FLYING POSTMAN PRESS

高橋優、15周年ベスト『自由悟然』

高橋優、デビュー15年を振り返り
変わったこと変わらないこと

 メジャーデビュー15周年を迎えた高橋優が、12月10日にベストアルバム『自由悟然』(じゅうごねん)をリリース。【優勝盤】【優遇盤】【優男盤】の3枚組となったアルバムには、代表曲「明日はきっといい日になる」や「福笑い」はもちろん、新曲「黎明」、「未刊の行進」を含む、全45曲が収録されている。

 言葉に気持ちを乗せるため、今なお日々自身の内面と向き合っているという高橋は、この15年を振り返り、現時点は「まだ着陸態勢にない」と話す。愚直なまでに自分の音楽を追い続ける姿勢こそが、高橋優が高橋優である所以に違いない。この先もきっと高橋優にしか描けない道が続くのだろう。

取材・文/俵本美奈



ずっと音楽に片思いしている

──まずは15周年。振り返ってどんな感覚でいらっしゃいますか。

高橋 振り返ると、あっという間ではなかったですけど、長かったねというほど長くも感じていなくて。常に何か大切なトピックがあって、一個一個を経てきた15年間だったかなと思っています。例えばデビューが2010年で、2011年には東北の震災があって、震災の1ヶ月前にリリースした「福笑い」が、その2011年上半期で日本のラジオで一番流していただいた楽曲になったりして。

──そうですね。

高橋 その後も各地で震災はたくさんあって、コロナ禍のパンデミックもそうでしたし、戦争が始まったり総理大臣が変わったり、自分なりに時代を見つめながら音楽をやりたいなと思ってきたので、ツアーごとに何か世の中に起こっていた感じがします。個人的には初めて日本武道館公演を開催した2013年は、喉を壊して、歌い方を変えなきゃいけなくなった時期だったりもしました。

──音楽に対する気持ちはずっと変わらず、ですか?

高橋 それはあまり変わっていなくて、なんかずっと音楽に片思いしていますね。

──いつまでも両思いにはならないんですね。だからこそ続けていらっしゃるのでしょうか。

高橋 どちらにしても続けると思うんですが、安心したら内容が変わってくるかもしれないですね。僕は人間関係でも“自分のものになった”みたいな気持ちになったことがなくて。音楽でもそうですが、どんな人と一緒にいても、その人のことを知ったという気になるのがあまり好きじゃないんです。一緒にいればいるほど新しい部分が出てきたり、知らない部分があると思いながら、友だちでも家族でも、親でも一緒にいる気がします。

──なるほど。

高橋 安心するって、きっと幸せになることで、素敵なことなのですが、僕の場合は幸いなのか不幸なのかわからないけど、それがないから、今も自分を研ぎ澄ませていないとみんなが離れてっちゃうとか、自分からアプローチしていかないと誰も興味をなくしてしまうとか、自分の価値を自分たらしめるものをやらないとダメだという気持ちがずっとあります。

──40代になってその気持ちを持ち続けていることはすごいですよね。

高橋 きっと世の中的には“40代なんだからそろそろ身を固めようよ”みたいな風潮にあると思うのですが、僕は学生の時も、就職率が98%の高校で残りの2%になって大学に進んだし、大学を卒業したら就職でしょうという流れから外れて「僕の就活は路上ライブだから」と路上ライブを続けたりしながら生きてきちゃっているから、40代だからこうでしょうという固定概念みたいなものをあまり信頼していないというか。それが向いている人たちはそれでいいんですよ。でも自分の肌感としては、離陸して飛行しているのだとしたら、自分はまだ着陸態勢に入っていないというか。ここからまだギア上げてかなきゃみたいな。

──今も10代で路上ライブをしていた頃のとんがりを持っている感覚ですか?

高橋 そうですね。「とんがり」って言うとちょっとカッコいいですけど、そんなに美しいものではないんですよ。ヤキモチとか嫉妬とか、自分の失敗による反省とか、理解されたいとか、そういう気持ちもいっぱいあります。

──音楽を通じてやっていきたいことへの変化はありますか?

高橋 それはあります。怒りであれ喜びであれ、以前はもっと自分を表現することだけを見ていたのですが、2016年から地元の秋田県で秋田CARAVAN MUSIC FESをさせていただくようになって、自分以外の人たちの視点が増えたのは大きな変化だった気がします。曲作りをするにしてもライブをするにしても、自分がいいライブができたかどうかというより、“お客さんが喜ぶライブをしよう”という意識になりました。そうした視野を広げてもらえる機会を15年の中でいただいてきたように思います。