FLYING POSTMAN PRESS

ポール・マッカートニーの写真展へ

ポール・マッカートニー撮影の
未公開プライベート写真約250点を公開

 2020年、ポール・マッカートニーが35mmフィルムのカメラで撮影した1000枚にも及ぶ大量の写真が、ボール個人のアーカイブから発見された。撮影されたのは、1963年12月から1964年2月まで。1962年にデビューし、瞬く間にスターダムを駆け上がったザ・ビートルズ絶頂期に撮影されたものだった。

 現在、六本木の東京シティビューで開催されている『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~』では、そんなポール自身が撮影した写真はもちろん、これまでプリント化されてこなかった貴重な写真を含む約250点が展示されている。

 本展の開催にあたり、ポールはこのように語っている。 「もともとは、タイトルを考えながら 『Eye of the Storm』(嵐の目)がいいなと思ったんだ。単数形でね、なぜならビートルズは自らが作り出した嵐の目の中にいて、その中心にいたからね。でも写真を見ているうちに、これはむしろ(複数形の) 『Eyes of the Storm』(嵐の中のいくつもの目)だなと思った。なぜなら僕らが嵐の中心にいた瞬間は一度だけじゃなくて、何度もあったからさ」

 嵐の中でどのような景色が見えていたのか。その景色を覗きに展覧会へ足を運んだ。


展示風景


“嵐の中”から見える景色

 展示写真には、1963年秋のイギリス・ツアーに始まり、1964年1月フランス・パリのオランピア劇場での公演時、同年2月アメリカ・ワシントンD.Cでのテレビ番組『エド・サリバンショー』への出演時の様子、それらの合間を縫って行われた雑誌撮影や現場から次の現場への長い移動、メディアに追い回される様子などが写し出されている。この間、パリ滞在時には『I Want To Hold Your Hand』がバンド初の全米No.1を獲得。まだ20代前半だったジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人が世界を席巻した、まさに激動の時期だった。

 絶叫するファンから離れた楽屋でくつろぐメンバーに、ジョージの母親のあたたかな眼差し、ポールの恋人となった女優ジェーン・アッシャーの実家で過ごすひととき…。家族や恋人、マネージャーといったあたたかな人の存在があり、互いに心を許したメンバーの4人だからこそ、この激動期にザ・ビートルズがザ・ビートルズたりえたことがうかがえる。本展の音声ガイドはポール自身が担当し、展示写真にも随所にポールのコメントが添えられている。車中のジョンを写したものには、「この写真の親密さが大好きだ。僕らは固い絆で結ばれたグループだったから、僕らだけが、こういう写真を撮ることができた」とコメント。ポール本人の言葉が背景にある思いや当時の様子を伝え、“嵐の中”からしか見えない景色の数々が、よりいっそう胸に迫ってくる。




展示風景
「僕らはふざけることで正気を保っていた。クリスマス・ショーでたまたま帽子がふたつ転がっていたんだけど、それを見たジョージが、ふたつ重ねて被ると面白いよと言い出した。なるほど、とてもいい写真が撮れたよ」
「僕らのマネージャー、ブライアン・エプスタイン。僕らは彼を『ミスター・エプスタイン』と呼んでいた。そして僕らの行儀を正すことができるのは彼だけだった」
―ポール・マッカートニー


リバプール出身の4人の若者

 ザ・ビートルズの当時の行動を辿ると、スケジュールのあまりの過密さと世間の熱狂ぶりに、メンバーはさぞかし神経をすり減らし、体力的にも追い込まれていただろうと想像がつく。だが、ポールの写真にはその想像とは正反対の姿が写っていることに驚いてしまう。

 どの写真にも、出会う人、初めて足を踏み入れる街に対する純粋な感動とひらめき、その時々を楽しもうとする若さが溢れている。そこに写っているのは世界を熱狂させたザ・ビートルズであると同時に、初めて見る世界に胸を踊らせるリバプール出身の4人の若者の姿だ。その実態は本人たちしか知りようがないが、少なくとも、本展の写真には、ポールの言葉が添えられ、自身がどんな感覚でいたのか、それが目に見える形で表現されている。

「僕らはまさしく世界に驚き、僕らの生活を取り巻くこの些細なできごとのすべてに、ただ胸を躍らせていた。僕らは、自分たちがやっていること、そして自分たちに起こっていることに魅了されていた。その感覚は今でも失われていない。あの不思議な感覚はずっと心に残っている」。

 ポールが撮ったパリ滞在時の写真には、世界を虜にした歌姫シルヴィ・ヴァンタンが写っていたかと思うと、観光客のひとりとしてこの街を楽しむジョンの姿も写っている。写真を眺めていくと、彼らが抱いていた不思議な感覚が少しわかるかもしれない。


展示風景
「振り返ってみると、ワォ! 僕らはよくやったなと思う。僕らはリバプールのただのガキだったのにね。それがほら、この写真に写っているよ。ねえ、ジョンはなんてカッコよくキメているんだろう? ジョージはなんてハンサムなんだろう、変なフランス帽を被ったリンゴはなんてクールなんだろう?とかね」
―ポール・マッカートニー


尽きせぬ好奇心と創造性

 ニューヨークの警備員や、電車の操車場の前にいる男性。ポールのレンズはその街で生きる人々にまで向けられている。写真からは、ポールの好奇心と、感性の鋭さが伝わり、彼はやはりクリエイターなのだと再認識する。

 ポールの写真への興味は、幼少期に家族で初めてカメラを買い求めたことから持ち始めたものだという。その後、ティーンエイジャーになると先駆的なフォトジャーナリストの写真を含め、戦前とは一変したポピュラー・カルチャーや写真表現に触れ感性を養った。写真への関心を共有することになった弟とは、試行錯誤しながらポートレートも共同制作し、ザ・ビートルズとして活動する中では、身近にいたプロのカメラマンたちの技術から学び取り入れていったという。

 本展では写真だけでなく、1964年2月のマイアミ旅行を紹介するフォトフィルムも上映されている。これは、本展の準備を進める中でポールが新たなインスピレーションを得て制作した映像作品であり、最新技術を用いて静止画の写真を動いて見えるようにしている。さらに、2007年の楽曲『222』を再解釈し、アレンジしたものをこのフォトアルバムで使用しているから見逃せない。1963〜1964年の当時を振り返り、行く先々で「興味をそそるショット、アングル、照明、構図を探していた」と語るポール。その好奇心と創造性は今も尽きることはないようだ。




展示風景
「僕はこういったニューヨークの警察のポートレートが好きだ。僕らが毎日、気がついていた友好的で好奇心旺盛なまなざしを記録している」
―ポール・マッカートニー


家族・友人とアルバムをめくるようなひととき

 写真を観ていくと、まるで家のリビングで愛する家族・友人たちと談笑しながらアルバムをめくっているような気持ちになる。それだけ写真1枚1枚に深い愛情と親しみを感じるのだ。写真には所々、赤い×印やチェックマークが入っている。これはポール自身がお気に入りのものに印を付けたのだという。そのチェックマークに、写真に写ったくつろぎきった笑顔に、何気ない表情に、メンバー同士はもちろん、ザ・ビートルズを間近で支えていた人々とメンバーとの信頼関係と愛情、絆が表れている。

 展覧会で目にした写真のすべてを覚えておくことはできないかもしれない。けれども、会場全体に溢れる家族愛のようなあたたかな空気と、写真を観て感じる幸せな気持ちは、ずっと心に残り続けるに違いない。


展示風景

対訳:プロデュース・センター
© 1964 Paul McCartney under exclusive license to MPL Archive LLP


「ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~」
会場 東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
会期 2024年7月19日(金)~9月24日(火)
開館時間 10:00~19:00 ※金・土曜は~20:00
主催 フジテレビジョン/東京シティビュー/キョードー東京