FLYING POSTMAN PRESS

平岳大『レンタル・ファミリー』

虚構でも、そこに生まれる感情は本物

──撮影前には、本作で描かれるレンタルファミリー社のような企業で働く人たちの取材もされたそうですね。

 はい、レンタルファミリー社のメンバーの愛子を演じる山本真理ちゃんと一緒に話を聞きに行きました。真理ちゃんは役者であり、ジャーナリストでもあるんです。また、彼女は「TOKYO VICE」(2022~)というドラマシリーズの脚本家のひとりでもあって。撮影前、リハーサルを重ねていくうちに、「レンタルファミリー事業をやっている人たちに実際に会いたい」と真理ちゃんが言い出したんです。HIKARIさんは脚本を書く時に実際に業界の人たちに会って話を聞いているので、その時は真理ちゃんと僕のふたりで行くことになりました。いろんな話を聞きましたが、特に印象的だったのが、都会でひとり暮らしをしているおばあさんからの依頼です。夜寝る時に寂しいからと、自分の娘と同じぐらいの年代の女性スタッフに、何もしなくていいから、ただ同じ家の中で寝ていてほしいとおばあさんに依頼されたと。それまでは、レンタルファミリーという仕事は人を幸せにするために嘘をつく仕事というか、客観的には嘘かなっていうのが前提としてあった。でも、そのおばあさんの話を聞いた時、この映画のストーリーが腑に落ちたんです。僕にも年老いた母がいて、東京でひとり暮らしをしています。一方、息子の僕はアメリカで暮らしている。ひとりで不安な夜を過ごしている時、何もしなくてもいい。ただ誰かが同じ家の中にいるだけで安心できるっていう、そのことには嘘がないじゃないですか。

──確かに。“レンタルファミリー”という仕事は“人の心を守るために嘘をつく”仕事と言えますが、その仕事を通じて芽生える感情や絆は本物ですよね。それは映画を観ても感じられます。

 そうなんです。絵空事を演じる仕事ではなく、誰かの心の隙間を埋めるサービスなんだと、おばあさんの話を聞いて腑に落ちた。あの時、実際の話を聞けて本当に良かったです。

──俳優業も同じかと思います。映画やドラマは虚構ですが、虚構の中のキャラクターを演じながら本物の感情が湧き上がる瞬間もよくあるのでは?

 特にアメリカで役者をやるようになってから、現場で本当に感じることが大切なんだと強く思うようになりました。アメリカに来てから、ディレクターに「お前は今、何を感じているんだ? もっとお前の感情を出せ」と、よく言われるようになって。ドラマや映画は虚構ですが、その中にある一つひとつの瞬間は嘘じゃない。確かに、役者の仕事とレンタルファミリーの仕事は似ているかもしれません。

──ブレンダン・フレイザーさんとの共演はいかがでしたか。俳優としての魅力をどう感じたのか聞かせてください。

 この映画はいろんな映画祭で上映されたので、僕も4、5回は観ています。観れば観るほどブレンダンはすごい役者だと思いますね。とにかく的確なんですよ。でもその的確さは、技術だけから来るものではないというか。

──テクニックを超えたものだと。

 そうなんですよ。ブレンダンの観る人を説得する力、引きつける力は本当にすごいものがあります。また、彼の素の部分を見ても本当に素晴らしい人で。日本でロケしていた時、彼が日本のすべてを受け入れている様子を見ながら、その姿勢が本当に素晴らしいと思いました。今でも思い出すのが、松戸あたりで撮影していた時のこと。その周辺に高級ホテルはなくて、みんな一緒にビジネスホテルに泊まったんです。そのビジネスホテルのいちばん上の階には宿泊客が使える大浴場があり、僕は大浴場が好きなので着いて早々、浴衣に着替えて大浴場に行ったんです。向かっている間ふと、“大浴場にブレンダン・フレイザーがいたら面白いな”と思ったんです。“ブレンダンは大浴場に行ったらどんなリアクションするのかな?”と、ひとり想像して楽しんでいた。で、大浴場に着いてガラガラとドアを開けたら、ブレンダンがお風呂に浸かっているんです(笑)。

──すでに現実になっていたわけですか(笑)。

 もういたんです(笑)。またその時、近くで子どもたちのスポーツ大会があったらしく、そのビジネスホテルには遠征してきたちびっ子がたくさん泊まっていて。ブレンダンが浸かっているお風呂で、小学校3年生ぐらいのちびっ子たちが泳いでいるんですよ。オスカー俳優がそこにいるのに(笑)。もちろん、ちびっ子たちはブレンダンを知らないわけです。まだ撮影序盤だったので、裸の付き合いに誘うような感じでもないかなと思い、その時はそっとしておいたんですけどね。その時のブレンダンはどうしていたかと言うと、少しも気負うことなく、ちびっ子たちから何から、全部を受け入れていた。ブレンダンのあの感じがすごく良かったし、そういう姿勢は映像にも出ているんじゃないかな。フィリップの人物像にも間違いなくプラスアルファがあったと思います。

──ブレンダン・フレイザーさんは「家族とは、生まれながらに与えられた存在ではなく、自ら受け入れる存在」と語っています。平さんは本作を経た今、家族とはどんな存在だと思っていますか。

 ある本に、人間には3つの“ち”があると書かれていて。ひとつ目はBLOODの“血”。ふたつ目はAREAの“地”。そして3つ目は“知”。ふたつ目までは自分ではどうしようもないものですが、3つ目の“知”だけは自分でなんとかできるじゃないですか。今は親ガチャという言葉がありますが、もしも親ガチャに外れてしまったとしても、大人になってから3つ目の“知”をもって自分の家族を選べるということだと思うんですね。『レンタル・ファミリー』で描かれる家族というのは、そういうものかもしれません。

──最後にひとつ。FLYING POSTMAN PRESSは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>をコンセプトに展開しています。ご自身の人生を豊かにしてくれたと思う作品を教えてください。

 『ダーティ・ダンシング』(1987)という青春ダンス映画です。中学生の頃に観て衝撃を受けました。1960年代のアメリカのオールディーズ中心の音楽も最高で、僕はこの映画を観てものすごくアメリカに憧れたんです。それまではサッカー少年だったんですよ。サッカーをがんばってから誰もいない家に帰ってきて、『ダーティ・ダンシング』を観た。あれは忘れられない思い出です。観てすぐに、これはアメリカに行くしかないとエネルギーをため込むことになった。実際にその後、アメリカのイーストコーストに留学しましたが、『ダーティ・ダンシング』の舞台もイーストコーストなんですよ。あの映画からの影響は大きかったんでしょうね。

──そんな原体験があって今があるわけですね。

 アメリカに憧れたサッカー少年が、こうして大人になってアメリカで役者をやっている。なんだか自分でも不思議ですが、あの映画が人生を変えてくれたのかなと思います。


平 岳大(ひら たけひろ)

1974年生まれ、東京都出身。俳優。近年の主な出演作にNetflixシリーズ「Giri/Haji」(2019)、Disney+ドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」(2024〜)、映画『キャプテン・アメリカ: ブレイブ・ニュー・ワールド』(2025)。待機作に映画『Karoshi(原題)』、『Anima(原題)』などがある

『レンタル・ファミリー』

https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily

2025年/アメリカ・日本/110分

監督 HIKARI
脚本 HIKARI スティーブン・ブレイハット
出演 ブレンダン・フレイザー 平 岳大 山本真理 柄本 明 ゴーマン シャノン 眞陽ほか
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン

※2月27日(金)より全国公開

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