CINEMA
山田尚子監督が語る『きみの色』
- 名古屋
山田尚子による「音楽×青春」の集大成 完全オリジナル長編『きみの色』
「けいおん!」シリーズや『映画 聲の形』を手掛け、世界が注目するアニメーション監督・山田尚子の最新作となるオリジナル長編アニメーション『きみの色』が8/30(金)に公開される。
多様な色のような繊細で切実な感情と、鮮やかな映像表現、そしてエモーショナルなバンドサウンド。山田監督による「音楽✕青春」の集大成となる本作はどのように作られたのだろうか。
すべて重ねると白になる 光の三原色に無限の可能性を感じた
──本作では“音楽”が重要なエレメントの一つとなっていますが、音楽に関してのこだわりを教えてください。
山田監督 トツ子、きみ、ルイの三人が作ったものだと観客の皆さんに納得していただける楽曲作りをしています。商品としてもっと華やかにすることももちろんできますが、あえて泥臭く作品にフィットするものを音楽監督の牛尾憲輔さんと模索しました。
──「水金地火木土天アーメン」というフレーズがとても印象的ですが、これは監督が提案されたのだとか。
山田監督 もともとは日暮トツ子というキャラクターがどういうセンスを持っているかを説明するために書いたもので、それをそのまま曲にしました。クリスチャンであるトツ子にとって「アーメン」は日常的にすっと出てくる言葉なんです。
──バンドのサウンドの中にテルミンが入っているのは珍しいですよね。
山田監督 2019年にテルミンが開発されて100年を迎えたという話を聞いてからずっと気になっていました。ルイは音楽をしていることを家族に内緒にしているので、物理的に音が出るものよりも電子楽器がよかったんです。それに、目に見えない色を感じるトツ子と、電波という目に見えないものを音階にするテルミンに通ずるものがあるような気がして。個人的に勉強をしてみたかったという下心もありますが(笑)
──きみのギターがリッケンバッカーなのにも意味があるのでしょうか?
山田監督 きみがリッケンバッカーを持ったらかっこいいだろうなという直感からです。きみ自身がこだわりを持って選んだものではなく、お兄ちゃんのお下がりなのは、そこからお兄ちゃんのキャラクター性が香ってくるようにしたかったんです。
──音楽性や楽器のチョイスだけでなく、それぞれのキャラクターのファッションからもそのキャラクター性が感じられますよね。
山田監督 ファッションはその人の思想に密接に関係していると思っています。最近は例えばヘヴィメタルのTシャツを着てテクノのフェスに行くみたいなカルチャーのミックスもありですが、自分はまだまだ「これ好きだからこのTシャツを着る」みたいな感覚が残っていて。言葉での説明ではないところからキャラクターの生き様みたいなものを見せたかったんです。
──タイトルにもあるように“色”も本作の核となっています。
山田監督 この作品では色を“光の現象”として描いています。トツ子は赤、きみは青、ルイは緑と光の三原色を当てはめているのですが、これらはすべて重なると真っ白になる。そこに無限の可能性を感じたので、画としても絵の具を塗り重ねていくのではなく、光が重なっていくイメージで描いています。
キャスティングの決め手は優しく肯定感を感じさせる音
──トツ子たちの暮らす町のモデルに長崎を選ばれたのはなぜですか?
山田監督 どんな町で生活していればトツ子たちのような子が育つんだろうと考え、最初に思い浮かんだのが長崎で、ロケハンに行って瞬間に好きになったのでそのまま採用しました。そしてロケハン中に神社の鳥居からじっとこっちを見つめているしろねこに出会ったんです。オリジナル作品なので、スタッフと一緒に経験したことをたくさん入れたかったので、作中にもしろねこを登場させて、きみが働いている古書店を「しろねこ堂」と名付けました。
──長崎の郷土料理「がめ煮」も作中に登場しています。
山田監督 九州出身のアニメーターさんに木の蓋で作ると教えていただきました。料理って人によってはプレッシャーを感じるかもしれないけれど、誰かを思って作るかけがえのない行為なので、あたたかさや柔らかさにこだわって描いています。
──1600人の中から選ばれたというボイスキャストについてもお聞かせください。
山田監督 みなさん共通して優しく肯定感を感じさせる音を持っていて、作品が描きたいことにフィットしていると感じています。特に鈴川紗由さんは声だけでトツ子の見ている楽しく幸せな世界を表現してくださいました。
──メインキャストの鈴川紗由さん、髙石あかりさん、木戸大聖さんを表す色は何色ですか?
山田監督 髙石さんはきみちゃんと同じ青です。清廉で、凛として芯がある。でもお話してみるとユーモアがある方で、オレンジも見えてきたような気がします。木戸さんはルイくんに引っ張られて緑かなと思っていたら、ものすごくやんちゃな男の子だったので赤。鈴川さんは年齢も雰囲気もトツ子に近くて赤が似合うと思っていたのですが、とても落ち着いているところもあり、熱量を持ってたくさんお話してくれるところもあり、いろんなお顔をもっています。
映画『きみの色』
2024年/101分/日本
監督 | 山田尚子 |
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脚本 | 吉田玲子 |
声の出演 | 鈴川紗由 髙石あかり 木戸大聖 やす子 悠木碧寿美菜子 戸田恵子 新垣結衣 |
主題歌 | Mr.Children「in the pocket」(TOY'S FACTORY) |
配給 | 東宝 |
©2024「きみの色」製作委員会