FLYING POSTMAN PRESS

鳴海唯『アフター・ザ・クエイク』

役者のエゴをいかに捨てられるか

──FLYING POSTMAN PRESSのコンセプトは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>です。鳴海さんの人生を豊かにしてくれた作品を教えてください。

鳴海 『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016~)です。観始めたのはコロナの直前ぐらいだったと思います。面白過ぎて途中でやめられず、初めて徹夜して観ることになりました。私は熱しやすく冷めやすいタイプで、何かに夢中になったりすることがあまりないんです。でも、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は夢中になりましたね。いくつになってもワクワクしていたいという思いがありますが、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は、観るたびに本当にワクワクさせてくれる。これまで観た中でいちばん好きな作品だと声を大にして言えます。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』を観てから、青春群像劇×SFという組み合わせが大好物になりました。今年ファイナルシーズンが配信されますが、終わってしまうのが寂しくて寂しくて。観たいんだけど観たくないという、複雑な気持ちです(笑)。

──お気に入りのキャラクターも教えてください。

鳴海 ホーキンス中学放送部のダスティン(ゲイテン・マタラッツォ)と、シーズン2で転校してくるマックス(セイディー・シンク)が大好きです。

──ふたりの好きなシーンと言うと?

鳴海 ダスティンは不良のスティーブ(ジョー・キーリー)と一緒に活躍するところが大好きです。最初はスティーブがダスティンのことをいじめていたのに、いつの間にか仲良くなって結束するんですよね。あと、ダスティンが遠距離恋愛の彼女のスージー(ガブリエラ・ピッツォロ)と無線で連絡を取り合うシーンも大好きです。『ネバーエンディング・ストーリー』を一緒に歌うところ、最高でした(笑)。マックスに関して言うと、出てきたばかりのツンケンしていた感じが私は好きです(笑)。後半戦はマックスが主役と言っていいぐらいだと思っていて。シーズン4の最後に体が動かない状態になったマックスがどう復活するんだろうと気になっています。ファイナルシーズンも目が離せないキャラクターですね。

──今は俳優として映画やドラマを世に送り出す側にいます。そんな中でどんなことを大切にしていますか。

鳴海 自己満足にならないようにしたいと思っています。いいお芝居をするとか、名声を得るとか、そういうことが本来役者に求められていることではないと。役者は本来するべきは、与えられた仕事を全うすることだと教えてくれたアクティングコーチがいて。当たり前のことですが、つい忘れてしまいそうになる自分がいるんです。なので、アクティングコーチの教えが書かれた紙を毎回、撮影に臨む前に見返すようにしていて。

──毎作品で、ですか。

鳴海 はい。そうしないと役者が本来持つべきではない感情に引っ張られそうになるんです。どうしたらいいお芝居ができるのかとか、どうしたら売れるのかとか、そういうことを考えてしまう自分がいる。そういう役者のエゴみたいなものをいかに捨てられるか。いつもそこで戦っている気がします。役者として私がどうこう、ではないんですよね。映画もドラマもそうですけど、観てくださる方がいらして初めて成立するものだと思っていて。いちばん大切なのは、観る方々に作品が届くかどうかだと思うんです。だからこそ、宣伝も大切だと思っています。どれだけいい作品を作っても、その作品が世に出ることを伝えられなかったら作品自体がなかったことになってしまう。それは悲しいですからね。

──『アフター・ザ・クエイク』をどう届けるか。そこもやはり考えますか。

鳴海 すごく考えます。でも、この映画って言葉で説明するのがすごく難しい映画で…。多分、“答えはわからない”が正解で、そういうところがこの映画の魅力のひとつなのかなと思います。あと、お話しした通りで、拾いあげられなかった声を拾って届ける映画だということ。その点を踏まえて作品を観ていただくと、一見関係ないような人たちが実は繋がっていると感じられたりする。そんな映画なのかなと思います。


鳴海 唯(なるみ ゆい)

1998年生まれ、兵庫県出身。2018年に俳優デビュー。主な出演作に映画『偽りのないhappy end』(2020)、『熱のあとに』(2023)、『赤羽骨子のボディガード』(2024)、連続テレビ小説『なつぞら』(2019)、大河ドラマ『どうする家康』(2023)、ドラマ『地震のあとで』(2025)、連続テレビ小説『あんぱん』(2025)など

『アフター・ザ・クエイク』

https://www.bitters.co.jp/ATQ/

2025年/日本/132分

監督 井上 剛
原作 村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)
出演 岡田将生 鳴海 唯 渡辺大知 / 佐藤浩市 / 堤 真一 ほか
配給 ビターズ・エンド

※10月3日(金)よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開

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