CINEMA
映画に見る家族、さまざまな愛の形

日本、イギリス、インドの家族の一幕 映画に見る家族、その愛と絆の物語
嘘によって繋がり続ける日本の家族の物語、英国貴族とその使用人たちの継承の物語、あたたかい心で人と人とを繋げる密入国一家の物語。日本、イギリス、インド発、家族を描いた映画を紹介する。

不完全で、厄介で、でもどこか愛おしい ある家族の30年にわたる嘘と絆の物語
寺地はるなが著した同名小説を原作に、『愛に乱暴』(2024)を手がけた森ガキ侑大が監督を務めて映画化。末っ子を喪ったことをきっかけに現実を見なくなった母親をはじめ、誰もが不都合な現実から目を逸らし、嘘を重ねながらも共に生きてきた家族の30年を映していく。
一家の長男・山吹をやわらかく誠実に演じ、家族と物語を支えるのは高杉真宙。山吹の幼馴染み・頼に伊藤万理華、初恋の相手であるかな子に深川麻衣。対極にあるふたりの女性が、山吹の人生を彩っていく。さらに、母・雪乃にシンガーソングライターの安藤裕子、長女であり、山吹の姉・紅に向里祐香、父・淳吾に安田顕、祖母に余貴美子、祖父に柄本明と、実力と個性を併せ持ったキャストが集結した。
⺟は空想の世界へ、父は愛人のもとへと現実逃避し、祖父は夢ばかり語り、祖母は“嘘”を商売道具にする。長女は嘘と嘘つきが嫌いで、長男は嘘をつきながら成長していく。そんな家族の30年には、観る側にとっても身に覚えのある感情や瞬間がちりばめられているはず。
point of view
演出は抑制が効いていて、音楽や劇的な展開で感傷をあおるようなことはない。演者たちも決して大仰には表現せず、淡々と、でもニュアンスのある芝居を積み重ねていく。そして、限界を超えてコップから一気に溢れる水のように、ある瞬間、積み重ねられた小さな嘘や違和感が飽和状態となり、家族の感情がどっと溢れ出す。その光景には観る側も胸を揺さぶられ、やがてはささやかな希望をその胸に宿すことになるはずだ。
家族に対して一点の曇りのない愛情を抱いている人もいるだろうけれど、“どうしようもなく厄介だけれど、それでも家族”というあきらめ混じりの思いを抱いている人も多いだろう。後者のほうにより響く1本のように思える。家族にはいろんなことがあるけれど、それでも続いていく。映画的でありながら、肌触りはリアルな家族の物語を深く味わいたい。

『架空の犬と嘘をつく猫』
2025年/日本/125分/PG12
| 監督 | 森ガキ侑大 |
|---|---|
| 原作 | 寺地はるな『架空の犬と嘘をつく猫』(中央公論新社刊) |
| 出演 | 高杉真宙 伊藤万理華 深川麻衣 安藤裕子 安田 顕 余 貴美子 柄本 明 ほか |
| 配給 | ポニーキャニオン |
※1月9日(金)より全国公開
©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会

カントリーハウス・ドラマの傑作、完結 英国貴族と使用人が迎えるフィナーレ
英国北東部ダウントンに立つ大邸宅“ダウントン・アビー”を舞台に、グランサム伯爵クローリー家とその使用人たちの生活を描く『ダウントン・アビー』シリーズ(2010~2025)。200カ国以上で放送され、劇場版もヒットしたイギリス発ドラマの金字塔が、劇場版第3弾となる本作をもって完結する。監督は、劇場版第2弾『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』(2022)を手がけたサイモン・カーティス、脚本はシリーズの生みの親であるジュリアン・フェローズ。長女メアリーの離婚という、上流階級においては不名誉とされる出来事に揺れ、さらには財政破綻の危機に瀕した一家が大切な決断を下すさまを描いていく。
一家の現当主ロバートにヒュー・ボネヴィル、その妻のコーラにエリザベス・マクガヴァン、ロバートの後継者となる長女メアリーにミシェル・ドッカリー、次女イーディスにローラ・カーマイケル、元執事のカーソンにジム・カーターら、おなじみのキャストが集結。さらに、2024年に逝去したマギー・スミスが長きにわたって演じ、前作の劇中で亡くなった先代伯爵夫人バイオレットも肖像画で登場。物語の端々に名優への敬意が感じられる。
どんな時もユーモアとエレガンスを忘れない英国貴族と使用人たち、大邸宅“ダウントン・アビー”の未来とは――。感動のフィナーレを飾るさまを劇場で見守りたい。
point of view
“英国貴族と使用人たちのてんやわんや”をロマンスとミステリーとウィットを交えつつ描き、世界中で人気を博した本シリーズ。英国貴族と聞くと別世界の住人のようだが、本シリーズを観ればその存在を近しく感じられるはずだ。見た目は“エレガントな英国貴族”だが、中身は“失敗したり、葛藤したりもする人間”。人間味のある物語が本シリーズの最大の魅力と言える。
厳密に言えば本シリーズに登場する家族はグランサム伯爵クローリー家の面々だが、彼らに仕える使用人たちもひっくるめて“ひとつの大きな家族”だと感じられる。切っても切れない深い絆で結ばれた英国貴族と使用人たちが、どう新しい時代を切り拓いていくのか。描かれる継承の物語はひとつだけではない。それぞれのパートで心意気が受け継がれていき、やがては“ひとつの大きな家族”の新たな時代の幕が上がる。つまり、変革の時を迎える。“終わり”であり、“始まり”でもある家族の物語がここに。

『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』
https://gaga.ne.jp/downton_abbey_the_grand_finale/
2025年/イギリス/124分
| 監督 | サイモン・カーティス |
|---|---|
| 出演 | ヒュー・ボネヴィル ローラ・カーマイケル ジム・カーター ラケル・キャシディ ブレンダン・コイル ミシェル・ドッカリー ケヴィン・ドイル ほか |
| 配給 | ギャガ |
※1月16日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
©2025 FOCUS FEATURES LLC.ALL RIGHTS RESERVED

口コミが広がってスマッシュヒット ワケあり家族が異国の地で起こした奇跡
インドの新人監督アビシャン・ジーヴィントによる低予算のデビュー作ながら、『RRR』(2022)のS・S・ラージャマウリ監督や、スーパースターのラジニカーントら、インドを代表する映画人たちから称賛の声が上がり、口コミが広がってロングランヒットを記録。スリランカでの困窮を極める生活に見切りをつけ、命懸けでインドに密入国した一家から広がる善意の連鎖を、笑いと涙をたっぷり交えて描き出す。
密入国した主人公一家がなんとか見つけた下宿先の大家は、なんと警察官。毎日がドタバタコメディのようになる中、警察から疑いの目を受けられるという深刻な事態に。果たして一家はピンチを切り抜けられるのか? 自分たちが厳しい状況にあっても、他者を思いやる気持ちを忘れない一家に肩入れしたくなること請け合い。インド発人情コメディの新たな秀作が誕生した。
point of view
26年に及ぶ内戦と経済破綻により、スリランカの国民たちは過酷な生活を強いられている。本作の家族もスリランカでの生活が成り立たなくなり、藁にもすがる思いで隣国インドで暮らす親戚を頼り、インドに密入国。なんとか再出発しようと奮闘する。と言っても、密入国の是非を問う映画ではない。自分たちが厳しい状況にある中でも他者を思いやることを忘れない家族と、その家族に心を動かされ、変わっていくご近所さんの絆の物語だ。普遍的な家族の愛の物語であり、相互理解の大切さも伝える物語だと感じられる。異なる文化や価値観を持った隣人たちとどうかかわっていくのか。自分とは違う人を前にすれば不安や心配も芽生えるだろうけれど、相手を理解しようと努力し続ければ、こんな素敵なことも起こり得るのだと主人公一家が教えてくれる。
これは、ある一家の異文化交遊録。たっぷり笑って幸せに包まれるひとときを。

『ツーリストファミリー』
https://spaceboxjapan.jp/touristfamily
2025年/インド/127分
| 監督・脚本 | アビシャン・ジーヴィント |
|---|---|
| 出演 | シャシクマール シムラン ミドゥン・ジェイ・シャンカル カマレーシュ・ジャガン ラメーシュ・ティラク ヨーギ・バーブ ほか |
| 配給 | SPACEBOX |
※2月6日(金)より全国公開
©Million Dollar Studios ©MRP Entertainment

