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3月公開:アカデミー賞ノミネート作

3月に日本で公開される
第97回アカデミー賞受賞&ノミネート作

 第97回アカデミー賞の授賞式が日本時間3月3日に開催された。『ANORA アノーラ』が最高の栄誉である作品賞に輝いたほか、主演のマイキー・マディソンが主演女優賞、ショーン・ベイカーが監督賞、脚本賞、編集賞を受賞するなど5冠を達成し、混戦必至と予想されたレベルの高い賞レースを制することとなった。『ANORA アノーラ』は全国公開中。さらに、授賞式の興奮冷めやらぬ3月中に今年の授賞式を盛り上げた作品が続々日本で劇場公開となる。間もなく劇場で鑑賞できる、第97回アカデミー賞受賞作&ノミネート作を紹介していく。



“音楽”が人間ドラマをより豊かにする
これは、もうひとつのオズの物語
魔女たちの友情を描く名作ミュージカル

 L・フランク・ボームが小説『オズの魔法使い』を発表したのは1900年のこと。それから約100年の時を経た1995年、ボームが著した名作の世界を題材に、グレゴリー・マグワイアが新たな小説『ウィキッド』を発表する。『オズの魔法使い』に登場する<悪い魔女>と<善い魔女>の友情をテーマにした『ウィキッド』は瞬く間にベストセラーとなり、2003年にはブロードウェイ・ミュージカルとなり、アメリカ本国のみならず世界中を席巻。このミュージカル劇を原作に、ミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』は作られた。

 『クレイジー・リッチ!』(2018)や『イン・ザ・ハイツ』(2021)を手がけるジョン・M・チュウが監督を、<悪い魔女>エルファバ役にエミー賞やグラミー賞に輝き、『ハリエット』(2019)ではオスカー候補にもなったシンシア・エリヴォ。<善い魔女>グリンダ役にグラミー賞アーティストであり、世界的なスターのアリアナ・グランデ。確かな実力と個性を併せ持つふたりがW主演を務め、スクリーンで化学反応を起こしている。さらに、スティーヴン・シュワルツが作詞作曲したミュージカル劇『ウィキッド』の名曲の数々をスクリーンでも再現。シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデらが現場でエルファバの代表曲『Defying Gravity』やグリンダの代表曲『Popular』を歌い、それをそのまま収録。情感のこもったミュージカル・シーンを作りあげている。

 第97回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞、助演女優賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、作曲賞、編集賞、音響賞、視覚効果賞にノミネートされ、美術賞と衣裳デザイン賞を受賞したミュージカル映画の新たな名作。感動と興奮に包まれるひとときを。

 深いテーマ、耳にも心にも残る楽曲、主演俳優ふたりの完成度の高いパフォーマンスと化学反応、夢のようなプロダクション・デザイン、キャラクターの個性を際立たせる衣裳とヘアスタイリング&メイクアップ。すべてにおいて隙がなく、ミュージカル映画の理想形と言っていい。

 とりわけ、第97回アカデミー賞において主演女優賞にノミネートされているシンシア・エリヴォと、助演女優賞にノミネートされているアリアナ・グランデが見事。生まれた時から肌が緑色で、自分でも制御できないほどの魔力を持ち、あらゆる者から疎まれてきたエルファバ。常に誤解されて生きる苦しみ、悲しみ、孤独をシンシア・エリヴォはその歌声、表情や仕草でしっかりと伝えている。歌声がパワフルなだけではなく、緩急をつけて観客を引き込んでいく、そのテクニックも冴え渡る。一方のグリンダは華やかで特権にも恵まれ、人気者として育ってきた。一見、薄っぺらいようだが、実は劣等感を抱え、他者への共感力もある女性をアリアナ・グランデは魅力的に体現。さらに、ポップ・ミュージックの印象が強いアリアナ・グランデが本作ではクラシカルな歌唱スタイルを披露。4オクターブの声域を生かしつつ、伸びやかで美しい歌声を響かせている。

 ふたりのデュエット曲は最大の見せ場と言っていい。タイプは違うが、それぞれ世の中を良くしたいと思っている女性ふたりが出会い、反発し、やがて違いを受け入れ、結びついていく様子に心が動かされること間違いなし。“ふたり”になってさらに輝くシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデに注目を。

『ウィキッド ふたりの魔女』

https://wicked-movie.jp/

2024年/アメリカ/161分

監督 ジョン・M・チュウ
出演 シンシア・エリヴォ アリアナ・グランデ ジョナサン・ベイリー イーサン・スレイター ミシェル・ヨー ジェフ・ゴールドブラム ほか
配給 東宝東和

※3月7日(金)より全国公開

©Universal Studios. All Rights Reserved.


ジャンルを超えて大胆に描かれる
<自分>を生きたいと願う女性たちの物語

 監督と脚本を担ったのは、『ゴールデン・リバー』(2018)などを手がけるフランス出身のジャック・オーディアール。男性優位社会で不遇の日々を送ってきた弁護士のリタ、男性の肉体から解放され本当の自分を取り戻したいと願うエミリア、麻薬王と恐れられた夫に逆らえず子育てにすべてを捧げてきたジェシー、夫のDVに心身共に傷つけられたエピファニア。それぞれの場所でもがきながら、幸せを求めて力強く生きようとする女性4人の姿を描いていく。

 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ(2014~)などで人気を博すゾーイ・サルダナがリタ役を、自身もトランスジェンダーのカルラ・ソフィア・ガスコンがエミリア役を、セレーナ・ゴメスがジェシー役を、アドリアーナ・パスがエピファニア役を担い、その演技のアンサンブルが高く評価され、第77回カンヌ国際映画祭の女優賞を4人で受賞。第97回アカデミー賞においては作品賞、主演女優賞、助演女優賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、作曲賞、歌曲賞、編集賞、音響賞、国際長編映画賞の12部門で13ノミネートを果たし、ゾーイ・サルダナが助演女優賞に輝いたほか、歌曲賞も獲得した。

 サスペンス×アクション×ミュージカル×ヒューマンドラマを掛け合わせつつ大胆に描く、<自分>を生きたいと願う女性たちの共鳴の物語がここに。

 サスペンス、アクション、ミュージカル、ヒューマンドラマの要素を巧妙に織り交ぜながら、罪と救済、愛と憎しみ、友情と裏切り、女性たちの連帯を描いていく。ストーリー展開に予定調和がない上、ミュージカル・シーンも独特でサプライズに満ちている。フランスの国民的シンガーであるカミーユが手がけたエモーショナルな楽曲と、『サスペリア』(2018)のダミアン・ジャレによるドラマティックな振り付けを、ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パスらがそれぞれの個性を放ちつつ披露。テクニック以上に心で伝える、印象深いミュージカル・シーンを作りあげている。

 どんな映画かを言葉で説明するのは難しいが、刺激的な映画であることは間違いない。創作者たちの気概を感じる1本に仕上がっている。

『エミリア・ペレス』

https://gaga.ne.jp/emiliaperez/

2024年/フランス/133分

監督・脚本 ジャック・オーディアール
出演 ゾーイ・サルダナ カルラ・ソフィア・ガスコン セレーナ・ゴメス アドリアーナ・パス ほか
配給 ギャガ
制作 サンローラン プロダクション by アンソニー・ヴァカレロ

※3月28日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開

©2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS - FRANCE 2 CINÉMA


ロビー・ウィリアムスが“サル”になる
世界的ポップスターの波乱に満ちた人生

 『グレイテスト・ショーマン』(2017)を手がけたマイケル・グレイシーが監督、共同脚本、プロデュースを務め、1990年代初頭にボーイズ・グループTAKE THATのメンバーとして一世を風靡し、グループ脱退後はソロのアーティストとして活躍するロビー・ウィリアムスの波乱に満ちた人生をミュージカル映画化。主人公ロビーを“サル”の姿で表現するという新しい映像表現を追求し、第97回アカデミー賞では視覚効果賞にノミネートされた。

 ロビー・ウィリアムス本人が映画に登場する楽曲を披露しているところをモーションキャプチャし、その表情や物腰、動きを主人公のキャラクターのベースに。さらに、アスマラ・フェイクとカーター・J・マーフィーが子ども時代のウィリアムスを、ジョノ・デイヴィスが成長したウィリアムスを演じ、それぞれモーションキャプチャ。マイケル・グレイシー監督と多くの仕事を共にしてきたデジタル・エフェクト社Weta FXがそのすべてを融合させ、CGIの“サル”というユニークな主人公を見事に作りあげた。

 さらに、『グレイテスト・ショーマン』でマイケル・グレイシー監督とタッグを組んだアシュリー・ウォレンが振り付けを担当。本作用に制作された楽曲『Forbidden Road』、ロビー・ウィリアムスのヒット曲の数々と、アシュリー・ウォレンのスケール感ある振り付けが組み合わさり、魅惑のミュージカル・シーンに仕上がっている。

 10代にして世界的スターとなった少年は愛されると同時に苦悩する。若くして人生の絶頂とどん底を経験した彼が見つけた答えとは──。

 世界的ポップスターを“サル”として描くというアイディアが肝。人間たちの間に“サル”がいれば、無条件で目が離せなくなってしまう。だいぶ浮いているとも言えるが、その感じこそ“スター”という存在を的確に表現していると思える。そして、“サル”がミュージカル・シーンを演じることで、シンプルに見た目がだいぶ面白い。スケール感ある演出は王道を往くが既視感はないという、なんとも不思議なものとなっている。

 “サル”は未熟な若者を体現しているようにも感じられる。より良い人間になっていこうとする、進化の途上にある主人公を“サル”として描くことは必然だったのではないかと思えるほどだ。

 奇想天外なアイディアを物語る手段としてしっかりと機能させたマイケル・グレイシー監督。ありそうでなかったミュージカル・エンタテインメントが誕生した。

『BETTER MAN/ベター・マン』

https://betterman-movie.jp

2024年/イギリス・アメリカ・中国・フランス・オーストラリア/136分/PG12

監督 マイケル・グレイシー
出演 ロビー・ウィリアムス(声の出演) ジョノ・デイヴィス スティーヴ・ペンバートン アリソン・ステッドマン ほか
配給 東和ピクチャーズ

※3月28日(金)より全国公開

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