FLYING POSTMAN PRESS

TOOBOEの楽曲制作の裏側を覗く

人生の大半は自分の曲を聴いている

──一つひとつの楽曲がどのように完成していくのか、制作の裏側をお聞きしていきたいのですが。

TOOBOE 僕は曲と歌詞がほぼいっぺんに出る感じなんですが、原作のある作品の曲であれば先に原作を読み込んで、提供曲だったら相手の話を聞いて、使えそうな単語など、いっぱいメモを取ります。ただ作品のあらすじを作詞するのではなく、自分に依頼された意味が絶対にあるはずなので、自分がもし主人公ならこういうところは同じことをするけどここは違うなとか、作品の深いところをすくい上げる作業をしていきます。原作を知らない人が聴いてもちゃんと本質が伝わるというのは目指しています。

──そういった考えを深めていく準備段階と実際に音作りをする段階と、時間の割合はどれくらいですか?

TOOBOE 考える時間のほうが圧倒的に長いです。作るのは、うまくいけば何時間かでワンコーラスはできるので、もちろん全然生まれなくて「ダメだ」ってデータを消しちゃう時もあるんですけど、音作りに取り掛かるまではめちゃくちゃ長いです。その間に原作を読んだり、ノンタイアップであれば、映画を観たりいろんな曲を聴いたりして、“こういうのがいいな”って思いついたらパソコンの前に座って吐き出す、という感じです。

──パソコンの前に座るまでは、日常生活を送りながら?

TOOBOE そうですね、散歩したり温泉に行ったり、ベッドでゴロゴロしながらYouTubeを観ていろんな曲を探したり、日常を過ごしながら頭の隅で考えています。納期もあるし、わりとすっと出る時はいいんですけど、出ない時は本当に出なくて。例えばAメロBメロは浮かんだんだけどサビがピンとこないという状態になった時に、全部消して作り直すか、良いサビが出るまでトライするかのジャッジも必要になってくるので。作り直したほうが早いということもあるし、そのジャッジを迷っていると納期がきちゃうという極限の状態なことも結構あります。

──迷った時、誰かに聴いてもらったりすることは?

TOOBOE いや、その状態ではないですね。やっぱりワンコーラスはできあがらないと聴かさないです。サビのパターンAとBがあったら一度仮で録って、一回寝て脳みそをリセットさせて、次の日に散歩しながら2パターンを聴きまくるんです。どっちがいいかなって。どっちもないなと思ったら家に帰ってもう一度作り直します。

──そこまでは完全にひとりで向き合う時間なんですね。これで完成、というジャッジも難しいでしょうし…。

TOOBOE 今のところはひとりですね。判断は難しいです。妥協的に“これでいいや”と書き出して完成したものが何日か聴いていたら良くなってくることもあるし。僕の場合はいっぱい作って何日か聴いていたら聴かなくなっていく曲とずっと聴いていられる曲に分かれるので、聴いていられる曲のほうを選んでいます。

──なるほど。ご自身でモニターテストしている感じなんですね。

TOOBOE 本当、人生の大半は自分の曲をずっと聴いています。リリースされた先の評価はあまり気にしないようにしているんですが、やっぱり出すまでは、当然ですが良いものであってほしいと思うので。だからミックスが終わってできあがってからも納期ギリギリまで直したりしています。

──音楽以外のことでも同じようなこだわりって持っていらっしゃいますか?

TOOBOE あー…全然ないですね(笑)。ほかはめっちゃルーズだと思います。例えば服も古着は好きですけど、結構合理的な性格なので、あまり服に時間はかけたくないから1種類で済むなら1種類にしたいみたいな願望もありますし。もっと言えば曲の制作でも提供曲についてはその人のタイミングや事情があると思うので、相手に寄り添って僕の自我は出さないようにしています。その人が歌うことで完成するようにしている感じですね。

──制作の一方でライブなどで表舞台に立つ場面も増えていますが、こちらは別軸で捉えていますか?

TOOBOE 完全に別です。このふたつはまったく適性が違うので、ライブやイベントについては場数を踏みながら少しずつ慣れていっている感じです。セトリを考えたり曲と曲の間をこうしようなどと考えるところまでは作り手の意識でいるんですが、ステージに出る時だけは、そういうのを全部無視して、クリエイターというよりはアクター寄りのメンタルに切り替えるようにしています。

──役を演じているみたいな感覚ですか?

TOOBOE ほぼ自分の素ではあるんですが、俯瞰で見た時に“TOOBOEという人にはこういうライブをしていてほしいな”というのをもうひとりのプロデューサーの自分に見せているような意識があります。去年あたりまではステージに出て間違えないようにするのが限界だったんですが、コロナ禍が明けて声出しができるようになって、僕らが考えたステージの展開にちゃんと盛り上がるリアクションをもらえるようになり、最近はどうすればお客さんが喜んでくれるかを考えるようになりました。