FLYING POSTMAN PRESS

平岳大『レンタル・ファミリー』

孤独に沈む現代人を癒すのは、仮の家族
映画『レンタル・ファミリー』出演
俳優・平岳大が振り返る撮影の日々

 長編監督デビュー作『37セカンズ』(2019)で高く評価されたHIKARIが監督と共同脚本を、『ザ・ホエール』(2022)で第95回アカデミー賞®主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーが主演を務めた映画『レンタル・ファミリー』が、2月27日(金)より公開される。描かれるのは、現代の日本に数多く存在する“家族や友人のレンタル・ビジネス”にかかわるアメリカ人俳優フィリップの姿。東京に暮らすフィリップは、顧客の要望に応じて仮の家族や友人を演じながらさまざまな人生を体験し、顧客たちと心を通わせ、やがては自身の人生も見つめ直していくこととなる。

 そんな主人公を雇うレンタルファミリー社のオーナー・多田を演じるのは、平岳大。アメリカに暮らし、数多くの海外製作のドラマや映画で活躍する俳優は『レンタル・ファミリー』の撮影を通じて何を思ったのか。日本の視点と海外の視点、両方を持ち合わせる俳優に話を聞いた。

取材・文:佐藤ちほ



ずっと探していた物語に出会えた

──HIKARI監督とスティーブン・ブレイハットさんが共同で手がけた映画『レンタル・ファミリー』の脚本を読み、どんな魅力を感じましたか。

 僕は高校、大学とアメリカに留学し、向こうで長年生活した後、いったん日本に帰ってきてから役者になり、今はハワイで家族と暮らしながら役者をしています。“日本人としての視点”と“日本の外からの視点”の両方が学生時代から自分の中にあり、役者になってからもそのふたつの視点を持ち続けてきました。これは特に海外製作の作品に多く出演するようになってから思うことですが、日本の社会をちゃんと描き、その良さを海外の人にも伝えられるようなストーリーってなかなかないんですよね。そういうストーリーをずっと探していたところがあって。日本の社会や日本人の生き方には海外の人からしたら不思議なところもあるだろうけれど、その中には国境や人種を超えて琴線に触れるようなものだって確かにあるはずだと。『レンタル・ファミリー』の脚本を読み、ずっと探していたストーリーに出会えたという感じがしました。それはHIKARIさんの長編監督デビュー作『37セカンズ』を観ても感じられるところでした。

──HIKARI監督の作品には、東洋的な視点と西洋的な視点がバランス良く備わっているように感じます。

 おっしゃる通りです。日本のいいところと、日本のおかしなところの両方をちゃんと具現化してくれている。またHIKARIさんの視点で描かれるストーリーは、海外の方々にもちゃんと響く普遍的なものになっている。それが素晴らしいなと思いますね。

──『レンタル・ファミリー』の主人公フィリップは、母国ではない国に暮らしながら俳優業をしています。ご自身の境遇とも重なる、親近感が湧く主人公なのではないでしょうか。

 まさにそうなんです。完成した映画を観て僕が最初に泣いたシーンは、ブレンダン(・フレイザー)演じるフィリップがひとり暮らしをするアパートに帰ってきてベッドに座る、というシーンでした。コンビニから何か食べるものを買ってきて、ベッドに座ってふと窓の外の景色を見る。あの瞬間ににじむ孤独、寂しさ……、それがすごくよくわかったんです。アメリカに留学していた高校生の頃、僕は寮生活をしていました。例えばサンクスギビングやクリスマスやお正月の間、周りのみんなは実家に帰ったりする中、どこにも行くあてのない僕は寮にいて。アメリカ版のコンビニごはんを買ってきて、寮の部屋のベッドの上で食べたりしていたんです。“自分はこれからどうなってしまうんだろう…?”というあの感じ。フィリップがあの頃の自分と重なり、涙がこぼれてしまいました。

──ご自身が演じた、“レンタルファミリー”ビジネスを営む多田についてはいかがでしょう。その人物像をどう見ていましたか。

 HIKARIさんがおっしゃっていたのは、カメレオンのようにいろんな面を持っている男だと。フィリップに対する態度を見てもそれはわかります。雇い主としてビジネス視点のみで接していたかと思えば、ひとりの人間としてフィリップを見て、顧客に感情移入し過ぎている様子の彼に手を差し伸べたりもする。突き放したり、手を差し伸べたり、いったいどっちなんだろうと思いますが、そのどっちつかずな感じが多田という人間の面白さなのかなと。どっちつかずな感じを、あまり説明的なことはせずにさらっと演じる。それがHIKARIさんのスタイルなのかなと考えながら多田を演じていました。

──説明を極力省いて観る側の想像力に委ねる、という点のほかにも、HIKARI監督の演出で印象的だったものはありますか。

 HIKARIさんはとにかく粘ります。多田役はオーディションで決まったんですが、まず僕が送ったオーディション・テープをHIKARIさんに観てもらって、Zoomでもう一度オーディションをしましょう、という流れでした。Zoomオーディションはよくありますが、大体は短いシーンを2つ、3つぐらいやるんです。一度演じてみて、監督から「次はこんな感じでやってみてください」と言われ、その通りにやってみる。その流れを2つ、3つのシーンでやる感じで、20~30分で終わるようなものなんです。それをHIKARIさんは1時間半やったんですよ。僕単独のオーディションのほかにも、ブレンダンとのケミストリーを見るためのオーディションもじっくり時間をかけてやりました。オーディションの時点で相当時間をかけてじっくり話したので、やがて東京で初めてお会いした際にはなんだかもう、親戚に会ったような気分でした(笑)。

──撮影時にHIKARI監督が特に粘ったシーンと言うと?

 それが、なんでもないシーンだったりするんです。僕が演じる多田が事務所でファイリングをしているところに、フィリップが帰ってくる。多田が帰ってきたフィリップに、ある顧客と会うのは次で最後だと伝えるところはかなりテイクを重ねました。多田がフィリップに視線を送るところがあるのですが、HIKARIさんはその視線の送り方をいろいろ試してみたいと。はっきり見るのか、それとも視線を送ったか送らないかぐらいにするのか。ニュアンスで観るほうの感じ方が違ってくるからとHIKARIさんがおっしゃって。アフレコもかなりテイクを重ねましたね。多田が怒りながら言っている台詞をアフレコする時、「ここ、笑いながら言ってみて」と言われたりして。怒っているところを笑いながら言ってみたら変だと思うじゃないですか。でも、HIKARIさんは試してみたいんです。こうしたらどうなるんだろう、ああしたらどうなるんだろうと、止まらなくなってしまう。HIKARIさんは、とにかく芝居が好きなんだと思います。