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高橋優、15周年ベスト『自由悟然』
ときめきは自分の内側にしかないんです

──FLYING POSTMAN PRESSのコンセプトは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>なのですが、最近何か刺激を受けているものはありますか?
高橋 カメラが好きで、撮った写真は毎日ファンクラブのブログに載せたりインスタに載せたりしています。人を撮るのが好きで、今までは油断している人の横顔などを撮るのが好きだったのですが、最近はカメラを出して「撮っていい?」と聞いて、「はい、チーズ」って撮るんです。
──何か変えるきっかけがあったんですか?
高橋 そんなふうに人と向き合うことってあまりなくないですか? 観光などの記念写真以外で、日常でカメラを向けられて撮られることって。やっぱりスマホを向けられるのとは違うんですよ。かしこまる人もいれば、動じない人もいて、その人が出るんですよね。で、撮る側もめっちゃドキドキするんです。
──それはわかる気がします。
高橋 やっぱり人と気持ち的な部分が触れるのが好きなんですよね。
──映画についてはどうですか?
高橋 最近だと『Flow』という黒猫ちゃんのアニメを観たり、飛行機の中で観た『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』に泣いたり。トム・クルーズのファンなので、トムがこれまで頑張ってきたことを思い出すと、もうね。結構泣いて、キャビンアテンダントの方に見られたと思います。でも僕は、涙はひとつのデトックスで、泣くことで発散されるものがあると思っているので、僕の場合は映画が泣くきっかけになっています。
──カルチャーの触れ方について、若い世代に伝えたいことはありますか?
高橋 ときめきは自分の内側にしかないんです。
──なんだかそのフレーズだけで素敵です。
高橋 今、みんな外から情報を得ようとするじゃないですか。SNSでもテレビでもパソコンでも。それはそれで全然いいんですけど、もしそこで探しても見つからない時は、全部をオフった時のほうが見つかる可能性があると思うんです。だから僕は毎日ジョギングしたり、わざと散歩してボーっとする時間を設けたりしています。
──外からの情報を絶って、自分の中に意識を向けるんですね。
高橋 何がほしいかを知るためには、自分の中のコンパス、心の羅針盤の矢印が向いている方向がわかっていないと、流されるだけになってしまうというか。流行っているものとか誰かが「いい」って言っているものをいいと勘違いしちゃいがちだと思うんです。ランキングもひとつの情報ではあるけど、自分にもっとグッとくるものを探したいなら、それを知っているのは自分だけじゃないですか。chatGPTに聞いても、どれだけAIが進化しても、自分のときめきだけは絶対に自分の中にしか答えがないと思っています。あと、僕は何も書いていないノートに自分の言葉を書いていくというのを毎日やっています。これはとても大切な時間です。
──歌詞を書くためとかではなく、ですか?
高橋 はい、A4ノートに毎日3ページ書いています。
──毎日ですか!?
高橋 はい、毎日。できるだけ朝に。そこはもう何を書いてもいいんです。今何かの曲を書きたいと思っているならその曲の歌詞になりそうな言葉をバーッと書いてもいいし、例えば昨日言われて嫌だった言葉を書いてもいいし。悪口だって書いてもいいんです。裏垢とかなら炎上したりするけど、これは誰も見ないから。自分が今何に立ち止まっているのかとか何に悩んでいるのかとか書くんですが、3ページぐらい書くと、書くことがなくなってくるじゃないですか。
──はい、なくなりそうです。
高橋 そうすると、本音が出る。ちょっと感情が乗っかるんですよ。“っていうか、あれマジでむかついた”“なんでムカつくんだろう”“俺、きっと小学生の頃に言われたあの言葉をまだ気にしているんだ”とか。最初の2ページくらいは面倒くさいなと思っていたりするんですが、ジョギングと同じで、終わり際になってくると気持ちが乗ってくるんです。最終的に曲にする時は、ちゃんと自分の体重がしっかりと乗った言葉を表現したいし、グッときているものを表に出したいので、この“乗っかってきたな”という感覚が大事なんですよね。
──そうやって言葉に気持ちが乗るトレーニングを毎日されているんですね。高橋さんの楽曲の、とても日常的な言葉で歌いながらも気持ちがこちらにぶっ刺さってくる理由が、今のお話で繋がった気がします。
高橋 「トレーニング」と言われたのは初めてですが、確かにそうかもしれないですね。手で書くのがいいんです。スマホだと速すぎるんですよね。ご結婚されている方なら旦那さんや奥さんと話す言葉のラリーの中でわかることもあると思うんですが、僕は独身でひとり暮らしなので、自分ひとりではわからなかったことが、こうした中で見えてくるんです。
──高橋さんの気持ちの濃さ、みたいな部分って昔からですか?
高橋 僕、霊など見えないものが見えるタイプの方々によると、取り憑かれたりしないタイプなんだそうです。“そんな程度で幽霊やってんのかよ!”というくらい、怨念が自分の中に強くあるから、霊たちも嫌がるみたいです(笑)。
──幽霊の怨念に負けてないんですね(笑)。
高橋 僕の怨念はヤバいらしいですよ。小学生までの僕はファンタジーのアニメのようにみんなでハッピーエンドに向かうって思っていた純朴な少年だったんです。でもいじめられて、傘を木の枝でブスブス刺されたり、絵の具を飴みたいに舐めさせられたり、先生も一緒になってやられたから、小学1、2年生くらいからは疑心暗鬼になって。心の中で自分は間違っていないと思っているんだけど、一方で現実的な世知辛さをたくさん浴びているから、自分の中で信じているハッピーや笑顔、前を向くことにアプローチするにあたっては、ただ光だけを歌っても届かないなと思うようになって。最初に99%くらい黒いものを提示して、ラスト1%で光を届けようみたいな時期が、デビュー当初だったかなと思います。
──小学生の経験が高橋さんの音楽に繋がっているんですね。
高橋 当時家に帰ると、現実と理想の埋め合わせのように、画用紙に友だちと手を繋いでみんなで仲良く遊んでいる絵とか、先生に褒められている絵とか描いたりしていたんです。その時間が1日で一番楽しみでした。でも見られるのが嫌だから描いては捨てて、描いては捨てて。とにかく自分の理想図を描いて、それが日記になった時もあれば、漫画の吹き出しになった時もあるし、コロナ禍で時間ができた時に、今のA4のノートに書くスタイルになりました。
