FLYING POSTMAN PRESS

石山蓮華が“言葉”に求めるリアリティ

いかに嘘なく、理性を手離さず書くか

──最後は<書き言葉>についてです。今日は蓮華さんがお好きな本を6冊お持ちいただきました。選出の基準から聞かせていただけますか。

石山 今回は3つのテーマで選んできました。まずはエッセイ要素のある2冊。私はエッセイが好きで、本屋に行くとエッセイの棚を見に行きます。人の生活に触れられて、読みやすいのが好きなんです。

『奇貨』沙東すず(自費出版)
「昆虫大学」学長の沙東すずさんが、自身の失恋について書いたエッセイです。作者にとって、その時書かざるを得ないことを“書くぞ”という強い決心に引き込まれます。人と出会い、生きていくことの高揚と苦痛にありありと触れさせてもらうようで、読み終える頃には私までパワーをもらっていました。

『去年の今日』長島有里枝(講談社)
これはエッセイではなく、連作小説集です。主人公が大切に飼っていた愛犬を亡くしたことから物語が展開します。家族同士の力関係や愛情、そしてジェンダーへの洞察が細やかに描かれ、章ごとに語り手が変わっていくのですが、それぞれの人物の生活をそっと見守っている気分になります。私自身は家族にどう甘えているか、どう関わっているか振り返りたくなります。

石山 そして次の2冊は「世界とのずれ」といったところで繋がる本です。

『あらゆることは今起こる』柴崎友香(医学書院)
例えば他人からはぼーっとしているように見えても、頭の中ではいろんなことが一度に起き、はっと気がついた時には自分と世界がずれているような感覚や経験について、ADHDと診断された小説家の柴崎友香さんによって描かれています。発達障害の研究者が書いた本や、当事者の本を読むと、世界の感じ方も人の数だけあるのだと感じます。

『薔薇だって書けるよ』売野機子(白泉社)
信頼する友人から「きっと好きだと思う」とおすすめしてもらいました。こちらは短編集で、表題作『薔薇だって書けるよ』には、高校にも通っていない、家事も一切できない16歳の女の子が登場します。年上の男性が彼女にひと目惚れしたことをきっかけに結婚生活がスタートするのですが、ある事件が起こります。おとぎ話のように美しくも力強さのある物語で、絵も繊細で素晴らしいんです。人とどう一緒に生きられるか、そして自分自身の理解の大切さが見えてきます。

石山 最後はいよいよ上演される舞台『BIRTHDAY』にも繋がる2冊を。

『肉体のジェンダーを笑うな』山崎ナオコーラ(集英社)
こちらも短編集です。タイトル通り、肉体のジェンダーがテーマになっています。どのお話も非常に面白いのですが、『BIRTHDAY』の稽古場で話題になったのが『父乳の夢』という一編です。これはお父さんが、母乳ならぬ “父乳”を赤ちゃんに授乳する物語です。『BIRTHDAY』もそうですが、肉体のジェンダーと捉えられていることを物語を通して解体するような作品に興味があります。

『入院する前に知っておきたい 新・差額ベッド料Q&A』ささえあい医療人権センターCOML編(岩波書店)
昨年私が婦人科の持病で手術を受けて入院した時に、病院から「差額ベッド代1泊7万」と言われて読んだ本です。“黙っていたらこれは個室に入れられるぞ、絶対に大部屋にしたい!”と思って急いで読み、差額を支払わずに済みました。差額ベッド代に震えている人はぜひ読んでほしいと思います。

──ありがとうございます。ここまで<台詞><話し言葉><書き言葉>を軸に、蓮華さんが言葉とどう向き合っているかをお聞きしてきましたが、最後にご自身がエッセイなど文章を書く時に意識していることを聞かせてください。

石山 エッセイなど文章を書く時は、どれだけ嘘なく、でも理性を手離さずに書けるかだと思っています。どうしても“こう見られたい”という思いが強くなって、格好つけたりエモーショナルに書いたりしてしまいがちなので、そんな時は1日置いて読み返して、直します。あまり機嫌が良くない時に書くとダークな視点からしか見られていなかったりするので、後日ガラッと書き換えることもあります。常に面白い文章を書きたいとは思っているのですが、自分の文章が面白いかどうかは本当にわからないですね(笑)。


石山蓮華(いしやま れんげ)

1992年生まれ、埼玉県出身。電線愛好家・文筆家・俳優。TBS ラジオ「こねくと」(毎週月~木曜日14:00 ~17:30放送)でメインパーソナリティ。日本電線工業会公認「電線アンバサダー」としても活動。著書に『犬もどき読書日記』(晶文社)、『電線の恋人』(平凡社)

本多劇場グループ×海外戯曲シリーズ第4弾
『BIRTHDAY』
原作 Joe Penhall
翻訳 小田島創志
演出 大澤遊
出演 阿岐之将一 宮菜穂子 山崎静代 石山蓮華

※7/24(水)〜30(火) 東京・新宿シアタートップスにて上演

チケット発売中。詳しくは公式サイトにて
https://www.honda-geki.com/birthday

TBSラジオ「こねくと」

毎週月曜日~木曜日14:00〜17:30放送中
今日を明日にこねくとするための勇気や活力、ワクワクする情報が得られる日常伴走系バラエティ
https://www.tbsradio.jp/cnt/

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締切:8月10日(土)