FLYING POSTMAN PRESS

アカデミー賞ノミネート外の注目作

ポイントは、エンタメ性とメッセージ性
アカデミー賞選外でも注目したい4本

 第98回アカデミー賞にノミネートされてもおかしくなかった4本の映画が、3月のスクリーンに続々お目見え。大ヒットミュージカルの最終章に、リストラから始まる衝撃の物語、ある看護師の遅番をスリリングに描いた1本、イスラエル・パレスチナ問題に新たな視座をもたらす1本。ひょっとしたら、ノミネート作以上に心に響く作品と出会えるかもしれない。



大ヒットミュージカル映画の最終章
ふたりの魔女の勇気が世界を変える

 L・フランク・ボームが著した小説『オズの魔法使い』の世界を題材に、同作に登場する<悪い魔女>と<善い魔女>の友情をテーマにグレゴリー・マグワイアが著した小説『ウィキッド』。その後、小説『ウィキッド』を原作としたブロードウェイ・ミュージカルが世界中で大ヒット。このミュージカル劇を原作にした大ヒットミュージカル映画が、ついにフィナーレを迎える。

 前編『ウィキッド ふたりの魔女』(2024)に続き、監督を務めるのは『クレイジー・リッチ!』(2018)や『イン・ザ・ハイツ』(2021)を手がけるジョン・M・チュウ。<悪い魔女>エルファバ役に、エミー賞やグラミー賞に輝き、『ハリエット』(2019)ではオスカー候補にもなったシンシア・エリヴォ。<善い魔女>グリンダ役にグラミー賞アーティストのアリアナ・グランデ。前編のパフォーマンスが高く評価され、第97回アカデミー賞ではそれぞれ主演女優賞、助演女優賞にノミネートされたふたりが後編でも見事なパフォーマンスを披露し、化学反応を起こしている。

 前編に引き続き音楽を担当するのはジョン・パウエル、そして舞台版で音楽と作詞を手がけたスティーヴン・シュワルツ。シュワルツは歌曲の作詞作曲も担い、後編ではエルファバが歌う『ノー・プレイス・ライク・ホーム』、グリンダが歌う『ザ・ガール・イン・ザ・バブル』という、舞台版にはない映画オリジナルの新曲2曲も書き下ろしている。

 第83回ゴールデングローブ賞をはじめ、映画各賞を賑わせたミュージカル映画の秀作。道を違えたふたりの魔女は、最後にどんな答えを出すのか──。<悪い魔女><善い魔女>と語られる女性たちの、まぶしくて切ない友情の物語がここに。


point of view

 『ウィキッド ふたりの魔女』はミュージカル映画の理想形と言えるものだった。深いテーマと多彩な楽曲、主演俳優ふたりの圧巻のパフォーマンスと化学反応、魔法のようなプロダクション・デザイン、そしてキャラクターの個性を伝えるヘアスタイリング&メイクアップ。すべてにおいて隙がなかった。

 その続きであり、物語の最終章となる本作では、前編のスタイルや世界を引き継ぎつつ、情感をより強く描いている印象。前編の最後に道を違えたふたりの魔女、エルファバとグリンダ。エルファバは<悪い魔女>として忌み嫌われるという大きな代償を払いながらも、正義のためにたったひとりで戦い続ける。一方のグリンダは<善い魔女>として希望を象徴する存在に。エルファバと違ってグリンダは戦うことを恐れている。正しいことはしたいけれど、持ってしまったものを手放したくはない。迷わないエルファバと迷えるグリンダ、ふたりは一見正反対だが、その実、どちらも孤独に苛まれている。そんなふたりの道が再び繋がっていく様子が、エモーショナルに描かれている。

 エルファバ役のシンシア・エリヴォのパワフルでメリハリのある歌声、グリンダ役のアリアナ・グランデの伸びやかで美しい歌声も健在。そして今回もやはり、ふたりの歌声は重なり合うことでより魅力を増していく。スクリーンで再び化学反応が起こるさまを見届けたい。

『ウィキッド 永遠の約束』

https://wicked-movie.jp/

2025年/アメリカ/137分

監督 ジョン・M・チュウ
出演 シンシア・エリヴォ アリアナ・グランデ ジョナサン・ベイリー イーサン・スレイター ミシェル・ヨー ジェフ・ゴールドブラム ほか
配給 東宝東和

※3月6日(金)より全国公開

©Universal Studios. All Rights Reserved.

パク・チャヌク監督×イ・ビョンホン
リストラ・パパの衝撃の再就職活動

 『オールド・ボーイ』(2003)や『別れる決心』(2022)などを手がける韓国のパク・チャヌク監督の最新作で、第50回トロント国際映画祭にて国際観客賞を受賞したほか、世界各地の映画賞レースで注目を集めた1本。ドナルド・E・ウェストレイクが著した小説『斧』を原作に、誰もが直面し得る“突然の解雇”という現実をパク・チャヌク独自の視点で描いていく。

 製紙会社で25年間堅実に仕事をし、妻とふたりの子ども、2匹の犬と郊外の一軒家で理想的な人生を送っていたものの、突然解雇される主人公マンスを演じるのは、世界的に活躍する俳優イ・ビョンホン。『JSA』(2000)以来、長編映画では25年ぶりにパク・チャヌク監督作に出演し、その演技が高く評価され、第83回ゴールデングローブ賞においてミュージカル/コメディ部門の主演男優賞にノミネートされた。マンスの妻ミリに『私の頭の中の消しゴム』(2004)やドラマ「愛の不時着」(2019~2020)などに出演するソン・イェジン。さらにパク・ヒスン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、チャ・スンウォンら韓国の実力派キャストが集結し、映画を盛り立てる。

 撮影は『1987、ある闘いの真実』(2017)などを手がけるキム・ウヒョン、美術は『オールド・ボーイ』から『別れる決心』まで長年パク・チャヌク監督とタッグを組んできたリュ・ソンヒ、音楽は『別れる決心』で音楽賞を席巻したチョ・ヨンウク。スタッフも一流が集結し、パク・チャヌクの独創的な世界を支えている。 理想的な人生を送っていた主人公は解雇され、就職活動に苦戦する中、まさかの解決法を思いつく。“ライバルがいなくなれば、仕事は手に入る”。果たして、主人公の選択はどんな事態を引き起こすのか──。


point of view

 トーンや方向性で言ったら、『パラサイト 半地下の家族』(2019)に近いものがある。現代社会の病巣を思いっきり抉りつつ、家族のドラマやコメディ、スリラーといったジャンルを自由に行き来するエンタテインメントへと仕立てられた本作。まさか、リストラがこんな事態を引き起こしてしまうとは──。家族との生活を守りたい一心でとんでもないことをしでかす父親は、ヤバいけれど同時に哀しく滑稽で、挙げ句の果てには愛おしいとさえ思えるから面白い。一歩間違えれば狂人となるところを、“愚かで人間味のある、家族を持つ男”としたパク・チャヌクの演出力、それに応えたイ・ビョンホンの演技力に拍手を送りたい。

 初めから終わりまでドラマティックな展開が続き、息つく暇なし。問答無用で“面白い”と思える、韓国映画の快作がまたひとつ誕生した。

『しあわせな選択』

https://nootherchoice.jp

2025年/韓国/139分/PG12

監督 パク・チャヌク
出演 イ・ビョンホン ソン・イェジン パク・ヒスン イ・ソンミン ヨム・ヘラン チャ・スンウォン ほか
配給 キノフィルムズ

※3月6日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開

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