CINEMA
ぶっ飛び&新感覚なホラー映画

オーストラリア、アイルランド、日本 世界の新鋭たちの挑戦的なホラー映画
この冬、新感覚で挑戦的なホラー映画が続々公開される。身体変異とロマンスをミックスさせたぶっ飛びホラーに、アイルランド語を使った初めてのホラー、“好き”が暴走する狂気のホラー。震え笑いつつ、作り手の挑戦心と創造性に胸を躍らせるひとときを。

<身体変異>と恋愛の<共依存>が融合 ぶっ飛びジャンル・ミックス型ホラー
第41回サンダンス映画祭におけるワールドプレミアで上映されて大反響を呼び、争奪戦の末に気鋭の映画会社NEONが北米配給権を獲得。2025年の全米映画シーンをザワつかせた1本が日本で公開へ。独学でVFXを学び、短編映画、MV、配信動画コンテンツなどを制作してきたオーストラリア出身のマイケル・シャンクスが監督と脚本を務め、長編デビュー。身体の突然変異を描くボディ・ホラーと、その対極のジャンルとも言えるラブストーリーを融合させつつ、倦怠期に差しかかったカップルが辿る、想像の斜め上を行く運命を描いていく。
主人公のカップル、ティムとミリーを演じるのはデイヴ・フランコとアリソン・ブリー。実生活でも夫婦であるふたりが、マイケル・シャンクスが手がけたオリジナル脚本に惚れ込み、主演とプロデューサーを兼任。長年連れ添ったカップルの親密さや、長年一緒にいるからこそすれ違うさまを自然に伝え、迫真性を備えている。
“感情は離れても、身体はくっついていく”という、世にも奇妙な状況をスリルとサプライズ、ブラックユーモアもたっぷり交えて描いた1本。SFホラーの金字塔『エイリアン』(1979)、ボディ・ ホラー最盛期の名作『遊星からの物体X』(1982)、黒沢清監督の『CURE』(1997)といった作品から影響を受けたと語る新鋭マイケル・シャンクスが、その豊かな創造性と抜群の映像感覚を発揮している。
point of view
『釣りバカ日誌』シリーズ(1988~2009)の“合体”以来の、インパクト大な“合体”表現だ。視覚効果と特殊メイクを駆使した“合体”=身体融合の描写は、あまりの生々しさとグロさにヒィと息をのみつつ、思わず笑いがこみ上げるものになっている。そもそも、自分以外の誰かと人生を共有し続け、自分と相手との境界があいまいになっていく感じ、それに伴う恐怖や不安を、本当に身体をくっつけることで表現しようという発想自体が斬新。ボディ・ホラーとラブストーリーはまさかの“合体”を遂げ、観客に<共依存>の感覚をスリリングにロマンティックに植え付ける。身体的にも、精神的にも。
なお、本作ではスパイス・ガールズの『2 Become 1』が印象的に使われている。“愛の一体感”を伝える官能的なラブバラードが流れた瞬間、ゾクリとしつつ、やはり笑いがこみ上げた。プロット、映像表現が巧妙なだけではなく、音楽のセンスも抜群なマイケル・シャンクス監督。今後の世界的飛躍が期待される。

『トゥギャザー』
2025年/オーストラリア・アメリカ/101分/PG12
| 監督・脚本 | マイケル・シャンクス |
|---|---|
| 出演 | アリソン・ブリー デイヴ・フランコ ほか |
| 配給 | キノフィルムズ |
※2月6日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
©2025 Project Foxtrot, LLC

アイルランドの地に巣くう狂夢 トラウマの根源を描く“ルーツ”ホラー
アイルランド出身の新進気鋭アシュリン・クラークが監督と脚本を務め、第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭や第77回ロカルノ国際映画祭などで上映されて話題を呼んだほか、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で批評家スコア96%(※2026年1月現在)の高評価を獲得。全編アイルランド語で紡がれた初の長編ホラー映画であり、英語圏ホラーとは一線を画す1本として注目されている。
物語の舞台は、アイルランドの人里離れた村。アイルランド出身の俳優であり、作家でもあるクレア・モネリー演じる看護師の女性が、閉ざされた村に漂う“何か”の気配を感じ始め、見えない恐怖にのみ込まれていくさまを描いていく。
タイトルはアイルランドの言葉、fréamhacha(フレーヴァハ)=根に由来する。ケルト神話に宿る“土着の祈り”と“呪い”を現代的解釈で甦らせつつ、地中でうねうねと絡み合う太い根のように、決して断ち切れない女性たちの痛みを描く、救いなきフォーク・ホラーが誕生した。
point of view
第一にアイルランド語の語感が新鮮だ。英語と似ているかと思いきやまったくの別物で、その独特の響きが物語のミステリアスさを増幅させている。その土地に根づいた“何か”が登場人物を追い詰めていく、つまり土着的なホラーである点も印象的だ。例えばアイルランドの農村では、麦わらの奇怪な被りものをした“ストローボーイ”と呼ばれる人々が婚礼の場に押しかけて踊る風習があったという。本作にも、仮面をつけた少年が太鼓を叩くと、ストローボーイたちがじりじりと迫ってくるシーンがある。野外であるにもかかわらず、狭い箱に閉じ込められたかのように錯覚してしまうのはなぜだろう。精神的に追いつめられる主人公を観ながらこちらも息苦しくなり、胸中がザワついた。
アシュリン・クラーク監督は本作で、“決して断ち切れない女性たちの痛み”を描いたと話している。母から娘へ、老婆から若い看護師の女性へと伝えられるのは、数多の女性たちの犠牲の記憶。世代を超えて受け継がれてしまった犠牲、その痛みをフォーク・ホラーの文脈で、現代的な解釈もしつつ描く。その挑戦的な創作に注目してほしい。

『FRÉWAKA/フレワカ』
2024年/アイルランド/103分
| 監督・脚本 | アシュリン・クラーク |
|---|---|
| 出演 | クレア・モネリー ブリッド・ニー・ニーチテイン ほか |
| 配給 | ショウゲート |
※2月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開
©Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

ゆりやんレトリィバァ初監督映画 愛の歪みを描く未体験の恐怖をあなたに
2021年にあるテレビ番組で「次は映画監督に挑戦したい」とゆりやんレトリィバァが発言し、たまたま番組を観ていたプロデューサーがコンタクトを取って企画が始動。約1年間、プロデューサーはゆりやんレトリィバァの恋バナを聞き続け、その恋愛観がこうして1本の映画に。ゆりやんレトリィバァが監督を、『ミスミソウ』(2017)などを手がける映画監督の内藤瑛亮が脚本を務め、好きになった男たちに執拗に付きまとうと噂される禍禍女(まがまがおんな)と、禍禍女に興味を持って正体を追う美大生の姿を、ホラーシーンやミュージカルシーンを大胆に織り交ぜつつ描いていく。
ある男性に思いを寄せる美大生・上原早苗を演じるのは南沙良。そのほか、前田旺志郎、パフォーミングアーティストのアオイヤマダ、髙石あかり、お笑い芸人の九条ジョー、斎藤工、田中麗奈ら個性豊かなキャストが揃った。
第45回ハワイ国際映画祭でハレクラニ・ヴァンガード・アワードを、第54回モントリオール・ニュー・シネマ国際映画祭でTempsØ部門の観客賞を、第8回モンスターズ・ファンタステック映画祭の国際⻑編映画コンペティション部門で最優秀作品賞を、第62回台北金馬映画祭で同映画祭では日本人映画監督として初となるNETPAC賞を受賞。まさに“海外からの逆輸入”状態。愛情の暴走と歪みを描く、未体験の恐怖がここに。
point of view
ゆりやんレトリィバァの“好き”を突き詰めたらホラーになった、ということなのだろう。“好き”も過ぎれば執着となり、愛情は暴走して狂気の世界へとのみ込まれていく。面白いホラー映画を観ているとたびたび、恐怖と笑いが同時にこみ上げるものだ。本作を鑑賞中、何度ゾワッとしつつも笑い声を上げてしまったことか。禍禍女のビジュアルは観てのお楽しみだが、ピンクのワンピースをこれほど恐ろしいと思う日が来るとは思ってもみなかった、とだけ伝えておきたい。
キャストも全員がキレッキレだが、とりわけ、美大生・上原早苗を演じた南沙良はこれまでにない姿を見せている。耳を疑うような暴言・妄言をぶっ放し、感情は抑えきれずに叫び声となる。恋情をノーコントロールでぶつけるさまがヤバイ、ヤバイ。顔の筋肉も“人の顔の筋肉ってそんなふうに動かせるんだ!”と驚くほどで、目が離せなくなってしまう。
ぶっ飛んだ映画だけれど決してイロモノではなく、監督の思いや考えがちゃんと形になった、作家性の強い1本とも言える。いざ、純愛と狂気が交錯する“ゆりやんワールド”へ。

『禍禍女』
2025年/日本/113分
| 監督 | ゆりやんレトリィバァ |
|---|---|
| 脚本 | 内藤瑛亮 |
| 出演 | 南 沙良 前田旺志郎 アオイヤマダ 髙石あかり 斎藤 工 田中麗奈 ほか |
| 配給 | K2 Pictures |
※2月6日(金)より全国公開
©2026 K2P
