「演劇の原点に戻った思いがある」松尾スズキ作・演出「命、ギガ長スW(ダブル)」

  • 関西


松尾スズキが2019年に“演劇を始めた頃の素朴な悦び”を求め自ら企画・プロデュースし、“部活”として新しく立ち上げた「東京成人演劇部」が“8050問題”をテーマに松尾が作・演出・出演し、「第71回読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)」を受賞した「命、ギガ長ス」。

初演では松尾スズキと安藤玉恵が二人芝居を繰り広げチケットは連日完売の大盛況となった。そして、今回タイトルを「命、ギガ長スW(ダブル)」と一新。松尾は作・演出に徹し、“ギガ組”として宮藤官九郎×安藤玉恵、“長ス組”として三宅弘城×ともさかりえの2組のキャストを迎え2022年3月より再演されることが決定した。大阪市内で行われた松尾スズキの取材会の模様をお届けします。



……2019年に「命、ギガ長ス」が初演されましたが、当時の様子を教えてください。

松尾「大きな劇場で客席を満席にしてお客さんを笑わせることが当たり前のようになってしまって、それは快感なんだけど、しんどさもたまってきて、比べて、若いアマチュアの頃は、演劇を心ゆくまで楽しんでたなぁと思い出して、演劇部のようにただ演劇を楽しむ仲間を作って演劇をやりたいなと、演劇部出身の安藤玉恵さんに話を持ち掛けました。ふたりで演じることは確かに楽しかったのですが、プレッシャーとの闘いもあり、演劇って楽しくてやっぱり苦しいものなんだなと再認識した時間でしたね」

……今回のキャストは宮藤官九郎さん×安藤玉恵さん、三宅弘城さん×ともさかりえさんの2組ですが、それぞれの組みに対しての魅力をお聞かせください。

松尾「安藤さんは当て書きだし、この芝居の根幹を知っている方なので、引き続き出演してもらいたいと思っていました。宮藤官九郎に関しては、作家であり俳優でもある宮藤が僕の代わりに入るのは自然な流れかなと思います。俳優・宮藤官九郎はなかなか面白い人材なんです。三宅君は演技に対する芯が太い俳優ですね。ともさかさんは、僕が元々ともさかさんのファンであり、最近は舞台に軸を置いていらしてるのが重要で、芸能人でもそういう方と僕はお付き合いしていきたいので初めてオファーしました」

……大阪公演の会場は近鉄アート館で舞台と客席と距離も近いです。お客さんにどういったところを楽しんでいただきたいですか?

松尾「美術セットや小道具がほとんどないところで俳優はほとんどパントマイムで演じられる。俳優にとっては頼りどころがまるでないというある意味不安の極致なんですけど、ちょっと身体の向きを変えただけでそこが自宅になったり、喫茶店になったりとか、シティホテルの中になったりとか、そういうことをやれる説得力というか、そこが美術を作らないという利点だと思います。舞台と客席が近いことで、表情ひとつで状況が変わる様子を身近で味わえるというのはお芝居の醍醐味なのではないかと思います」

……再演されるにあたって演出を変えられる部分はありますか?

松尾「二人芝居ですし小道具を使わないので変えられないというか。4人とも個性の強い俳優さんなので稽古をしていくうちにそれぞれの特色が出てくると思います」

……本作の見どころを教えてください。

松尾「ふたりの俳優が二転三転役を変えて、認知症の母親とアルコール依存症でニートの息子、大学の教授とゼミの生徒とステイタスも分かれている180度違うような役を演じるのは、演じる方もリスキーですが、観てる方も結構スリリングなんじゃないかなと思います」

……今作は“8050問題”をテーマにされていますが意識されたところはありますか?

松尾「僕の母親が80代で僕が母親の面倒を見ているのですが、僕が面倒を見れない状態になったら、さらに、面倒を見られている状態だったら…というもしも自分がそうだったらということを想定してパラレルワールドの世界を描きました」

……初演の時の反響で印象に残っていることはありますか?

松尾「東京以外のいろんな地方都市をまわって、その土地その土地でドリフくらいウケるところもあれば、じっくり観ていただけるところもあっていろんな反応がありました。台湾のお客さんがすごく喜んでくれたのが嬉しかったですね。海外でもあり得る問題なんだなという発見がありました」

……最後に一言メッセージをお願いします。

松尾「ゴージャスな仕上がりの舞台の演出もしますが、地味なこともできるんだぞ! というのを観て欲しいですね。個人的には宮藤と随分離れて時間を過ごしてきたので、宮藤を役者としてがっつり演出できるのはすごく幸せな時間ですね。若い頃は本当にずっと一緒にいたので、その頃の思いも込めて演出したいと思います。結構見ものだと思います。ともさかさんとのお付き合いも初めてですので楽しみにしています。それを楽しみにしていてください」

スタイリング:安野ともこ
衣装協力:GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)

<お問い合わせ先>
ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070

【STORY】
80代で認知症気味の母親エイコと、ニートでアルコール依存症の50代のオサム。貧困生活を送っているふたりを撮影するためにドキュメンタリー作家志望の女子大生アサダが密着していた。
エイコの年金を当てにして酒を飲み続けるオサムと、パチンコに依存するエイコ。アサダが撮るドキュメンタリーのVTRを見て、彼女の所属のゼミの教授キシはある問題を指摘する。エイコとオサムにはある秘密があったのだ。

東京成人演劇部vol.2「命、ギガ長スW(ダブル)」

大阪公演2022年4月7日(木)~2022年4月11日(月)
会場近鉄アート館
前売り開始2022年1月30日(日)10:00~
チケット料金(全席指定・税込)指定席 6,800円、ヤング席 3,800円(22歳以下/チケットぴあのみ取り扱い)
お問い合わせキョードーインフォメーション 0570-200-888
(11:00~16:00/ 日曜・祝日は休日)