CINEMA
テーマ別:冬のドキュメンタリー映画
テーマ別にピックアップ この冬公開の良質なドキュメンタリー映画
映画というものへの愛が溢れるドキュメンタリー映画に、夢をひたむきに追いかける人々の姿に胸が熱くなるドキュメンタリー映画、日本と世界を知ることができるドキュメンタリー映画。2024年冬のスクリーンを彩る良質なドキュメンタリー映画を、3つのテーマに分けて紹介していく。
冬のドキュメンタリー映画part1<溢れる映画愛>
リュミエール兄弟が遺した作品集 50秒×110本が伝える映画の魅力
作品の紹介をする前に、まずは基礎知識。映画はフランスで誕生した。1895年、フランスのリヨンで写真乾版を作る会社を経営していた弟のルイと兄のオーギュストのリュミエール兄弟が、連続写真を投影できるシネマトグラフを開発。トーマス・エジソンによるキネトスコープなど“動いて見える連続写真”はそれ以前にもあったのだが、決定的な違いは、リュミエール兄弟のシネマトグラフはスクリーン上映を可能にしたこと。映画興行がこれによって始まったというわけだ。
リュミエール兄弟はシネマトグラフを開発したばかりではなく、1400本以上の作品を遺している。その中から厳選した映像を繋げて構成したドキュメンタリー映画『リュミエール!』(2016)は本国フランスのみならず世界各国で上映され、大成功を収めた。『リュミエール!リュミエール!』はその続編。前作に続き、リュミエール研究所長であるティエリー・フレモーが脚本、編集、プロデュース、ナレーションを担い、リュミエール兄弟が遺した作品の中から110本を厳選し、完璧な修復を施した上で繋げ、解説していく。1本あたり50秒の連なりに映し出されるのは、130年ほど前の世界の街並みとそこに息づく文化、人々の暮らし。歴史を目撃できることに胸が躍るだけではなく、それぞれの作品に取り入れられた撮影テクニックや演出にも感嘆。改めて、映画の楽しさを伝えるドキュメンタリーに仕上がっている。
前作よりも深く一つひとつの作品を考察できる構成になっている。その作品の歴史的価値だけではなく、芸術的な意図や映画的視点についても解説され、興味深い。例えば、世界で初めて有料上映された『工場の出口』。タイトル通り、工場の出口から出てくる従業員たちの姿を映したものだが、実はこの作品には3つのバージョンがあり、そのすべてを本作において観ることができる。ただありのままを記録したものだと思っていたが、実はより印象的な映像になるよう演出を施していたことを知り、驚いた。題材、フレーム、ショットの組み合わせ次第で伝わるものはまるで違うのだと、当初から気づいていたリュミエール兄弟に改めて感嘆する。リュミエール兄弟は、映画は芸術と娯楽の新しい形だと最初から気づいていたわけだ。発明家であり、最高の芸術家だったリュミエール兄弟の手腕を深く味わいたい。
『リュミエール!リュミエール!』
2024年/フランス/105分
監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーション | ティエリー・フレモー(リュミエール研究所所長、カンヌ国際映画祭総代表) |
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配給 | ギャガ |
※11月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国公開
©Institut Lumière 2024
鉄鋼の町の住人たちの生活に寄り添う 名匠アキ・カウリスマキが作った映画館
『パラダイスの夕暮れ』(1986)、『真夜中の虹』(1988)、『マッチ工場の少女』(1990)、『枯れ葉』(2023)からなる労働者4部作などで知られるアキ・カウリスマキ監督。世界中の映画ファンに愛されるフィンランドの名匠が、作家で詩人のミカ・ラッティと共に、フィンランドの鉄鋼の町カルッキラに映画館を作った。深い森と湖と、今では使われなくなった鋳物工場だけがある小さな町に、初めての映画館を。クロアチアの美術家で映画監督のヴェリコ・ヴィダクが監督、脚本、撮影、編集を担い、アキ・カウリスマキ監督と仲間たちが自らの手で客席を設置し、スクリーンを張り、映画館を作り上げていくその様子を追いながら、映画、あるいは映画館について人々が語る様子を映していく。カウリスマキ作品でおなじみの俳優やスタッフたちのほか、盟友ジム・ジャームッシュも登場。シネマコンプレックスもいいけれど、町の映画館はやはりいい。普段の暮らしの中で豊かな文化に触れられること、その幸せを伝える1本がここに。
現代ではあるが、どこか懐かしい町並み。まるでカウリスマキの映画から抜け出してきたようなカルッキラの町で、とぼけたユーモアと芸術を愛する心を持った住人たちは新しくできる映画館への期待に胸を膨らませ、思い思いに映画について、映画館について語り始める。映画とは芸術と生活の間にある何かなのだろう。そして映画館は生活と隣り合わせにあるのがいちばんなのだろう。彼らの話を聞いていると自然とそう思えてくる。
世界的名匠カウリスマキの理想の映画館キノ・ライカには、映画を上映できるスペースだけではなく、ワインバーや川沿いのテラスも併設されている。音楽ライブやアートの展覧会も行うなど、複合文化施設としての役割も担っているという。こんな町の映画館こそ、今求められているものかもしれない。映画とは何か、映画館とは何かという問いに対する答えだけではなく、これからの映画館の可能性も提示するドキュメンタリーが生まれた。
『キノ・ライカ 小さな町の映画館』
http://eurospace.co.jp/KinoLaika/
2023年/フランス・フィンランド/81分
監督・脚本・撮影・編集 | ヴェリコ・ヴィダク |
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脚本 | エマニュエル・フェルチェ |
出演 | アキ・カウリスマキ ミカ・ラッティ カルッキラの住人たち ジム・ジャームッシュ ほか |
配給 | ユーロスペース |
※12月14日(土)よりユーロスペースほかにて全国順次公開
©43eParallele