FLYING POSTMAN PRESS

“知る”意義を感じられる映画

太平洋戦争末期の激戦、プラハに迫る危機
エンタテインメントが伝えられること

 “知らなかったことを知ることができる”のは、映画が持つ魅力のひとつ。エンタテインメント性を高めて物語り、大切なメッセージをより広く届けている映画がこの冬続々公開となる。太平洋戦争末期に激戦地となったペリリュー島、ソ連による侵攻を受ける1968年のチェコスロバキアのプラハ。それぞれの場所で戦った人々の姿に胸を熱くしつつ、まずは“知る”ことから始めよう。



仲間の最期を勇姿として書き記す功績係
若き日本兵が狂気の戦場で見たものとは

 太平洋戦争末期の1944年9月15日から約2カ月半、パラオ南西部のペリリュー島において日米両軍の激戦が繰り広げられた。その犠牲者の多さと過酷さとは裏腹に、ほとんど語られてこなかったペリリュー島の戦いを題材にし、第46回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した武田一義による漫画を原作に、本作で劇場長編デビューを果たす久慈悟郎が監督を務めてアニメーション映画化。原作者の武田一義が西村ジュンジと共に脚本を担当したほか、作画監督としても参加するなど、強固な制作体制が実現。亡くなった仲間の最期を時に嘘を交え、“勇姿”として書き記す功績係を担った漫画家志望の若き日本兵・田丸の視点から、戦争が日常であるという狂気、その中で生き抜こうとする兵士たちの姿を描いていく。

 田丸役に板垣李光人、その頼れる相棒・吉敷役に中村倫也。そのほか、天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ、三上瑛士らが日本軍兵士のボイスキャストとして集結した。

 戦場にいたのは人間だった。それぞれに生活があり、家族がいた。本当は死にたくなどなかった。ペリリュー島の戦いに参加した1万人中、生き残った日本兵はわずか34人。田丸と吉敷が戦場で見たものとは──。


point of view

 ペリリュー島の戦いと聞いて詳細を思い浮かべられる人はそう多くはないだろう。太平洋戦争末期の1944年9月15日から約2カ月半、パラオ南西部のペリリュー島において繰り広げられた日本軍と米軍の激戦。兵士たちが一斉に敵陣に突入して玉砕する“バンザイ突撃”を禁じられ、持久戦で時間稼ぎするよう方針が転換された最初の戦いであり、それはのちに硫黄島における戦いにも引き継がれることに。なんとか生き残った日本軍兵士たちは洞窟にたてこもり、終戦後の1947年4月22日、元日本海軍少尉の説得により、ようやく武装解除に応じることとなった。

 80年前、日本は戦争をしていた。兵士として戦ったのは誰かの息子であり、誰かの夫であり、誰かの父親だった。その知識はあっても本当の意味で“知って”はいないのだと、本作を観て改めて気づかされた。

 画のトーン、キャラクターのビジュアルは原作漫画の印象を引き継いでいる。そのデフォルメされた、かわいらしくあたたかい絵柄で間口を広げて観客を導きつつ、戦争の恐ろしさと哀しさをしっかりと、リアルに伝えている。戦争映画は覚悟して観ることが多いものだが、本作の入りはそうではなかった。スッと自然に物語に入り、人間味のあるキャラクターたちに心を寄せ、その苦しみや悲しみを遠い世界のものとしてではなく、生まれてくる時代が違えば自分自身が経験していたものかもしれないと、近しく感じられた。映画を存分に楽しんだ果てにペリリュー島の戦いに興味を持ち、調べてみようと思う人もきっと多いはず。“知る”意義を感じられる1本に仕上がっている。

『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』

https://peleliu-movie.jp/

2025年/日本/106分/PG12

監督 久慈悟郎
原案 武田一義「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」(白泉社・ヤングアニマルコミックス)
声の出演 板垣李光人 中村倫也 天野宏郷 藤井雄太 茂木たかまさ 三上瑛士 ほか
配給 東映

※12月5日(金)より全国公開

©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」製作委員会


1968年、ソ連がチェコスロバキアに侵攻
命懸けで報道を続けたラジオ局員たち

 1968年、ソ連の共産主義支配下にあったチェコスロバキアで起こった民主化運動<プラハの春>。だが、その春は続かなかった。同年8月20日の深夜から翌21日の早朝にかけ、ソ連がワルシャワ条約機構の軍を率いてチェコスロバキアに侵攻。ソ連軍はラジオ局を制圧し、「ソ連がチェコスロバキア国民を救出にきた」とフェイクの放送を行おうとするも、ラジオ局の報道局員たちは権力に立ち向かい、回線技術を駆使し、ラジオ局の外から真実の報道を続け、国民を励まし続けたという。

 この感動の実話をもとに、俳優であり、映画監督、脚本家としても活躍するイジー・マードルが監督と脚本を務めて映画化。映画オリジナルの人物であり、複雑な倫理的選択を迫られる主人公トマーシュをヴォイチェフ・ヴォドホツキーが好演。さらに、スタニスラフ・マイエル、タチアナ・パウホーフォヴァー、オンドレイ・ストゥプカら、チェコとスロバキア両国の実力派キャストが、権力に立ち向かったジャーナリストや理想を掲げる若者を演じる。

 2024年にチェコ本国で公開されると年間観客動員数&興行成績1位、歴代でも2位となる記録的なヒット作に。チェコとスロバキアの映画各賞を席巻したのみならず、第97回アカデミー賞において国際長編映画賞のショートリストに選出されるなど、高い評価を受けた1本。戦車に囲まれてなお、不可能とも思えたミッションを成し遂げたジャーナリストたちの姿に胸が熱くなる。


point of view

 ヴェトナム反戦運動やフランスの五月革命、中国の文化大革命、日本の学生運動…。世界中でデモが巻き起こり、政治的な転換期を迎えた1968年。ソ連の支配下にあったチェコスロバキアでも、学生を中心とした若い世代の人々がデモに繰り出し、その主張を記したチラシを配り、民主化運動を起こした。その機運は国中に広まり、検閲は廃止され、言論の自由が認められる。いわゆる、<プラハの春>が訪れるのだが、ソ連によるチェコスロバキアへの侵攻によって民主化運動は制圧されてしまう。本作では、その最中、命懸けで報道を続けたラジオ局員たちの姿を描いている。

 監督と脚本を担ったイジー・マードルは、本作を作る上で映画『アルゴ』(2012)からインスピレーションを受けたと公言しているが、それも納得。実際に起こったことを題材にしながら、観客を楽しませることも大切にした、エンタテインメント性も高い映画だと感じられる。当時を知る人々への取材を徹底し、当時の様子を映した映像資料も巧みに映画に取り込んでリアリティを担保した上で、スパイスリラー的な展開を交えて観客をハラハラドキドキさせる。とりわけ、ソ連軍の戦車が迫り来る中でも、ラジオ局員たちがチームワークで報道を続けようと奮闘する様子には、『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996~)ばりのサプライズとスリルがあり、手に汗握りっぱなしに。

 本作の登場人物のように、“家族を守るべきか、権力に立ち向かうべきか”と、複雑な倫理的選択を迫られた人々は当時たくさんいたはずだし、悲しく恐ろしいことに、今なお世界中にいるだろう。もしもこんな状況に陥ったら、自分だったら何を選択し、どう行動するのか。まずは、そんなふうに想像してみることから。映画の世界と自分の世界が繋がる瞬間を深く味わいたい。

『プラハの春 不屈のラジオ報道』

https://pragueradiomovie.com

2024年/チェコ・スロバキア/131分/PG12

監督・脚本 イジー・マードル
出演 ヴォイチェフ・ヴォドホツキー スタニスラフ・マイエル タチアナ・パウホーフォヴァー オンドレイ・ストゥプカ ほか
配給 アット エンタテインメント

※12月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開

©Dawson films, Wandal production, Český rozhlas, Česká televize, RTVS - Rozhlas a televizia Slovenska, Barrandov Studio, innogy