FLYING POSTMAN PRESS

A24が贈るディストピア・アクション

もし今、アメリカで内戦が起きたら
迫真、戦慄――世界最大国家の終焉

 連邦政府から19の州が離脱し、テキサス・カリフォルニア同盟からなる西部勢力vs政府軍の内戦が続くアメリカ。独裁的な大統領にインタビューするため、ジャーナリストチームはホワイトハウスへ。戦地を往く中、彼らは戦争の恐怖と狂気にのみ込まれていく。

 アメリカ合衆国で南北戦争(CIVIL WAR)が始まったのは1861年4月12日。その163年後の2024年の同日に、北米でその内戦の名を冠する映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が公開され、ヒットを記録。A24がスタジオ史上最大の製作費を投じ、『エクス・マキナ』(2015)などを手がけるイギリスの鬼才アレックス・ガーランドが監督・脚本を担い、新境地となるアクションでも手腕を発揮する。

 国家崩壊を前にタフな心が蝕まれていく戦場カメラマンのリーを演じるのは、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)で第94回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたキルステン・ダンスト。そんなリーとは対照的に、内戦の最中で飛躍的に成長していく新人戦場カメラマンのジェシーを演じるのは、『プリシラ』(2023)で第80回ヴェネツィア国際映画祭最優秀女優賞を受賞したケイリー・スピーニー。さらに、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンら実力派がメインキャストに名を連ねる。

 戦争をゼロ距離で観客に体感させるビジュアルとサウンド・デザイン、鋭い洞察により描き出す戦争の最中の人間のありよう。大統領選挙を目前に控えるアメリカ合衆国のみならず、世界中で社会の分断がかつてないほど深刻になっている今、観て何を思うのか。この国家崩壊のシナリオは決して他人事ではない。これは虚構か、それとも黙示録か――。


point of view

 あまりのリアルさにこれ以上ないほど没入し、震え上がった。手持ちカメラで捉えたゼロ距離の戦争は生々しく、従軍カメラマンによる記録映像を観ているかのよう。ド派手な弾着(※弾丸が当たったことを表現する演出手法)もなければ、過剰に血しぶきが舞うようなこともない。攻撃を受けて生命活動を止めた人間は、ドサッとその場に倒れて動かなくなるだけ。血は時間を置いて地面に流れ出て、静かに、でもこれ以上ないほど明確に“死”を実感させる。さらに、銃器や爆弾が使用された際の閃光と発射音のすさまじさと言ったらない。観ながら思わずビクッと体をすくめ、ショック状態に陥ってしまうほどだ。

 人間描写もとてつもなくリアルだ。戦争の最中にあって偏見と憎悪は歯止めが効かなくなり、簡単に暴力に繋がり、その場で最も弱い者たちを追い詰めることになる。それぞれの立場を慮り、話し合って解決しようとする者はなく、ジャーナリズムも無意味なものに。自己愛に走る独裁者、目と鼻の先で死闘が繰り広げられているというのに無関心を貫く人々の姿も映し出される。

 異なる意見や事情を持った者同士が相手側の意見に耳を貸さず、それぞれ信じたいことだけを信じ、突き進んだら確かにこうなってしまうだろう。フィクション映画を観ているはずなのに、少し先の世界を記録した映像を観ているように思えるのが心底恐ろしい。

 アレックス・ガーランド監督が映画を通して今の世界に警鐘を鳴らす。ぜひ映像と音の環境が整った映画館で、衝撃の映画体験と共に受け止めたい。


『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/

2024年/アメリカ・イギリス/109分/PG-12

監督・脚本 アレックス・ガーランド
出演 キルステン・ダンスト ワグネル・モウラ スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン ケイリー・スピーニー ほか
配給 ハピネットファントム・スタジオ

※10月4日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷ほかにて全国公開

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