生解けないんじゃないかな、この素敵な呪いは。


染谷将太(そめたに しょうた)

1992年、東京都出身。近年の出演作に映画『陰陽師0』『若き見知らぬ者たち』『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』(いずれも2024)、Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』(2023)、『地面師たち』(2024)。今年の待機作に映画『爆弾』、Netflixシリーズ『イクサガミ』がある

映画『BAUS 映画から船出した映画館』

https://bausmovie.com

2024年/日本/116分

監督 甫木元 空
脚本 青山真治 甫木元 空
音楽 大友良英
出演 染谷将太 峯田和伸 夏帆 とよた真帆 光石 研 橋本 愛 鈴木慶一 ほか
配給 コピアポア・フィルム boid

※3月21日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国公開

Ⓒ本田プロモーションBAUS/boid