FLYING POSTMAN PRESS

中川駿×山時聡真『90メートル』

言葉の重みやその場の空気ごと伝えたい

──中川監督が思う、山時さんの俳優としての魅力は?

中川 素直で一生懸命、いい意味で不器用なところがあって。自分的に芝居をやりきれなかったと思った時、山ちゃんは本当に落ち込むんですよ。

山時 はい、めちゃくちゃ落ち込みます。

中川 本当に「くっそー!」って言って落ち込んでいる。その姿を見ながら、ああ、これだけ真摯に役と向き合ってくれているのかと。彼のそういう部分をスタッフみんなが好きになるんですよね。だからこそ、彼が存分に力を発揮できるよう、自分たちにできることはなんだろうと必死に考える。周りの人たちが彼のために動いてくれるんです。それはもう人柄だと思うし、俳優としてのいちばん大きな魅力になっていると思います。

山時 ありがとうございます。うれしすぎてニヤニヤが止まらないです(笑)。

──山時さんは中川監督の演出の魅力をどう感じましたか。

山時 とにかく丁寧に寄り添ってくださいます。撮影前、そのシーンの佑の感情についてよく話してくださったんですけど、「ここはこう思うんだけど、どう思う?」という感じで、僕の意見も常に聞いてくださるんです。あと、佑は元バスケ部という設定だったので、バスケ練習も組まれていたんですが、監督も練習に参加されたんです。それもあってか、普段は監督との距離があまり近くならないんですけど、今回は違いました。もちろん、ほど良い距離は置きつつですが、いつもよりずっと近かったですね。バスケ練習の時なんてお父さんみたいで。

中川 ちょっと待って、お兄ちゃんじゃなく(笑)?

山時 お父さん(笑)。

中川 びっくりした、そっちなの(笑)?

山時 みんなを見守ってくれる感じがお父さんでした(笑)。練習の日時とか決めてみんなをまとめてくれるのもやっぱり監督で。すごく素敵な…、お兄ちゃんでした(笑)。

──先ほど話題に上った面接のシーンもそうですが、カットを割らずにカメラ長回しでじっくり芝居を見せるシーンが多くありました。

中川 長回ししているシーンって言葉の重みを伝えたいシーンだと思うんです。また、台詞を言っているところだけじゃなく、言っていない間の空気感にもすごく意味があると思っていまして。カットを割ると、どうしても空気感が途切れてしまうことがある。それで、言葉の重みやその場の空気感をダイレクトに伝えたいシーンは、カットを割らないという選択をしました。

──山時さん、長回しで撮影したシーンは大変でしたか。

山時 大変ではなかったです。むしろ、僕としてはすごくやりやすくて。台詞さえ入っていたら、流れでそのまま芝居を続けられる。役者側からするといちばん新鮮な状態を撮ってもらえるということで、ありがたいなと思いました。

中川 カット数も少なくなるしね。

山時 そうですね。

中川 長回しで撮ったシーンはそもそも、演じる人にとってはカロリーの高いシーンで。そういうシーンを、カットを割って何度も演じるというのはやっぱり大変なんですよ。

──長回しで撮ったシーンはテイク数もできるだけ抑えようという意識もあったのでしょうか。例えば、面接のシーンはテイクを重ねましたか。

中川 2テイクぐらいだったかな。

山時 そうですね。でも、カメラが僕向きの時は一発OKをもらえた気がします。

中川 そうだね。あと、菅野(美穂)さんが演じたお母さんと佑がふたりで話す引きのカットも一発だったかな。

山時 そうだったと思います。

中川 やっぱり、テイク1はみんなの集中力が高まるものですから。なるべくテイクを重ねずにいきたいとは思っているんです。だからこそ、事前の話し合いをちゃんとする。本番一発でいけるよう、準備をしっかりして臨む。認識の齟齬がないようにしようと注力しました。