CINEMA
活劇と情緒――今こそ、時代劇映画
活劇に胸を躍らせる『室町無頼』 情緒豊かな『雪の花 ―ともに在りて―』 今こそスクリーンで時代劇を
時代劇ドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』の世界的成功が引き金となって時代劇に追い風が吹く中、日本映画界でも時代劇が勢いを盛り返している。アウトロー活劇に胸を躍らせるもよし、人間の美しいあり方と情緒を味わうもよし。今こそスクリーンで時代劇を楽しみ、その魅力を再発見するひとときを。
世直し無頼軍団vs腐敗した権力者たち 史実から生まれた名もなき者たちの戦い
史実に基づく垣根涼介の歴史小説を原作に、『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』(2017)などを手がける入江悠が監督と脚本を、大泉洋が主演を務めて映画化。室町時代、大飢饉と疫病が同時に国を襲う中、八代将軍・足利義政をはじめとする時の権力者たちは庶民を見殺しにし、享楽の日々を過ごしていた。そんな腐りきった世の中を叩き直すべく、日本で初めて武士階級として一揆を起こした実在の人物・蓮田兵衛と仲間たちの戦いを描き出す。
大泉洋が主人公の蓮田兵衛に扮してカリスマ性と初挑戦の本格的な殺陣で魅了し、なにわ男子の長尾謙杜が兵衛に育てられる才蔵に扮し、特訓を経て圧巻の棒術を披露。さらに、兵衛の悪友にして宿敵となる骨皮道賢に堤真一。アクションに定評のある堤の切れ味の良い殺陣も必見だ。
混沌の世に現れた9人の無頼=アウトローvs幕府軍。その熱き戦いの結末やいかに。名もなき人々が自らの手で新しい時代を切り拓こうとする姿に奮い立つこと間違いない。
point of view
椿三十郎や木枯し紋次郎、座頭市といったアウトローのヒーローが世直しの剣を振るうというのは、時代劇では定番の筋書きのひとつ。本作もそのアウトロー活劇の系譜に連なる。大泉洋が演じる主人公の蓮田兵衛は、飄々とした自由人のようでその実は信念を持ち、世を正すためなら自らが捨て石になることもいとわない熱き侍。そんな彼の熱意は仲間のアウトローたち、腐りきった政治に怒りを抱く庶民を奮い立たせ、大きな波を起こしていく。
アクションの見せ方もアウトロー活劇の王道を往く。ピンチになると耳に残る劇絆と共に颯爽と現れるヒーローには、「待ってました!」と、歌舞伎の大向うさながらに声をかけたくなるほど。二刀流や棒術、弓術など、戦い方にはキャラクターそれぞれの特徴があり、見せ場はカメラワークで十分に引けつけつつ、格好良く見せてくれる。宿敵同士が兵刃を交える1on1もあれば、幕府軍vs怒りの庶民・浪人という数で圧倒する戦いもあり、飽きさせない。
真っ向勝負のアウトロー活劇は時代劇ファンだけではなく、時代劇ビギナーも楽しめるはず。入口の1本としておすすめのエンタメな作品に仕上がっている。
『室町無頼』
https://muromachi-outsiders.jp
2024年/日本/134分/PG-12
監督・脚本 | 岸 善幸 |
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脚本 | 入江 悠 |
原作 | 垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊) |
出演 | 大泉 洋 長尾謙杜 松本若菜 北村一輝 柄本 明 堤 真一 ほか |
配給 | 東映 |
※1月17日(金)より全国公開 / IMAX 先行公開中
© 2016 垣根涼介/新潮社 ©2025「室町無頼」製作委員会
未曾有の疫病から日本を救った町医者 知られざる実話、努力と愛の物語
吉村昭が1988年に著した小説『雪の花』を原作に、黒澤明の助監督を務め、自身の監督デビュー作『雨あがる』(2000)以来、一貫して人間の美しいあり方を描いてきた小泉堯史が監督を務めて映画化。江戸時代末期、福井藩に実在した町医者の笠原良策が天然痘の撲滅に奮闘する姿を、四季折々の風景と共に映していく。主人公の笠原良策を真っ直ぐに力強く演じるのは、『居眠り磐音』(2019)以来の時代劇となる松坂桃李。良策を導く京都の蘭方医・日野鼎哉を役所広司、妻の千穂を芳根京子、影響を与える大聖寺藩の町医者・大武了玄を吉岡秀隆、福井藩の藩医・半井元沖を三浦貴大が演じる。
無名の町医者は未曾有の疫病からどのように日本を救ったのか? その背景には、先の世を真剣に思う心と同志たちとの出会い、そして、夫婦の固い絆があった。今の日本を生きる人々も感じ入る、日本人の美しきあり方がここに。
point of view
小泉堯史監督が確かな力を持ったキャストたち、長きにわたって時代劇を支え続ける熟練のスタッフたちと共に作った本作。小泉監督の過去作同様にフィルムを採用し、カメラは固定しつつ、ワンシーンワンカットで撮影。この基本を大事にする撮り方は、無名の町医者のひたむきな姿を物語るのに最適の手法だと感じられる。フィルム特有の微細な揺らぎは主人公の町医者の心が揺らぐさまを際立たせ、フィックス&ワンシーンワンカットで演技巧者たちが繊細につける感情のグラデーションを余すことなく捉えている。結果、静かだけれど熱い人間ドラマといった印象に。
疫病の蔓延という、今の世界にも通じる危機の真っ只中にあり、こんなふうに行動した日本人がいたということ。主人公の一本気な生き方、彼を信じて支える人々のやさしさと強さを知るほどに、自分もこうありたいと思う人も多いはず。情緒とヒューマニティに満ちた時代劇の新たな秀作が誕生した。
『雪の花 ―ともに在りて―』
https://movies.shochiku.co.jp/yukinohana/
2024年/日本/117分
監督 | 小泉堯史 |
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原作 | 吉村 昭「雪の花」(新潮文庫刊) |
出演 | 松坂桃李 芳根京子 三浦貴大 宇野祥平 沖原一生 坂東龍汰/吉岡秀隆/役所広司 ほか |
配給 | 松竹 |
※1月24日(金)より全国公開
©2025 映画「雪の花」製作委員会