FLYING POSTMAN PRESS

中川駿×山時聡真『90メートル』

難病を患う母と、その世話をする息子
想い合う親子を描く映画『90メートル』
中川駿監督と山時聡真が撮影を振り返る

 高校3年生、人生の岐路に立つ息子の佑(たすく)と、難病を患いながらも息子の希望ある明日を願う佑の母・美咲。互いを想い合う親子の姿を描いた映画『90メートル』が3月27日より公開される。ヤングケアラーという社会問題を丁寧に描きながら、重厚な社会派映画という仕上がりではない。これは、多くの人にとって身に覚えのある普遍的な親子の愛の物語。絶望に沈むのではなく希望を掲げる1本に仕上がっている。

 オリジナルの脚本を書き下ろし、監督を務めたのは気鋭の中川駿。迷える高校3年生の息子・佑を演じたのは山時聡真。人として通じ合うものがあると感じているふたりは、本作の撮影現場において映画監督と俳優としてもしっかりと通じ合っていたようだ。

写真:徳田洋平 取材・文:佐藤ちほ
【山時聡真】スタイリング:西村咲喜 ヘアスタイリング&メイクアップ:髙橋幸一(Nestation) 



真摯な俳優、俳優に寄り添う監督

──映画『90メートル』は中川監督の商業長編としては初のオリジナル脚本作品です。企画立ち上がりの経緯を聞かせてください。

中川 僕の商業デビュー作『少女は卒業しない』(2023)でご一緒したプロデューサーから「終末期医療を映画で描いてみないか」と、お話をいただきまして。終末期医療と言われたものの、終末期医療に限らず福祉の話まで広くアンテナを張り、リサーチを始めたんです。その中で、あるドキュメンタリー作品に出会いました。それがALS(筋萎縮性側索硬化症)を患うお母さんと、その面倒を見ている高校生の息子を追ったもので。その作品の中で、ケアマネ(※ケアマネージャー)さんが息子さんに「“僕(※息子のこと)が家にいないといけない”という状況をなくすのが我々の仕事です」とおっしゃった。その言葉が心に残ったんです。僕自身、ガンを患う母親を介護して看取った経験があったので、自分に置き換えて考えてみました。「こちらで面倒を見られるから、気にせず自分の好きなようにしていいよ」と言われたとて、果たして自分だったら出ていけるのか。自分だったら出ていきづらいなと考えてしまったんです。そういう、自分を引き留める思いがヤングケアラー問題の核心なのではないかと、その時気づかされました。また、その作品の母親と息子の様子が僕の母親と僕の様子にシンクロし、何か運命的なものを感じたんです。そして、 “出ていきたいけれど、出ていけるけれど、本当に出ていっていいのか迷う男の子の話”というイメージが湧いた。この方向で作品を作ってみようと思いました。

──その後、中川監督が書き下ろした脚本を読み、山時さんはどう感じましたか。

山時 息子の佑と年齢が近かったこともあり、佑の目線で脚本を読みました。佑の生活を自分自身の生活と比べ、少し難しく感じたところは正直ありました。でも、佑の生活には親子愛だったり、友情だったりがちゃんとある。佑の周りにいる人たちのやさしさを感じられ、すごくあたたかい物語だなって。この物語で絶対に佑を演じたい。そんな強い思いを持ってオーディションを受けました。

──実際のオーディションはいかがでしたか。

山時 オーディションって“ザ・試験会場”という感じで、いつもすごく緊張してしまうんです。オーディションを受ける側と、審査している人たち側と、実際にはそんなに距離が離れていないはずなのに、いつもすごく距離があるように感じるんです。でも、今回のオーディションは監督との距離が近かったです。監督と対話できている感じがしました。

中川 最初に「ありがとう」って言ったと思う。僕は『君たちはどう生きるか』(2023)という作品が大好きで。観終わってから物販コーナーでポスターを買い、家に帰ってすぐにそのポスターを貼ったぐらい好きなんです。その主人公の声を演じたのが山ちゃん(※山時の愛称)だったから、まずお礼を言わせてくれと。

山時 覚えています。

中川 そういうカジュアルな入りだったから、割と話しやすい場になったのかな。

山時 そうですね。またオーディションの内容も新鮮で。僕の母とその場で電話をするという課題をいただいたんです。事前に聞かされていたので、母にはオーディション会場から電話をすると伝えていたんですけど、話す内容は決まっていなくて。監督には「お母さんにひとつ質問してほしい」とリクエストされました。それで、自分が考えた質問を母にしてみて、その質問から始まるふたりの会話を10分ぐらい見られるという。これまでにない新鮮なオーディションでした。

──中川監督は山時さんについて「どことなく僕に似ていて」と、山時さんは中川監督について「本当に感覚が合います」とコメントされています。互いに近しく感じていたのが伝わりますが、どんな瞬間にそう感じたのでしょうか。

中川 見てください。今日の服の色味からして似ていません?

山時 本当だ(笑)。

──確かに(笑)。ファッションの方向性からして合うわけですか。

中川 そうなんですよ。今日の服は衣裳でしょうけど、実は普段着も似ているんですよ。

山時 そうなんですよね(笑)。

中川 また、ふたりともバスケが大好きでずっと打ち込んでいたんです。そういう、小さな共通項が多いんだよね。

山時 はい。

中川 あと、キャラクターは明るいんだけど、実は周りに気を配っているところとかにもシンパシーを感じます。

山時 僕が監督といちばん通じ合えたなと思ったのが、佑が大学受験で面接を受けるシーンの撮影の時。撮影前に監督が「これがいちばん好きなシーンなんだよね」と言っていて。まさに僕もそう思いながら撮影に臨んでいたので、そう声をかけてもらった瞬間、監督と繋がれた気がしました。本番が終わってから「良かった」と言ってくださって、安心したのもよく覚えています。

中川 ほっこりして終わったよね。

山時 はい。

中川 オーディションであえて芝居を見なかったのは、彼の芝居の実力は過去作を観てじゅうぶんわかっていたからなんです。知りたかったのは、彼自身にとってお母さんがどういう存在なのか、お母さんとの関係性はどんなものなのか、というところだった。それでその場でお母さんに電話をしてもらったわけですけど、電話する中で彼がお母さんをリスペクトしていることがすごく伝わってきて。その点において佑に通じるものがあり、だからこそ山時君に佑役をお願いしたんですけど、その点が象徴的に現れたのがあの面接のシーンだったと思います。お母さんへの敬意を話すシーンですから。あのシーンの佑の言葉は芝居とかじゃなく、彼自身から自然に発せられている言葉のように感じた。山ちゃんに依頼した甲斐があったと思いました。僕はあのシーンがすごく好きだし、いいシーンになったと自負しています。