CINEMASPECIAL ISSUE
近浦啓監督と森山未來の楽しい共作
大変だけれど楽しい共作
──今回の共作の感想を聞かせてください。
近浦 楽しかったです。また、こんな人だとは想像していなかったです。お話しする前はものすごく野性的な人だと思っていたんです。もちろん、その野性味はありつつ、対極の知性もものすごくあると思いましたね。知性というのは要するに言語化できる能力。この物語が何をめざそうとしているのかを抽象化してから言語化する能力がものすごく高く、非常に感銘を受けました。先日もノルウェーの著名な振付師アラン・ルシエン・オイエンと一緒に作品を作っていましたが、それも納得で。特にヨーロッパではモノ作りする際、言語化する能力が求められるものですから。感覚だけではできないんですよね。森山さんとのモノ作りはすごく疲れましたけど(笑)、同時に楽しかったです。本当にすごい俳優だと思いました。
森山 僕も楽しかったです。啓さんが最初のほうで話したこと、クリエイティビティとビジネスの両面をしっかり担保できるのがインディペンデント映画だと。素晴らしい言葉だと思いました。ビジネス面の視点があること自体が素晴らしいし、かつクリエイティビティに関しても、今お話しされている感じからもわかりますが、めちゃくちゃ明晰じゃないですか。ロジックがちゃんとある上に柔軟性もすごくある方だから、対話する中で作品が動いていく。だから一緒にやっていて、すごく楽しかったです。
近浦 それはうれしいなぁ。
──創作はおふたりにとってはどんな意味を持つものなのでしょうか。また、日々創作する上で大切にしていることとは?
近浦 僕の中で映画はエンタテインメントだというのが第一にあって。ありがたいことに国際映画祭でよく取り上げていただいていて、そういう場所では芸術面に光を当てられるものですが、実は僕としてはエンタテインメントを作っているという意識がまずあるんです。また、僕のモノ作りは映画だけですが、いちばん面白いのはコレクティブ・アートであることなんですね。森山さんが入ってくれたことでこんなふうに脚本が変わっていったとか、山崎(裕)さんが撮ってくれたからこそ、僕が要求した構図から少しズレたけれど面白い画になったとか。ある意味、バンドに近いのかもしれないです。いろんなメンバーが集まってモノ作りをする楽しさがある。正直、僕は高尚なことはあまり考えていないですね。楽しく作りたいっていう感じです。
森山 アートもそうですけど、エンタテインメントという言葉も定義が難しくないですか?
近浦 確かに難しいね。
森山 ビジネス面に振りきってしまうものでもあり得るし、アートとビジネスの両面を取るものでもあり得るし。僕ももともとはミュージカルとか、僕が思っているエンタテインメントに惹かれてこの世界に足を踏み入れたんです。だから、エンタテインメントに対するリスペクトはものすごくあるし、そこに対する信頼もあって。ただ、僕は今、コンテンポラリーダンス、あるいはアートというものもこだわってやっている。なぜ自分はコンテンポラリーなものに携わっているのかと今考えていて、ふと思い浮かびました。ポップカルチャーとサブカルチャーってあるじゃないですか。あの関係値に近いものがあるかもしれない。つまり、ポップカルチャーがあり、それとはまた違うオルタナティブを提案したいという思いから生まれるのがサブカルチャーじゃないですか。で、そうして生まれたサブカルチャーを吸い上げることでポップカルチャーはまたアップデートされていく。そういう構図があると思っていて。僕はエンタテインメントとコンテンポラリーアートにそれと似たようなものを見出しているのかもしれない。つまり、両者の関係値が僕にとっては重要なんです。
近浦 アラン・ルシエン・オイエンのような人と、Mirai Moriyamaをフィーチャーされつつ仕事ができる。かつ、メジャーなエンタテインメントもやっている。そういう俳優ってなかなかいないですよね。先ほど話した知性と野性とはまた違う二面性ですが、そういう二面性を持っていることは森山さんの非常に大きな魅力だと思います。
──同じ俳優と組んで作り続ける映画作家もいますが、近浦監督はそのタイプなのではないでしょうか。藤竜也さんのように、森山さんも近浦監督作の常連になる予感があります。
近浦 そうですね。先ほど話した通り、僕にとってはみんなでモノ作りする楽しさがいちばん大きいんです。だから映画をやっている。そうでなければ、小説を書いていたでしょう。だからこそ、好きな人とモノ作りをしていきたいという思いは強いです。
──ひとりの映画ファンとして、おふたりの共作がまた観たいです。
近浦 それはもう森山さんが嫌がらなければ(笑)。
森山 嫌がらなければって(笑)。
近浦 きっとまた一緒に作ると思います。
近浦 啓(ちかうら けい)
映画監督。『コンプリシティ/優しい共犯』(2018)で長編映画監督デビューし、多くの国際映画祭で評価される。長編第2作『大いなる不在』も第71回サン・セバスティアン国際映画祭オフィシャル・コンペティション部門最優秀俳優賞ほか、国際映画祭で各賞を受賞した
森山未來(もりやま みらい)
1984年生まれ、兵庫県出身。今年はポスト舞踏派 ダンス公演『魔笛』、映画『i ai』に出演。2022年にアーティスト・イン・レジデンス神戸(AiRK)を設立し、運営に携わる。今年5月、振付家アラン・ルシエン・オイエン、ダンサーのダニエル・プロイエットと共に新作パフォーマンス「STILL LIFE」を発表
『大いなる不在』
https://gaga.ne.jp/greatabsence/
2023年/日本/133分
監督・脚本・編集 | 近浦 啓 |
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出演 | 森山未來 真木よう子 原 日出子/藤 竜也 ほか |
配給 | ギャガ |
※7月12日(金)よりテアトル新宿、TOHO シネマズ シャンテほかにて全国順次公開
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