FLYING POSTMAN PRESS

石山蓮華が“言葉”に求めるリアリティ

男性が妊娠!? 舞台『BIRTHDAY』の 戯曲が持つ面白さを石山蓮華に聞く

 7/24から始まる舞台『BIRTHDAY』がなんだか面白そうだ。舞台は、人員不足に悩むイギリスのNHS(国民保険サービス)の病院。男性が妊娠出産するという選択をしたある夫婦と病院スタッフの会話を通し、医療現場が抱える問題や白人ミドルクラスによる人種差別、男性目線で作られた社会の問題が浮き彫りになる、皮肉の効いたコメディ。4人芝居で、会話で魅せる部分が大きいだけに、キャスト陣は台詞への理解を深めてきたという。

 ところで石山蓮華と言えば、電線愛好家としても知られ、自身が著したエッセイ『電線の恋人』ではその独特の感性もフルで発揮している。さらに2023年4月からはTBSラジオ「こねくと」のメインパーソナリティを務めるなど、話すプロフェッショナルという一面も。<台詞><書き言葉><話し言葉>、彼女はそれぞれの言葉をどう捉えているのだろうか。

ヘアスタイリング&メイクアップ:白銀一太(TENT MANAGEMENT) 取材・文:俵本美奈
撮影に使用した書籍はすべて石山さん私物



台詞の理解を深め、リアリティを追求

──まずは7月24日(水)〜30(火)上演の『BIRTHDAY』について聞かせてください。

石山蓮華(以下:石山) 原作はイギリスの劇作家ジョー・ペンホールが書いた戯曲で、小田島創志さんが翻訳しています。税金で運営されているNHS(国民保険サービス)管理下の病院に、ある夫婦の夫・エドが妊娠して入院していて、まさに出産目前というところから始まります。この夫婦に子どもが産まれるのはふたり目。ひとり目は奥さんのリサが出産しているのですが、病院はスタッフ不足の状況で、エドは無事出産できるのか…というお話です。

──男性も妊娠出産できる社会という近未来のSFのような設定でありながら、現代の社会がリアルに描かれているのが興味深いです。

石山 そうなんです。テーマは男性の出産なのですが、浮かび上がってくるのは現実社会の状況です。男性が出産をするというのは今のところありえないことですが、この先技術が進んでもしそれが可能になった時に、出産する人が抱えている痛みが周りにどのように捉えられるか、妊娠している体が社会からどう見られるかといったところなど、綿密に描かれています。同じ主張をするにも、男性が言うのと女性が言うのとでは受け取る側の印象も違ったりするんです。

──稽古の最初は台本の解釈から始まったとお聞きしました。

石山 しばらくは毎日台本を1行1行読んで、言葉の意味だったり、なぜこの役がこの台詞を言ったのかといったことを演出の大澤遊さんはじめ、カンパニーみんなで確認していきました。例えば男性が妊娠するとしたら、人工子宮はおなかのどのあたりに置くんだろうとか、そうするとほかの臓器はどうやって動くのかといったシミュレーションもしたり。エド役の阿岐之将一さんは、妊娠している役なので大きなおなかをつけ、それがよりなじむよう食生活も変えているようです。

──そうした台詞の理解がリアリティに繋がるんですね。

石山 リサ役の宮菜穂子さんはご自身も今双子の娘さんを育てていらして、育児経験や家族と暮らす中で生まれるエピソードなどもお伺いしています。作品の中にも、子どものいる喜びや大変さについて語る場面があり、これらの台詞はこうした生活の上に成り立っているんだなと感じます。

──台詞にコメディ要素が入っている感じですか?

石山 そうですね。全編を通してイギリスの皮肉っぽい笑いがちりばめられています。しずちゃん(山崎静代)の独特の間がすごく役と合っていて。NHSで働くアフリカ系の助産師・ジョイスの役で、自身に降りかかる偏見をユーモアに転換させるような台詞があります。シリアスさと笑いを、しずちゃんの演技が違和感なく表現しているんです。

──作品に触れる中でご自身はどのようなことを感じていますか?

石山 私自身ジェンダーや、妊娠出産というテーマに興味があります。友人にも結婚した人、していない人、妊活をしている人、すでに子どもがいる人など、いろいろな段階の人がいる年代なんです。私が演じる研修医のナターシャは、産婦人科の研修医として日々妊娠や出産する人を迎えて送り出している立場ではあるけれど、子どもは苦手で、出産の大変さを目の当たりにする中で「自然分娩は絶対にしない」と言っています。「妊娠・出産」とひと口に言っても、人によって意見の違いやそれぞれまったく違う経験があることを戯曲の中でも感じます。きっとご覧になる方の立場によっても感じ方は変わってくると思いますし、私も作品に携わる中で改めて出産って壮絶で奇跡的なんだと感じました。私自身、男性パートナーと一緒に住んでいますが、できることならパートナーに出産してもらいたいと思っていました。でも、この作品のエドの様子を見る限りかなりしんどそうで、誰かに「子どもを産んでほしい」とはなかなか言えないと感じます。


話し言葉と書き言葉を行き来するラジオ

──<話し言葉>というところでは、2023年からTBSラジオ「こねくと」のメインパーソナリティとして毎週月曜〜木曜の放送を担当されていますが、ラジオを通した言葉の面白さはどのように捉えていますか?

石山 ラジオでは、面白いことも腹が立ったことも、どんなことも自分の気持ちを率直にしゃべりたいと思っています。ラジオでの会話って、思ったことをポロッと言って、それが曜日パートナーさんとの関係性があれば面白くなったりギャグになったりすることがあるんですね。面白い言葉ってなんだろうと、いつも考えてしまいます。曜日パートナーさんやゲストの方と話していると、おしゃべりって本当に人によって違うなと思うんです。話の流れをあえて脱線させたり、膨らませたり、気になるところを突っ込んだり、自然なのに考えられてもいる。ラジオパーソナリティはそれを書き言葉ではなく話し言葉によって表現する、言葉のプロフェッショナルなんです。私はまだまだですが。

──生放送のラジオでは、その場で言葉が転がって会話が広がっていくのもリスナーとしては楽しいところです。

石山 例えばコーナーの説明や交通情報などの原稿はあらかじめ台本に書かれていますが、そのほかの部分は流れだけ書かれていていることがほとんどで。共演者とやり取りしたり、リスナーさんからいただいたメールを読んだりする中で、相手の言葉を受け取り、こちらがしゃべってお返しする。ラジオの面白さって、生きた言葉のやり取りで成り立っているところにもあると思います。予測できない<話し言葉>と<書き言葉>の行き来が面白いんです。

──話し言葉と書き言葉の行き来。確かにそれはラジオ特有かもしれないですね。

石山 リスナーさんが寄せてくださるメールっていつも面白くて。作家さんが書いた台詞や出演者がしゃべる言葉、リスナーさんのメールが放送の間それぞれ流れていくバランスが私は好きで。そして、出演者が顔を合わせて会話することでの、ある種の隠せなさというか。ポロッと出る素の言葉にもすごく魅力を感じます。

──“聴く”という行為に集中することで、逆に距離が近い気にもなるのも不思議ですよね。

石山 私はずっと、ラジオで話している人のことを“遠くに住んでいる友だち”みたいだなと思っていました。実際に会ったこともないし、暮らしている環境もまったく違うのに、毎日ラジオでその人が話していると、その日体調がいいかとか、機嫌がいいかとか、そういうことも感じられたりして。まるで、会ったことのない声だけの相手と日常を伴走しているような気持ちになれるんです。私もそんなラジオパーソナリティになれたらいいなと思っています。