CINEMASPECIAL ISSUE
田中麗奈主演映画『黄金泥棒』

田中麗奈演じる専業主婦が一攫千“金” 痛快クライム・コメディ『黄金泥棒』 優秀なクリエイターたちとの創作の裏側
2013年にあるデパートで金(きん)の盗難事件が発生し、その犯人として主婦が逮捕された──。実際にあったその事件から着想を得て、注目の映画作家・萱野孝幸が監督と脚本を務めて作り上げた痛快クライム・コメディ『黄金泥棒』が、4月3日(金)より公開となる。
平凡で味気ない日常に行き詰まりを感じていた主人公の主婦はある日、金に魅了され、しまいには100億円の価値があるとされる<秀吉の金茶碗>を盗もうと画策。キャラクターはリアリティと個性を持ち合わせ、展開には予定調和がなく意外性に満ちている。往年のハリウッド映画のような、クラシカルで優雅な雰囲気が漂う画世界も注目のポイントだ。
いわゆる泥棒映画とは一線を画す1本、その刺激的な創作の日々を主演を務めた田中麗奈が振り返る。
写真:徳田洋平 スタイリング:岩田麻希 ヘアスタイリング&メイクアップ:RYO 取材・文:佐藤ちほ
自分を忘れた人が自分を取り戻すまで
──萱野孝幸監督が手がけた脚本を読み、どんな魅力を感じましたか。
田中 しっかりとエンタメになっているのと同時に、主人公の美香子がすごく身近な存在として描かれている。エンタメとリアリティが融合している感じが面白いと思いました。また、専業主婦の美香子がデパートでつい金(きん)のおりんを盗んでしまうところから始まり、やがては自ら秀吉の金茶碗を盗みにいくという、展開のジャンプ感も楽しくて。こういった変調のある映画はなかなかないと感じました。もうひとつ、しっかりとエンタメでありながら、笑いに関しては割とシュールでマニアックなのも面白いと思いました。観てくださる方々それぞれが自分で面白いところを見つけていく。そんな作品になるのかなと思いました。
──ご自身が演じる美香子の人物像はどう感じましたか。
田中 まず美香子には天然なところがあります。リズム、マインドが独特な人というか。序盤の美香子は日常が霞んで見えている、もやがかかった状態だったのかなと思います。何を見ても感動しないし、湧き上がるものもない。そして、孤独なんですよね。美香子はこれまでずっと、普通でいることがいちばん幸せ、と自分に言い聞かせてきた。いつの間にか“平凡という型”に自分を押し込み、結果、自分というものを忘れてしまった人なのかなと。そんな美香子が自分を取り戻すまでのお話だと思っています。美香子がだんだんと生気を取り戻し、目に力を宿していく。そんな変化を楽しんでいただけたらと思っています。
──そんな美香子の気持ちにすんなりと寄り添えましたか。
田中 私は5歳の頃からずっと女優になりたいと思っていました。小学校、中学校とずっと“女優になった自分”を想像して生きてきましたけど、なれなくて。そのまま高校生になり、“どうしよう、女優になれないかもしれない…”と追い詰められていた時に、映画『がんばっていきまっしょい』(1998)のオーディションの話をいただきました。あのお話がなかったらどうなっていたのかなと思います。女優になるという夢が叶わなかったら、今頃私はどうなっていたんだろうって。だから、子どもの頃は自分にしかできないことをしたいと思っていた美香子が、だんだん自分というものを忘れていく姿には、自分を重ねられるところがありました。それと、私が出産して間もない頃の気持ちも思い出したりしました。毎日一生懸命子育てしながらすごく幸せを感じつつ、同時に“このまま現場に立てない日が続いて仕事が来なくなったらどうしよう…”と考えてしまったりもして。コロナ禍だったこともあり、なかなか人にも会えない中だったので、余計に閉塞感を感じてしまっていたんだと思います。あの時の閉塞感を思い出しながら、序盤の美香子を演じてみたりしました。
──秀吉の金茶碗を盗む計画を企てて以降、美香子は生き生きと、どんどん輝きを増していきます。
田中 そういうふうに見えたらいいなと思っていました。生きがいを見つけた時にみるみる力が湧いてくる。絶対にこれを成し遂げたいという目標を見つけた時の美香子は強いし、できる女になる。脚本を読んでそんなイメージが浮かんでいたので、そこに向かって邁進しようと。あと、映画の前半で幼少期の美香子を描いているところがあります。その幼少期を観ていただければ伝わると思いますが、美香子ってもともとはポテンシャルのある人なんです。美香子だったらこうなるだろうという、その説得力はもともと脚本にあったと思います。

──美香子の内面の変化は外見の変化にも繋がります。衣装合わせはどのように進められたのでしょうか。
田中 例えば、登場シーンの美香子のTシャツ。衣装合わせの際に萱野監督が「“それなんのTシャツ? どこから持ってきたの?”という感じのぼんやりとしたものがいい」とおっしゃっていました。その際、下に履いている着圧ソックスは美香子の無防備さだったり、だらっとした感じが伝わったらいいなと思い、私が提案させてもらったものです。美香子のファッションは物語が進むにつれて、ゴージャスでクラシカルな方向に変わっていきます。スカーフもうまく使っていこうという話が衣装合わせの際にあり、ただ巻くだけではなくバッグに付けてみたりと、いろんな使い方をしています。帽子も重要なアイテムでした。泥棒が手拭いを巻くように美香子は日焼け防止用の帽子を巻くという(笑)、あれは萱野監督のアイディアです。あるシーンではエコバッグも重要な役割を担いますが、そこは私のアイディアです。萱野監督が「何か思いついたらぜひ言ってください」と言ってくださったので、私もいろいろと提案させていただいて。萱野監督と衣装や小道具についてお話しする時間もすごく楽しかったです。
