FLYING POSTMAN PRESS

内山拓也×磯村勇斗、同い年の共闘

台詞だけれど、台詞ではないみたいに

──内山監督は磯村さんの想像力を信じ、彩人役を託したとおっしゃいました。結果はいかがでしょう。磯村さんの想像力によってより豊かになったと思うシーンは?

内山 彩人と弟の壮平(福山翔大)がふたりでカラオケバーの前で佇み、言葉を交わすシーンがあります。この映画は兄弟の話、家族の話ではありますが、兄弟の彩人と壮平が映画の中でほぼ対峙しない描き方が重要だと思っていました。そのカラオケバーの前のシーンは、ふたりがちゃんと対峙するほぼ初めてのシーンだったんです。そこで彩人は、父親から受け継いだ言葉を吐き出します。「この世のあらゆる暴力から自分の範囲を守るんだよ」と。この台詞は映画の中では重きが置かれたものでした。現場でも流れを見ながら脚本を変えることは多々ありましたが、あの台詞はずっとそのまま置いておいた。脚本を書いている時からかなり強い言葉だと感じていて、流れに合わない場合はカットしなきゃいけない可能性もあると思いながらも、ずっと置いておいたものなんです。そのシーンの磯村さんの感情の置き方が素晴らしくて。よくあの形で、あの目線で、あの台詞を残したなと。誰にでもできる台詞の残し方ではないと思いました。磯村さんはあの台詞を台詞にしなかった。いや、台詞なんですが、あたかも台詞じゃないみたいに吐き出した。磯村さんが話していたアプローチからああいう表現が生まれたんでしょうね。本当に素晴らしいと思いました。

──磯村さんはいかがでしょう。今回の映画を通じ、映画作家としての内山さんの特質はどんなものだと感じましたか。

磯村 すべてにおいて嘘がないですよね。脚本に書かれたすべての言葉、シーンの組み立て方も含めて嘘がない。だからと言ってストレートでチープなものになっているわけでもなくて。嘘がないんですが、同時にしっかりと練られ、丁寧に物語が組み立てられているんです。もうひとつ言うと、内山さんご本人の話す言葉、準備を尽くす姿勢にもまったく嘘がない。ここまで丁寧に細かく準備し、あらゆることを調べた上で現場を動かす映画監督はちょっといないんじゃないかというぐらいです。だからこそこういう映画が作れる、そして役者陣やスタッフが付いていくんだと思いました。

──“面白いものができそう”という予感は的中したのでは?

磯村 そうですね。観てくださるみなさんがどう思うか、そこは公開されてみないとわかりませんが、少なくとも内山監督やみんなと一緒に最後まで闘いましたから。自分としては自信を持って届けられる映画だなと思っています。

──内山監督はいかがでしょう。磯村さんと一緒に闘ったという感覚はありますか。

内山 磯村さんは本当に彩人として現場に立ってくれて、その姿こそが“若き見知らぬ者たち”だったなと。またそういう思いが現場のみんなに伝播していった。チームとして素晴らしい時間を持てたと思っています。