FLYING POSTMAN PRESS

佐々木蔵之介と高杉真宙が刑事役

佐々木蔵之介と高杉真宙が刑事バディに
映画『盤上の向日葵』が描くものとは

 柚月裕子が著した小説を原作に、熊澤尚人が監督と脚本を務めた映画『盤上の向日葵』が10月31日(金)より公開へ。昭和から平成へと続く激動の時代を背景に、壮絶な人生を送ってきた天才棋士の光と闇をドラマティックに描き出す。「私が完成した映画から受け取った“大切なもの”は、生きるではなく、“生ききる”ということ」と、原作の柚月裕子。過酷な運命に生まれついてしまったひとりの棋士が、その運命に抗い、生ききろうとする姿に心が震え、熱いものがこみあげる、ヒューマン・ミステリーの秀作に仕上がっている。

 本作において、謎の殺人事件の真相を追いながら主人公の棋士の過去を解き明かしていく刑事たちを演じる佐々木蔵之介と高杉真宙。観客の視点を背負った重要な役どころで存在感を放っている。

写真:徳田洋平 取材・文:佐藤ちほ
【佐々木蔵之介】スタイリング:勝見宜人 ヘアスタイリング&メイクアップ:白石義人
【高杉真宙】スタイリング:荒木大輔 ヘアスタイリング&メイクアップ:堤 紗也香



泥臭く足で稼ぐ昭和の刑事になる

──オファーを受け、どんな点に魅力を感じて『盤上の向日葵』への出演をお決めになったのでしょうか。

佐々木 僕は『虹の女神 Rainbow Song』(2006)という映画で一度、熊澤(尚人)監督とご一緒させていただいていて。今回、久しぶりにお話をいただき、“あの時、熊澤監督はすごく丁寧に向き合ってくださっていたな”と、『虹の女神 Rainbow Song』の撮影を思い出しました。そんな熊澤監督とまた仕事できたらいいな、というのがひとつ。また、上条と東明というふたりの棋士が中心にいて、将棋に男の生き様を見るような話の中で、刑事というまた別のポジションを演じられるのはすごく楽しいだろうなと思い、出演を決めました。

高杉 熊澤監督が書かれた脚本を読ませていただいて、上条と東明を演じる坂口健太郎さんと渡辺謙さんのお芝居の熱が重要になる作品だと感じました。おふたりのお芝居を観てみたいと純粋に思いましたし、僕もそんな作品に参加できるならぜひと思い、出演させていただくことにしました。

──俳優と丁寧に向き合うという熊澤監督ですが、その演出の魅力は今回も感じるところでしたか。

佐々木 今回も丁寧に向き合っていただきました。また、熊澤監督はワンシーンごとに褒めてくれるんです(笑)。褒めた上で、「こうしてみましょうか」などと提案してくれる。撮影するシーンのことだけではなくて、その前後の話もしてくれて。 “ここ、どうしたらいいんやろ?”と自分ひとりではなく、一緒に考えてくださるんです。ご自身で脚本を書きながら演出していらっしゃるというのもあり、とても安心感がありました。

高杉 僕もとても丁寧に演出していただきました。ずっとおっしゃっていただいていたのは、「台詞をもうちょっと早くしゃべって」ということで。それでテンポ良くしゃべることを意識しながら演じていたんですけど、実は現場ではその演出の意図をあまり理解できていなかったんです。でも、完成した映画を観たらわかりました。上条と東明のお芝居はじっくりと濃密に見せているところが多い。だからこそ、僕ら刑事側はテンポ良く演じる必要があったんだなと。全体のバランスを見据えた上での演出だったとようやく気づき、すごいなと。とても印象に残る演出でした。

──佐々木さんも熊澤監督の演出の言葉で印象に残っているものはありますか。

佐々木 「泥臭く足で稼ぐ刑事をやってください」と最初に言われまして。つまり、昭和の刑事を熱くやってほしいと。刑事部屋のシーンではエキストラさんたちにも「熱く、きびきびやってほしい」と。

高杉 言っていましたね。

佐々木 あと、僕と真宙君の役がお客さん目線の役なんだと。お客さんを導いていかないといけない役回りだと言われ、そこはずっと意識していました。それにしても刑事部屋のシーンを撮影していた時はめちゃくちゃ暑かった(笑)。エアコンが効いていない部屋にギュウギュウに人が詰め込まれ、もう暑くて息苦しくて。

高杉 刑事部屋のシーンは台詞も多かったですし。

佐々木 しんどかったよね(笑)。

高杉 はい(笑)。

佐々木 また、外のシーンも多かったんですけど、向日葵畑のシーンなんて当然暑いわけです。そこをふたりでずっと歩いていってね。

高杉 太陽から逃げる場所がなかったですよね。

佐々木 逃げられなかった。本当に今回は泥臭く足で稼いだという感じがします(笑)。

高杉 確かに足で稼ぎました(笑)。

──佐々木さんご自身は刑事の石破の人物像をどう感じ、何を大切にして演じたのでしょうか。

佐々木 石破剛志という名前に表れていますよね。石を破るほどの剛い志を持つという。“この名前だな”と思いながら演じていました。

高杉 確かに名前に出ていますね。

佐々木 人としてどうかはわからないですけど、刑事としての手腕はあるとも感じていました。刑事としての勘であるとか、嗅覚であるとか、そういうものはあるんだろうと。あと、真宙君が演じる佐野と話している時と、事件の参考人から話を聞き出そうとする時は、まったく違う感じでいく人なんだろうと。あと考えていたことと言えば、駅弁の食べ方かな(笑)。

──石破が捜査で訪れた先々で名物料理を食べる様子がたびたび映ります。

佐々木 電車の中で駅弁を食べながら話すシーンもあって。

高杉 あの時の蔵之介さん、相当食べていましたよね(笑)。

佐々木 食べた(笑)。どのタイミングで駅弁のふたを開け、どの台詞の合間にどこまで何を食べるのかというのもかなり考えて。カットとカットの繋がりも気にしながら、絶対にタイミングを間違えたらあかんと。そんなふうにずっと気を遣ってね(笑)。

高杉 大変そうでした(笑)。

佐々木 あと、いちばん苦労したのが、ゆべしを食べながら牛乳を飲むところ。

高杉 あそこも結構食べましたよね。また石破はひと口が大きいという設定だから。

佐々木 そう、ひと口が大きいし、そもそもゆべしは軽い食べものではないんですよ。

高杉 食べ過ぎて、「もういい」って蔵之介さんがおっしゃっていたのを覚えています(笑)。

佐々木 そうそう、「もういい」って(笑)。

──高杉さんが演じる巡査の佐野は、奨励会出身という異例の経歴を持っています。将棋のことや棋士の在り方など調べてみたりしましたか。

高杉 現場に将棋について指導してくださる先生がいて。その方に棋譜の読み方を教わったり、奨励会を去った人たちがその後、どんな感覚でいるのかというお話を聞いたりしました。実はほとんどの人たちはその後、将棋とは縁を切るんだと。もう将棋は見たくもないという人たちがかなり多いという話を聞いて。

──趣味でも将棋を指さなくなる方が多い、ということですか。

高杉 多いみたいです。奨励会を去った人というのはつまり、プロ棋士になれなかった人ということで。先生のお話を聞きながら、どうしてもある種のコンプレックスを抱いてしまうのかもしれないと想像しました。佐野は奨励会を去ってから警察官になり、ある事件の捜査をする中でまた将棋というものに向き合うことになります。多分、佐野自身も将棋に未練がある人なんだろうと、先生のお話を聞きながら汲み取れました。そんなふうに理解ができたのは、佐野を演じる上で大きかったです。