CINEMA
2月公開:アカデミー賞ノミネート

2月公開のアカデミー賞ノミネート作 あっと驚く誘拐劇、不器用な家族の物語
第98回アカデミー賞の授賞式を3月15日(※日本時間16日)に控え、日本でも今後、ノミネート作が続々公開される。予想外の展開続きの誘拐劇に、共感を呼ぶ家族の物語。2月にスクリーンにお目見えする珠玉の2本を紹介する。

ヨルゴス・ランティモス×エマ・ストーン 混沌とした時代を描く前代未聞の誘拐劇
ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンの5度目のタッグ作であり、第98回アカデミー賞において作品賞、主演女優賞、脚色賞、作曲賞にノミネートされた前代未聞の誘拐サスペンス。韓国の伝説的なカルト映画『地球を守れ!』(2003)を題材に、現代を映し出すエンタテインメントへとパワーアップさせた。物語の中心にいるのは、誘拐されて人質となったカリスマCEOミシェルと、ミシェルを地球を滅ぼすアンドロメダ星人だと信じ込む誘拐犯のテディとドン。誘拐犯宅の地下室で両者は駆け引きを繰り広げ、物語は予期せぬ方向へと転がっていく。
ミシェル役とプロデュースを担うのは、『ラ・ラ・ランド』(2016)、ヨルゴス・ランティモス監督作『哀れなるものたち』(2023)で二度アカデミー賞主演女優賞を受賞したエマ・ストーン。真実と偽りの間を巧みにバランスを取りながら行き来し、またも演技の限界を突破している。対するテディを狂気と切なさを併せ持って演じるのは、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)で観客を震え上がらせ、ヨルゴス・ランティモス監督作『憐れみの3章』(2024)の演技も高く評価されたジェシー・プレモンス。テディのいとこのドンには、これが映画初出演となるエイダン・デルビス。個性的な演技で波紋を呼び、前代未聞の展開の鍵を握る。
『ミッドサマー』(2019)のアリ・アスターと、『パラサイト 半地下の家族』(2019)のチームが名を連ねるなど、製作も強力な布陣。「お前は宇宙人だ」と言い張る誘拐犯と、知恵で彼らを言いくるめようとする人質ミシェル。「助かりたければ地球から撤退せよ」という支離滅裂な要求をする犯人を相手に、カリスマCEOのミシェルはどう難局を乗り越えるのか──? 衝撃&痛快のラストまで一時たりとも目が離せない。
point of view
ある日起こった誘拐事件。人質となったミシェルは、“成功した女性CEO”を絵に描いたよう。モダンでハイテクな豪邸に住み、筋トレや護身術のレッスン、美容ケアを欠かさず、ハイ・ブランドの服を着こなし、高級車に乗って自分の会社へと出社する。一方、ある不幸をきっかけにして孤立を深める誘拐犯のテディとドン。とりわけ、テディは現代社会に数多くいる陰謀論者の典型のよう。“世の中から取り残される”不安や恐怖心を、何かを盲目的に信じることで払拭しているように見える。
これ以上ないほど分断が進む現代社会にある対立構造を、3人の姿でわかりやすく提示している。そう感じる人も多いはずだ。テディの言うことは支離滅裂で、対する頭脳明晰なミシェルは巧みな話術で彼を揺さぶって窮地を脱しようとする。そんな構図に見えるはずだ。
だが、そこはヨルゴス・ランティモス×エマ・ストーンのタッグ作。物事は見かけ通りではない。いつしか観客は彼らを、そして自分自身を疑うことになるはずだ。自分とは隔たりのある人たちに対して無意識のうちに下している判断は、本当に確かなのか――。そんな問いが投げかけられ、ハッとさせられる。
と言っても、難しい映画ではない。展開が読めず目が離せないし、大いに笑い、たじろぎ、不意を突かれて涙がこぼれ、でもやっぱり笑える、エンタテインメント性の高い映画に仕上がっている。これは確かに、前代未聞の誘拐劇。世界滅亡の危機に瀕する時代を描いた、恐ろしく笑える、あるいは笑えるほど恐ろしい物語がここに。

『ブゴニア』
2025年/アイルランド・イギリス・カナダ・韓国・アメリカ/118分/PG12
| 監督 | ヨルゴス・ランティモス |
|---|---|
| 出演 | エマ・ストーン ジェシー・プレモンス エイダン・デルビス ほか |
| 配給 | ギャガ ユニバーサル映画 |
※2月13日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
©2025 FOCUS FEATURES LLC.

ヨアキム・トリアーが紡ぐ家族のドラマ こじれた父娘の再会、不器用な愛の物語
『わたしは最悪。』(2021)で第94回アカデミー賞の脚本賞、国際長編映画賞にノミネートされたヨアキム・トリアーの監督最新作。これまでの長編映画同様に脚本家のエスキル・フォクトと共同で脚本も担い、『わたしは最悪。』で主演を務めて世界的に飛躍したレナーテ・レインスヴェを再び主演に迎え、ノルウェーの首都オスロに暮らす親密な姉妹が長年離れていた父と再会する姿を通じ、家族の許しと和解の可能性を描いていく。
その複雑かつ緊張感に満ちた人間模様は第78回カンヌ国際映画祭で称賛され、グランプリを獲得。さらに、第98回アカデミー賞では作品賞、ヨアキム・トリアーが監督賞、俳優として活躍する姉ノーラ役のレナーテ・レインスヴェが主演女優賞、その父で著名な映画監督グスタヴ役のステラン・スカルスガルドが助演男優賞、ノーラの妹であり、夫と息子と地に足をつけて暮らす妹のアグネス役のインガ・イブスドッテル・リッレオース、キャリアに迷いが生じているアメリカ人俳優レイチェル役のエル・ファニングのふたりが助演女優賞にノミネート。さらに脚本賞、国際長編映画賞、編集賞にもノミネートされるなど、8部門9ノミネートを果たしている。
かつて家族が暮らした“家”は、壊れてしまった家族の写し鏡のように、それぞれの記憶と感情を映し出していく。不器用な家族はどんな結末を迎えるのか。親子や姉妹の間に存在する複雑な絆に胸はざわめき、やがて深い感動を覚えるはずだ。
point of view
ヨアキム・トリアーは深い洞察をもって家族の人間模様を、その揺らぎや緊張も含めてリアルに浮かび上がらせる。渦巻く思いをエネルギーにして演技に生かすことはできても、現実で人と心を通わせることが苦手な長女。その長女が拒絶する父は、実は長女によく似ている。そんなふたりの仲介役になる頼れる次女も、その実、消化しきれない複雑な思いを抱えている。俳優としての成功を手にしたようで、実は行き詰まっているアメリカ人女優は意図せず家族にさざ波を立てるが、同時に、その真摯な姿勢で家族の心を動かしていく。俳優たちはそれぞれの役を深く理解し、的確に表現している。それぞれの演技が影響し合い、調和していくさまに心を奪われた。
『わたしは最悪。』では恋愛と人生の選択を描いたヨアキム・トリアーは、最新作で家族というテーマを選び、映画作家としての才能を改めて示している。近くて遠い、愛おしいけれど面倒な家族と、家族が暮らした“家”を巡る物語。哀しくておかしくて、なんだかたまらなくなる、珠玉の家族映画がまたひとつ生まれた。

『センチメンタル・バリュー』
https://gaga.ne.jp/sentvalue_NOROSHI
2025年/ノルウェー/133分
| 監督 | ヨアキム・トリアー |
|---|---|
| 脚本 | ヨアキム・トリアー エスキル・フォクト |
| 出演 | レナーテ・レインスヴェ ステラン・スカルスガルド インガ・イブスドッテル・リッレオース エル・ファニング ほか |
| 配給 | NOROSHI ギャガ |
※2月20日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
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