CINEMASPECIAL ISSUE
内山拓也×磯村勇斗、同い年の共闘
闘う人々の映画『若き見知らぬ者たち』 内山拓也監督と磯村勇斗が闘った日々
『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で高い評価を受けた内山拓也監督の商業長編デビュー作『若き見知らぬ者たち』が、10月11日(金)より公開される。登場するのは、自身が背負ったものの重さと虚しさに飲み込まれながらも懸命に生きようとする青年と、彼と共に生きる人々。自身が信じるべきものを信じるために闘う“名もなき者たち”の叫びが余韻となる、そんな映画だ。
本作で主人公の彩人を演じたのは磯村勇斗。内山監督と磯村はいずれも1992年生まれ。同い年の映画監督と俳優は本作の撮影を振り返り、「一緒に闘った」と口を揃える。共闘する中で、互いをどう見ていたのだろうか。
写真:徳田洋平 スタイリング:笠井時夢 ヘアスタイリング&メイクアップ:佐藤友勝 取材・文:佐藤ちほ 磯村勇斗分衣装協力:カーディガン 79200円(セファ/問い合わせ:サカス ピーアール/03-6447-2762) そのほかスタイリスト私物
誰もが準備を尽くして臨んだ
──映画『若き見知らぬ者たち』では、理不尽にまみれながらも懸命に生きようとする“名もなき者たち”の姿が描かれます。その着想はどんなところにあったのでしょうか。
内山 生きているといろんなことが起こり、怒ったり、嘆いたりと、そういう感情に苛まれる瞬間があると思うんです。ただ、そういう感情ばかり抱えていたら前を向けないともわかっている。生きていく上では、そういう感情から解放されないととても生きづらい。とは言え、“前を向こう”というメッセージをこの映画で伝えようとはしていません。そもそも僕は映画を作る時、テーマを持たないことを重視しています。観客が自由に感じられる、余白の豊かさみたいなものが映画にはあると思っていて、手法が物語を追い越していくような映画は僕自身、得意ではありません。何より、キャラクターが重要で、キャラクターが物語を動かしていった結果、今回の映画のように今の社会と結び付くこともある、というだけなんです。社会派と呼ばれる映画があると思いますが、僕自身は社会派というものは自分から突き詰めるものではないと思っています。あくまで、描く物語の中に社会がきちんとあるかどうか、ということだと思います。
──磯村さんは本作の主人公・彩人を演じていますが、オファーを受けた際にはどう感じましたか。
磯村 まずは内山監督とご一緒できること、そこに面白みを感じました。内山監督とは同い年で、同世代で映画を作るっていいなとシンプルに思えたんです。そして何より、ものすごく心が動かされる脚本だった。読みながら“こんなにも報われないことがあるんだ”と、すごく腹が立ってしまって。例えそれがどんな感情であっても、脚本を読んで心が動くことは僕にとって大切なことなんです。内山監督が書いた物語に心を動かされ、“この映画に挑戦したら自分はどう変われるんだろう? この映画を世に届ける手助けができたらいいな”と、純粋に思えた。直感に近かったですね。脚本を読んですぐに「やりたいです」とお答えして。面白いものができそうだという予感がありました。
内山 僕が磯村さんに彩人役をお願いしたのも、直感と言えば直感です。彼とは会ったことはあったんですが、ちゃんと話したことはなかった。でも直感で彼になら彩人を託せると思いました。僕が映画を作る時に大切にしているのは想像力を持つことです。映画に豊かな余白を持たせることが彼と一緒だったらできるんじゃないかと。また彩人は、仮に物語の中でいなくなったとしてもずっとい続けないといけない、という存在です。彼だったらそれができると思いました。
──磯村さんは彩人という人物にどうアプローチしていったのでしょうか。
磯村 脚本を読んで彩人の不自由さを感じていて。“不自由な状態”を作っておく必要がある、もっと言うと衣食住が満たされていない環境を作っておく必要があると思い、そこからアプローチしていきました。そして、彩人は病気の母親を介護しているという設定なので、同じ状況に置かれている人の話を聞き、その状況がどれだけ心と体に負担があるのか、どれだけストレスがかかるのかというところを知っておく必要があるなと。実際に介護経験のある方の話を聞くと、自分が介護する人を捨てて逃げたくなったり、自分が死にたくなったりした時もあったと。死を選ばなかったのはどうしてかと僕がお聞きすると、大切な存在がいて、その人がいたから死ぬことができなかったのだと。その答えを聞き、多分、こういうことは彩人にもあるんじゃないかと思いました。ここは大切にしたいところだと思いましたね。あとは現場でどう感じるのか、というところでした。彩人の母親役の霧島(れいか)さんと現場でお会いした時、霧島さんが作ってこられた状態があまりにすごくて。僕としてはただ、霧島さんの演技を受けるだけで良かった。霧島さんに限らず、スタッフもキャストも全員が準備を尽くして現場に臨んでいた。そういうものの集合体でこの映画は作られた気がします。