CINEMA
新作映画が描く母と子、その繋がり

すれ違い、傷つけ合い、思い合う 母と子の姿を印象的に描いた新作映画
若くして母になった少女たちを描く物語に、移民となった母と息子の物語、そして、母親でもあるひとりの女性が書いた手紙が起こす奇跡を描く物語。母と子の姿が印象的な3本の新作映画を紹介する。

ダルデンヌ兄弟最新作にして初の群像劇 若くして母になった少女たちが選ぶ道
カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞した『ロゼッタ』(1999)や『ある子供』(2005)、世界の映画祭で主演女優賞や外国語映画賞を獲得した『サンドラの週末』(2014)などを手がけるベルギー出身の名匠、ジャン=ピエール&リュックのダルデンヌ兄弟。常にひとりの主人公にフォーカスし、観る側に主人公と同じ目線でその人生を体験させるかのように映してきたダルデンヌ兄弟が、最新作において初めて群像劇に挑んだ。若くして妊娠した女性を支援する施設で共に暮らす5人の少女が戸惑い、悩み、傷つきながらも、それぞれの道を歩む姿を描き、第78回カンヌ国際映画祭において脚本賞とエキュメニカル審査員賞を受賞している。
これまで『君と歩く世界』(2012)、『エリザのために』(2016)、『ジュリーは沈黙したままで』(2024)などで共同プロデュースを担い、才気溢れる映画監督を支えてきたダルデンヌ兄弟。本作では反対に、『Girl/ガール』(2018)や『CLOSE/クロース』(2022)を手がけるベルギー出身の俊英ルーカス・ドンが共同プロデューサーとして名を連ね、ダルデンヌ兄弟の創作をサポート。ベルギー映画界の伝統と未来を繋ぐ1本としても注目を集めている。
ダルデンヌ兄弟が真骨頂を見せたと同時に、新境地を開いたとも言える1本。5人の主人公それぞれに寄り添い、共に時間を積み重ねるように観る側を導いていく、その手腕に注目を。
point of view
本作の主人公である“若くして母になった5人の少女たち”は10代前半、あるいは10代半ばと言ったところだろう。容姿にも言動にもその未熟さは見て取れ、“子どもが子どもを産んでしまった”という印象は拭えない。生まれてすぐに養子に出され、実の母親を知らない少女や、問題を抱えた母親のもとで育った少女、ドラッグ依存症から抜け出そうともがく少女、自分の子どもに関心を示さないパートナーに動揺する少女…。少女たちの事情はさまざまなだが、共通項がある。それは、愛され方を知らないまま育ち、母になったということ。そんな少女たちが戸惑い、悩み、傷つきながらも自分の道を選び、歩みを進める姿を丁寧に追いかけていく。
これまでの作品においても社会的弱者に敬意を払いつつ寄り添い、当事者の目線からその物語を届けてきたダルデンヌ兄弟。本作でもそのスタンスは貫いている。自分で子どもを育てられるのか、あるいは里親に託すべきか。もっと言えば、自分はこれから学校に戻れるのか、あるいは就職できるのか。少女たちがそれぞれ自問自答するさまには、現実の重みがしっかりと備わっている。さらに印象的なのが、シスターフッドの物語でもあること。少女たちは自分以外の“若き母親たち”に共感し、助け合いながら問題解決を図っていく。少女たちは確かに、愛されてこなかった。でも、これから誰かを愛することはできるはず。手を取り合う少女たちを観ながら、自然とそう思えた。絶望に打ちひしがれるのではなく、かすかだけれど確かな希望を描く1本がここに。

『そして彼女たちは』
https://www.bitters.co.jp/youngmothers
2025年/ベルギー・フランス/104分
| 監督・脚本 | ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ |
|---|---|
| 出演 | バベット・ヴェルベーク エルザ・ウーベン ジャナイナ・アロワ・フォカン リュシー・ラリュエル サミア・イルミ ほか |
| 配給 | ビターズ・エンド |
※3月27日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
©Les Films du Fleuve - Archipel 35 - The Reunion - France 2 Cinéma - Be Tv & Orange - Proximus - RTBF (Télévision belge) / Photo©Christine Plenus

韓国からカナダへと渡った母と息子 記憶に宿る故郷の景色と、母の無償の愛
8歳で韓国からカナダに移住した経験を持つアンソニー・シムが監督と脚本を手がけ、1990年代のカナダを舞台に、移民としてのアイデンティティの揺らぎ、親子の葛藤と再生を16mmフィルムの柔らかな質感の映像の中で描き出す。第47回トロント国際映画祭のプラットフォーム・コンペティション部門において最優秀賞を、第27回釜山国際映画祭のフラッシュフォワード部門において観客賞を受賞したほか、世界の映画祭で話題に。韓国を拠点にダンサー・振付師・俳優として活動するチェ・スンユンが母ソヨンを、Netflixシリーズ「アンブレラ・アカデミー」(2019~2024)などに出演するイーサン・ファンが青年期の息子ドンヒョンを好演している。
アンソニー・シム監督個人の記憶に根差しながら、多くの人々が共感できる痛みとその先にある光を丁寧に掬い取った1本。韓国からカナダへと渡った母と息子がすれ違い、思い合う姿が胸を打つ。
point of view
光の粒が見えるような16mmフィルムで撮影された、異国で生きてきた母と息子の記憶。母は息子に打ち明けられない過去を抱えながらも、必死に働いて息子にごはんを食べさせ、世間から向けられるさまざまな刃から息子を守り続ける。息子が年頃になって距離ができてからも、母の息子への愛情は変わらない。
幼くして異国へと移り住み、外見も言語も文化もまるで違う人々の間で育った息子は、年頃になってアイデンティティを失ってしまう。自分のルーツを否定すると同時に強烈に求めてもいるという、矛盾を抱えながら生きている。母には感謝しつつ、同時に疎ましくも思ってしまう。母の苦労は誰よりも知っているだけに、もどかしさは募るばかりだ。
本作で描かれる母と息子の姿、彼らの胸に渦巻く思い、そのすれ違いや結びつきは、きっと多くの人にとって身に覚えがあるものだろう。監督の個人的な物語は、観る人それぞれの個人的な物語と重なり合い、普遍的な感動を呼び起こすはず。

『Riceboy ライスボーイ』
https://culturallife.co.jp/riceboy
2022年/カナダ/117分/PG12
| 監督 | アンソニー・シム |
|---|---|
| 出演 | チェ・スンユン イーサン・ファン ドヒョン・ノエル・ファン アンソニー・シム ほか |
| 配給 | カルチュアルライフ |
※4月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Stranger、渋谷ホワイトシネクイント、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開
©2022 Riceboy Sleeps Production Inc.

時が経っても、その“存在”は消えない 一通のラブレターが起こした奇跡の物語
2000年3月8日に発生し、死者5名、負傷者64名を出した営団地下鉄日比谷線中目黒駅構内列車脱線衝突事故。その20年後、この事故により命を失った当時高校生だった富久信介さんの家族のもとに一通のラブレターが届いた。毎朝、信介さんと同じ時間、同じ車両で通学し、彼に密かに想いを寄せていたという女性が書いたものだった。この実話に心を動かされた石井裕也が監督、脚本、編集を務めて映画化。ラブレターを書いた女性ナズナを綾瀬はるか、学生時代のナズナを當真あみ、その初恋の相手である信介を細田佳央太。さらに、信介が通うボクシングジムの先輩で、のちに第17代WBC世界スーパーフライ級チャンピオンとなる川嶋勝重を菅田将暉、ナズナの夫・良一を妻夫木聡、信介の父・隆治を佐藤浩市、ナズナと良一の娘・舞を西川愛莉。若手からベテランまで、個性と実力を併せ持ったキャストが集結している。
ナズナのラブレターに息子の生きた証しを確かに見た家族。残された家族は送り主であるナズナへと手紙を返し、その交流がある真実を明らかにする。人はなぜラブレターを書くのか──。一通のラブレターが起こした奇跡に胸を揺さぶられる。
point of view
本作では、ふた組の思い合う親子の姿が印象的に描かれている。ひと組目は事故で亡くなった信介とその両親の姿。最愛の息子を喪って生き続けてきた両親のもとに届いたラブレターが、両親も知らなかった息子の一面を明かしていく。在りし日の息子を誇らしく想う両親の姿に熱いものがこみ上げてくる。
そのラブレターを書いたナズナは、舞という娘を持つ母親でもある。大好きな人がいたあの頃の自分と同じ年頃になった娘。高校時代のナズナと舞が同じようなことをしているのを観ながら“やっぱり親子”と思って笑みがこぼれ、さらには母と娘が時空を超えて繋がっているかのように思えた。
本作を最後まで観てつくづく思うのは、今を生きる人、過去を生きる人、未来を生きる人、そのすべてが繋がっているということ。誰かをちゃんと愛し、誰かにちゃんと愛された人は、肉体がこの世から消えてしまったとしても、その存在が消えることはないのかもしれない。涙と笑みが同時にこぼれる1本、切なくも心あたたまるヒューマンドラマが誕生した。

『人はなぜラブレターを書くのか』
https://loveletter.toho-movie.jp
2026年/日本/122分
| 監督・脚本・編集 | 石井裕也 |
|---|---|
| 出演 | 綾瀬はるか 當真あみ 細田佳央太 / 菅田将暉 妻夫木聡 佐藤浩市 ほか |
| 配給 | 東宝 |
※4月17日(金)より全国公開
©2026映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

