CINEMA
夏のスクリーンを彩る女の子たち
“女の子”の姿が印象的な夏の新作映画 出会い、体験し、変わりゆく日々
音信不通だった父親と向き合う12歳に、ナニーと絆を結ぶ6歳、バカンス中に大切なことに気づくティーンエイジャー。女の子の姿を印象的に描いたこの夏の新作映画3本を紹介する。
母を亡くした女の子と音信不通だった父 悲しみをカラフルに塗り替える共同生活
サンダンス映画祭2023のワールド・シネマ・ドラマ部門において審査員大賞を受賞したほか、第77回英国アカデミー賞では作品賞にノミネートされるなど、世界で高く評価された1本。10代の頃からMVの監督を務め、俳優マイケル・ファスベンダーの制作会社DMCフィルムにその才能を見出された新鋭シャーロット・リーガンが、監督・脚本を務めて長編映画デビュー。母を亡くし、ひとりで生きる12歳の女の子のもとに、音信不通だった父が突如現れたことから始まる共同生活を描き出す。
主人公をたくましくも繊細に演じ、印象的なスクリーンデビューを飾ったのはローラ・キャンベル。『逆転のトライアングル』(2022)や『アイアンクロー』(2023)で確かな実力を示すハリス・ディキンソンが主人公の父を、不器用だけれど愛すべき人物として体現する。
どこかが欠けていてぎこちないけれど、愛おしい娘と父の物語。そのオリジナリティのある語り口と、類まれなビジュアル&音楽のセンスに注目を。
point of view
母を病で亡くして以来、12歳のジョージーは母との思い出が詰まったアパートを聖域のように守り、ひとり暮らしをしている。近所の大人やソーシャルワーカーの追及を知略でかわし、親友と一緒に自転車を盗んでは転売して生活費を稼ぐ日々。その様子は、大人びているという言葉では到底収まらないものだ。一方、父のジェイソンは大人になりきれていない人のように映る。長年音信不通でいながら突然ジョージーの目の前に現れ、不器用ながら娘と交流しようとするも、娘は心を閉ざすばかり。
いびつな関係性の親子が衝突しながらも心を通わせていく様を描いた映画は数多い。本作もストーリーラインで言えばそういうものだが、過去のどんな親子の映画とも似ていない。話の運び方、見せ方にオリジナリティがある。
とぼけたユーモアと深い洞察力を備えた脚本、心情の変化を丁寧に伝える演技、音楽との親和性が高く遊び心に富んだ映像。また、インパクトのあるその映像を小手先のものとせず、娘と父の物語を伝えるための手段として機能させているのが素晴らしい。ポップでカラフルな映像に目を奪われつつ、心に残るのは孤独にさいなまれる女の子、そんな彼女に不器用ながら寄り添おうとする父の姿。その事実が、シャーロット・リーガン監督が本物のストーリーテラーであることを証明している。
ジョージーは“母のいない世界”を少しずつ受け入れていく。ダメだけれど愛すべき父と一緒に。大人でいざるを得なかったジョージーが12歳の子どもに還る、そんな姿を描いた1本と言えるのかもしれない。
『SCRAPPER/スクラッパー』
2023年/イギリス/84分/PG-12
監督・脚本 | シャーロット・リーガン |
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出演 | ローラ・キャンベル ハリス・ディキンソン ほか |
配給 | ブロードメディア |
※7月5日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほかにて全国公開
©Scrapper Films Limited, British Broadcasting Corporation and the The British Film Institute 2022
フランス・パリからアフリカの島国へ 大好きなナニーと過ごす特別な夏休み
共同監督を務めた長編デビュー作『Party Girl(原題)』(2014)が第67回カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品され、カメラドールを受賞したマリー・アマシュケリ監督の単独長編デビュー作。大好きなナニー(乳母)に会うため、パリからアフリカの島国カーボベルデへと旅する6歳の女の子の姿を瑞々しく描き、第76回カンヌ国際映画祭において称賛された。
主人公のクレオを演じたのは、公園で遊んでいたところを偶然見出された演技未経験のルイーズ・モーロワ=パンザニ。撮影当時5歳半だった彼女が、その愛くるしい笑顔と豊かな感情表現で観客の心を揺り動かす。ナニーのグロリアを役柄同様にカーボベルデ出身で、その後フランスにわたってナニーとして働いた経験のあるイルサ・モレノがナチュラルに好演する。
鮮やかなアニメーションも交えながら描かれる人生初の大冒険。その中にある血の繋がりを超えた愛が胸を打つ。
point of view
アフリカの母国に自身の子どもたちを置いてフランスに移り住み、ナニーとしてフランスの子どもを育てる。ヨーロッパ各地に見られるそんな構図を取り入れつつ、そこから生まれる血の繋がりを超えた愛を描いた本作。マリー・アマシュケリ監督自身、幼い頃にナニーに育てられた経験があり、その移民の女性への感謝の気持ちを込めて本作を撮ったという。
第一に、主人公の女の子クレオを演じたルイーズ・モーロワ=パンザニが魅力的。愛くるしさはもちろん、純粋な子どもだからこその残酷さも伝えられる、その表現力の豊かさと言ったらない。相当な近視のクレオは視覚より聴覚や触覚に頼って生きているということも、じっと人の言葉に耳を澄ませる姿や、ナニーのグロリアとの触れ合いに感覚を研ぎ澄ませる様子から自然と見て取れる。
そんなクレオの視点に立つ本作では、彼女の心象風景をアニメーションで伝えるユニークな試みも。その絵本のようなタッチにどこか懐かしさを覚える人も多いはずだ。みんな、かつては子どもだった。大好きな人がいた“あの頃の記憶”を呼び覚ましつつ、大きな愛に包まれるひとときを。
『クレオの夏休み』
https://transformer.co.jp/m/cleo/
2023年/フランス/83分
監督・脚本 | マリー・アマシュケリ |
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出演 | ルイーズ・モーロワ=パンザニ イルサ・モレノ・ゼーゴ ほか |
配給 | トランスフォーマー |
※7月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国公開
©2023 LILIES FILMS
親友たちと一緒に特別な卒業旅行へ 友情、セックスが絡み合う青春の日々
『SCRAPPER/スクラッパー』などにおいて撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーの長編監督デビュー作にして、第76回カンヌ国際映画祭のある視点部門グランプリ受賞作。ギリシャのクレタ島で親友ふたりと一緒に卒業旅行を楽しむティーンエイジャーの女の子を主人公に、友情とセックスが絡み合う青春の夏を描き出す。
初体験というミッションを果たしたいと焦る主人公を、陽気さの中に繊細さを潜ませつつ演じるのはミア・マッケンナ=ブルース。その親友ふたりをララ・ピーク、エンヴァ・ルイスが親密にリアルに体現する。
生涯忘れられない夏になった――思い描いていたものとは違っていたけれど。性的なプレッシャーにさらされる中で決断してしまう危うさ、友情のひずみに気づく10代の夏。主人公に起こったことを感覚的に受け止めた上で、考えを巡らせたい。
point of view
親友たちと過ごす開放的な夏休み。この時期、この地にバカンスに来るのは主人公たちと同じように羽目を外しにきた若い人たちばかり。ホテルの隣室の、少し年上の男の子もなんだかいい感じだ。セックスに興味津々で、バカンス中に初体験を済ませようと計画するティーンエイジャーの主人公は、そんな状況に身を置いている。
明るく華やかなキャラクターの主人公だが、性的なことにはナイーブで自信が持てない。ティーンエイジャーの暴走を描いているようで実はそういうものではなく、そんな主人公を通して“性的な同調圧力”がいかに影響を及ぼすのかを描いている。開放的になって流れの中で決断し、その結果に違和感を抱えて自問自答した後、初めて自覚する。そんな主人公の体験を感覚的に受け止めながら、あの日の自分が、あるいは自分に近しい人が経験したことはこういうことではないかとハッとする人もいるはず。そして、いつの間にか主人公に共感している自分に気づくはずだ。奔放でクレイジーな雰囲気でありながら、その実、道徳的で思いやりのある視点から描かれた青春映画と言える。
『HOW TO HAVE SEX』
https://culture-pub.jp/hths_movie
2023年/イギリス・ギリシャ/91分/PG-12
監督・脚本 | モリー・マニング・ウォーカー |
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出演 | ミア・マッケンナ=ブルース ララ・ピーク サミュエル・ボトムリー ほか |
配給 | カルチュア・パブリッシャーズ |
※7月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほかにて全国公開
©BALLOONHEAVEN, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE 2023