CINEMA
旅する映画、ここではないどこかへ

自称映画監督、逃亡中の泥棒親子 “ここではないどこか”で見つめる人生
何気なく踏み入れた新しい世界で思いがけず誰かと出会い、人生がちょっと変わっていく。そんな人々を描いた2本の映画を紹介。30歳間際の自称映画監督は大分県へ、泥棒親子は障がいを持った人々が参加するサマーキャンプへ。行き詰まっていた彼らの人生が、“ここではないどこか”で動き出す。

絶好調に人生低迷中なふたりのぶらり旅 ユーモアと驚きに満ちたロードムービー
映画『百円の恋』(2014)や『アンダードッグ』前・後編(2020)、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』(2023~2024)などの脚本を手がけ、映画『14の夜』(2016)、『喜劇 愛妻物語』(2019)、劇場版『それでも俺は、妻としたい』(2025)などでは原作、脚本に加え監督も務めた足立紳。その監督・脚本最新作では、大分県の豊後大野を舞台に、人生低迷中の不器用な男女ふたりのぶらり旅をユーモアとサプライズを交えて描いていく。
“監督の撮りたいものを撮る”がコンセプトの別府発短編映画プロジェクトから飛び出して長編映画となった本作は、やがて大分どころか日本も飛び出し、第27回ウディネ・ファーイースト映画祭、第27回上海国際映画祭など世界の映画祭にも出品。そのチルな空気感と独特の演出で世界の映画ファンをざわつかせてきた。
主人公の売れない映画監督・太郎に佐野弘樹、太郎と共に旅する正体不明の未希に天野はな。さらに、加藤紗希、篠田諒、剛力彩芽、板谷由夏らが主人公の旅路を彩っていく。
世の中とチューニングの合わないふたりの、可笑しくてささやかで、ちょっと不思議で切ない1泊2日の旅。足立紳がゆるっと、でも全力で放つ多幸感溢れるロードムービーがここに。
point of view
30歳間際だが、一緒に暮らす恋人の女性に食べさせてもらっている自称映画監督の太郎。足立紳監督によれば、「52歳の私自身を投影している」主人公だという。撮ろうとしている映画が面白いのかどうかわからない、立派なテーマもない中でとにかく撮り始め、不安な気持ちのままで撮り続けることもある。そんな足立紳監督のあてどない創作の旅を、主人公・太郎の目的のない旅に重ねながら描いていったという。
行き先もわからないまま、とにかく一歩踏み出してみる。それは不安だけど同時にワクワクするものだ。これまで行ったことのない場所では、思いがけない経験ができたりするものだから。太郎の場合は、恋人に背中を押されて出かけた大分県の豊後大野で、ちょっと変わっているけれど生命力のある女性・未希と出会い、行き当たりばったりのふたり旅をすることになる。いつも生活している場所とは違う場所で新たな景色や価値観に触れながら、“いつもの自分”を客観視してみる。そんな太郎を観ていると、これぞ旅の醍醐味と思えてくる。
ゆるさと鋭さを行き来する太郎と未希の会話はクセになる面白さだし、奇人変人感がありながら“いそう”でもある地元民との交流も最高に楽しい。そして、足立紳監督は映画の終盤である仕掛けを施し、観客を驚かせる。映画はゆるっとした空気に満ちているが、足立監督の創作姿勢は野心的で挑戦的だと感じられるはずだ。

『Good Luck』
https://mapinc.jp/film/good-luck
2024年/日本/104分
| 脚本・監督 | 足立 紳 |
|---|---|
| 出演 | 佐野弘樹 天野はな 加藤紗希 篠田 諒 剛力彩芽 板谷由夏 ほか |
| 配給 | ムービー・アクト・プロジェクト |
※12月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開
©2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)

障がい者と介助者のフリをした泥棒親子 笑みがこぼれるサマーキャンプへ
フランスの人気コメディアンで、俳優、作家としても活躍するアルテュスが監督、共同脚本、主演を務め、フランス本国では2024年の年間興行収入ランキング1位を記録、1,080万人の観客を動員する大ヒット作に。宝石店に泥棒に入った親子が、逃亡中にひょんなことから障がい者とその介助者に間違われ、障がい者施設の入所者たちのサマーキャンプに身を隠す様子をユーモアたっぷりに描き出す。
主人公のパウロをアルテュス自らが演じるほか、パウロの父親をクロヴィス・コルニアック、障がい者施設を取り仕切る支援員のアリスをアリス・ベライディらフランスのベテラン俳優たちが演じ、盛り立てる。さらに障がい者施設の入所者たちを、アルテュスがInstagramを通じて募集し、オーディションを経て選ばれた、実際に障がいを持つ11人のアマチュア俳優たちが好演。オーディション後に当て書きされたこともあり、11人のアマチュア俳優たちはそれぞれの役で生き生きとした演技を披露している。
泥棒親子と入所者たちがドタバタと騒動を繰り広げながらも、思いがけず絆を育んでいく様子に笑いながらも胸がじんとすること間違いない。
point of view
障がいを持たない泥棒親子が、障がい者とその介助者のフリをして障がい者施設のサマーキャンプに紛れ込む。そのストーリーラインだけ聞くと不謹慎に思えるかもしれないが、そうはなっていない。攻めた表現もあるが、人間を見る目のあたたかさ、人生に対する深い理解が背景にあると感じられるため、不謹慎だとは思わない。障がいを持った人たちも、障がいを持たない人たちも垣根なく個性を尊重しつつ物語る、このセンスはさすがフランス映画。同じフランス映画であり、障がい者と介護者の友情を描いた『最強のふたり』(2011)を思い起こさせる。
主人公のパウロは父親の影響で泥棒稼業をしているが、実はやさしい。障がいを持った人たちと一緒に思いがけず楽しい夏を過ごすうち、パウロは生まれて初めて自分を違う角度から見つめることになる。パウロに本当の自分はどんな人間なのかを教えてくれるのは、誰かのサポートを必要としているけれど、生きる上で大切なことはちゃんと知っている人々。たっぷり笑えるだけではない。たびたびハッとさせられ、気づきを得られる1本に仕上がっている。

『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』
http://somethingextra-movie.jp
2024年/フランス/100分
| 監督 | アルテュス |
|---|---|
| 出演 | アルテュス クロヴィス・コルニアック アリス・ベライディ マルク・リゾ セリーヌ・グルサール アルノー・トゥパンス マリ・コラン ほか |
| 配給 | 東和ピクチャーズ |
※12月26日(金)より全国公開
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