CINEMA
ふたり(ひとりと1匹)の映画
『違国日記』の叔母と姪 『チャーリー』の男とラブラドール ただ寄り添う、それだけで大丈夫
親子でも恋人でも友だちでもない思わぬ存在がささくれ立った心をやさしく包み、新たな世界へと導いてくれることがある。疎遠だった小説家の叔母と高校生の姪、孤独な男と愛くるしい犬。“ふたり”の姿が印象的な新作映画『違国日記』と『チャーリー』を紹介する。
不器用な叔母と素直な高校生の姪 ぎこちなくもやさしい同居生活が始まる
ヤマシタトモコによる累計発行部数180万部超えの人気マンガ『違国日記』を原作に、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020)などを手がける瀬田なつきが監督・脚本・編集を担って映画化。人見知りで片付け下手な小説家の槙生と、人懐っこく素直な高校生の朝。朝の両親の事故死をきっかけにして、疎遠だった叔母と姪がぎこちない同居生活を始める様子をやさしい眼差しで映していく。
主人公の槙生を不器用ながらも凛々しく生きる人として体現するのは新垣結衣。オーディションを経て朝役を射止め、その内心の揺らぎを自然に伝えるのは新星・早瀬憩。年齢も性格も生きてきた環境もまったく違うふたりが、到底理解し合えないことは自覚しつつ、それでも寄り添って日常を重ね、ゆっくりと関係性を変えていく。その姿が愛おしく、ほっと心が和む1本に仕上がっている。
point of view
小説家・槙生の新しい同居相手は、親でも子でも、恋人でも友だちでもない。関係が断絶していた姉が遺した娘、姪の朝だ。ふたりはこれまで接点がなかっただけではなく、その性格も暮らしぶりもかけ離れている。
槙生は不器用な人間だ。人見知りが激しく片付けも苦手。でも、自分の考えがしっかりあり、他者に揺るがされるようなことはない。一方の朝はコミュニケーション能力が高く、人懐っこく素直。でも、人に合わせるのが上手過ぎるきらいがある。
こうした同居譚では、“ふたりがわかり合える”まで、そこをゴールに描いていくことが多いが、槙生と朝の場合、“わかり合えない”ことが前提になっているのがいい。自分とはまったく違う人間の考え方や価値観、生き方をすべて理解するなんて到底できない。それでも寄り添うことはできる。相手を決して踏みにじらず、変えようともせず、ただただそばにいる。それさえできればいいのだと、ふたりは教えてくれる。
親子でも恋人でも友だちでもないふたり。だからこそ、一緒にいられるふたりの同居生活を見守りながら、なんだか救われる思いに。今の時代にピッタリの癒しの1本なのかもしれない。
『違国日記』
2024年/日本/139分
監督・脚本・編集 | 瀬田なつき |
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原作 | ヤマシタトモコ 「違国日記」 (祥伝社 FEEL COMICS) |
出演 | 新垣結衣 早瀬 憩 夏帆 瀬戸康史 ほか |
配給 | 東京テアトル ショウゲート |
※6月7日(金)より全国公開
©2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会
サイドカーにラブラドールを乗せて 孤独な男の人生を変えるインド縦断旅
映画大国インドにおいてヒンディー語の映画がボリウッドと称されるのに対し、カンナダ語の映画はサンダルウッドと称される。サンダルウッドとして歴代5位の興行収入を記録したロードムービー。サンダルウッドのスターであるラクシット・シェッティが主演とプロデュースを務め、孤独に生きる男とやんちゃなラブラドールレトリーバーのチャーリーが、南インドからヒマラヤをめざして旅する姿を描き出す。
パルム・ドッグ賞をあげたいぐらいのチャーリーの名演に加え、インド各地方の多様な景色と文化、チャーリーの名前の由来であるチャップリンへのオマージュも見どころに。1匹の犬が孤独な男の世界を鮮やかに色づけ、やがてはかけがえのない相棒となっていく。その揺るぎない絆に胸がいっぱいになる。
point of view
ある出来事によって心に深い傷を負い、以来、ひとりで生きてきたダルマが出会ったのは、イタズラ好きでやんちゃなラブラドールレトリーバーのチャーリー。ダルマはチャーリーに振り回されるも、自身に向けられる忠誠心と愛情に胸を打たれ、共に生きる喜びを見出していく。
インド映画らしくサービス精神たっぷりの魅せる展開も随所にあるが、奇をてらうようなものではない。ダルマと犬のチャーリーがケンカして仲直りして、気遣い合って、なくてはならない相棒になっていく。その一つひとつのエピソードを丁寧に積み重ね、観る側を自然と“ひとりと1匹”の物語へと引き込んでいく。
後半戦がロードムービーになるのもいい。緑溢れる南インドを出発し、海が一面に広がる海岸地方、だだっ広い荒野を経由して、最終目的地のヒマラヤへ。ダルマとチャーリーは一緒に、見たことのないものを見て、これまでにない経験をする。そして旅はふたりの絆をよりいっそう深めていく。
“ひとりと1匹”のハートフルな再出発ムービー。心が洗われるような1本だ。
『チャーリー』
2022年/インド/164分
監督・脚本 | キランラージ・K |
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出演 | チャーリー ラクシット・シェッティ サンギータ・シュリンゲーリ ほか |
配給 | インターフィルム |
※6月28日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開
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