FLYING POSTMAN PRESS

中川駿×山時聡真『90メートル』

その作品との出会いがキャリアを変えた

──FLYING POSTMAN PRESSは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>をコンセプトに展開しています。おふたりの人生を豊かにしてくれた作品と言うと?

中川 イランのアスガー・ファルハディ監督の『別離』(2011)という映画がターニングポイントになりました。彼の作品から“演出とはかくあるべし”というものを学ばせてもらったんです。彼の作品にはいつも、嘘をついている人や隠し事をしている人が出てきます。例えば、“どうしてもこれが欲しい”という思いがあったとして。彼の作品では“人を貶めてまでも、嘘をついてまでもどうしてもこれが欲しい”をやるんです。「どうしてもこれが欲しい」とただ言うだけでは、その思いの強さはなかなか表現できなかったりする。でも、嘘をつくという背徳的行為をしてまでもこれが欲しいのだと。つまり、前提をいじることで“欲しいという思い”が際立つんですよね。その手法を彼は毎回使ってくる。『別離』を観て感銘を受けて以降は彼のやり方を踏襲するようになりました。そうして作った作品が評価されるようになった。間違いなく僕の監督としてのキャリアは、彼を追ったことによってステップアップできたところがあります。

山時 僕は『仮面ライダーW』(2009~2010)です。観ていたのは5歳頃で、多分、記憶にある中でいちばん初めに観た映像作品です。この作品の菅田将暉さんが大好きだったんです。僕にとっては俳優という人を初めて意識した作品でもあって。“俳優と言えば菅田将暉さん”と、『仮面ライダーW』をきっかけにして思うようになりました。その後、当時住んでいた福岡から上京して、東京の事務所に入りたいと思った中学生の時、ふと菅田さんが所属しているトップコートという事務所を思い浮かべました。思いきって応募してみたら合格して、今、ここにいられる。僕にとって『仮面ライダーW』は、人生を変えてもらった作品です。

──改めてですが、『90メートル』の親子の人物像やその関係性は、中川監督ご自身と監督のお母様を重ね合わせて描いていらっしゃる。つまり、個人的な物語だと言えますよね。それを、普遍的な親子の愛の物語に仕上げていらっしゃる。中川監督の物語との距離感が絶妙だと感じます。

中川 それで言うと、この映画は僕が人の親になって初めて撮る作品なんです。もうすぐ3歳になる娘がいまして。これまでは誰かの子どもでしかなかったのですが、今回の作品は、自分も親なんだと理解した上で初めて臨むことになった。普段、自分の子どもと向き合いながら思うんです。自分は絶対にこの子よりも先に死ぬんだなと。親が子どもよりも先に死ぬというのは当たり前のことであって悲観することでもなんでもない。自分が親になったからこそ、そう割り切れたと思うんですね。だから、少し切なくはありますが、全体としては前向きな話だと。決して悲劇ではなく、親の子離れの話であり、子の親離れの話であると。自分も親になったからこそ、そういう普遍的な話であると思えた。そう割り切れたので、このトーンで仕上がったのかなと思います。

──山時さんにとっては本作の経験はどんなものでしたか。

山時 普段生きていく中で、家族は当たり前に一緒にいる存在で。家族と過ごす時間を大切にしていないわけではないんですけど、当たり前のように思っていたなと、この映画を通して気づかされました。家族や友だちと過ごす時間、その1日1日が本当に大切なんだと、撮影している間ずっと考えていたような気がします。家族や友だちと過ごす今日という日をもっと大切にしようと思わせてもらった作品です。

──俳優としてはいかがでしょうか。

山時 この作品は10代最後に撮った作品でもあります。10代の自分にしかできなかった役だと思いますし、10代でいろんな作品を経験させてもらいながら積み上げてきたものをこの作品にぶつけたいと。そう覚悟を決め、10代の集大成として臨みたいと思ったんです。だから、正直言うとこれまで参加させてもらった作品の中でいちばん悩みましたし、いちばん台本も読み込みました。そして、全部をぶつけました。これから20代を過ごしていく中で、何度かこの作品を振り返ることがあるだろうと思います。僕にとっては初心に返る作品になりました。


中川 駿(なかがわ しゅん)

1987年生まれ、石川県出身。自主制作した短編映画『カランコエの花』(2016)で注目される。その後、『少女は卒業しない』(2023)で商業長編映画監督デビュー。『か「」く「」し「」ご「」と「』(2025)を経て、本作が商業長編映画として自身初のオリジナル作品となる

山時聡真(さんとき そうま)

2005年生まれ、東京都出身。近年の主な出演作に映画『ラーゲリより愛を込めて』(2022)、『蔵のある街』(2025)、劇場アニメーション『君たちはどう生きるか』(2023)、ドラマ『ちはやふる-めぐり-』(2025)、『テミスの不確かな法廷』(2026)などがある

『90メートル』

https://movie90m.com

2026年/日本/116分

監督・脚本 中川 駿
出演 山時聡真 菅野美穂 西野七瀬 南 琴奈 田中偉登 ほか
配給 クロックワークス

※3月27日(金)より全国公開

©️2026 映画『90 メートル』製作委員会