CINEMA
鳴海唯『アフター・ザ・クエイク』
俳優と本物の火が芝居を変える
──撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。
鳴海 すごく穏やかでした。私が出演したパートはキャストみんな兵庫県出身で。三宅役の堤(真一)さんは私と同じ西宮のご出身で、順子の恋人・啓介役の黒崎(煌代)君は三田市の出身。堤さんに至っては“高校が隣り”というぐらいの本物の同郷です。私からしたら堤さんは地元の大スターで、小学生の時からの推しでした。いつか自分が俳優という仕事に就けたら堤さんとご一緒したいとずっと思っていて。念願が叶ってすごくうれしかったです。
──全員同郷となると普段の会話も盛り上がりそうですね。
鳴海 そうですね。現場では堤さんと黒崎君と、本当に地元民にしかわからないような地元トークをして盛り上がっていました(笑)。堤さんの役は関西弁なので、堤さんは現場でずっと関西弁で話されていたんですが、私の役は標準語を話す設定だったので、堤さんの関西弁に引っ張られないようにするのが大変で。少しでも気を抜くと引っ張られそうになるんです。井上監督とかスタッフからも、「引っ張られないように気をつけてね」ってずっと言われていたぐらいです(笑)。
──カメラが回った時はどうでしょう。堤さんが演じる三宅と向き合い、思いも寄らない感情が溢れ出た瞬間もありましたか。
鳴海 たくさんありました。自分ひとりで脚本を読んでいた時、“ここはこんな会話のテンポ感かな?”とか、イメージを膨らませていたりして。そんな自分の中のイメージとはまったく違うテンポ感で、予想もしていなかった変化球を堤さんが投げてこられることがよくあったんです。“全然思っていたのと違う。でも、なんか思いがけないものが出ちゃった”みたいな瞬間が、堤さんとお芝居しているとよくありました。堤さん、私とお芝居している時にわざと変化球を投げてこられていたんじゃないかなと思うぐらいです。なかでも印象深いのが、順子が『私ってからっぽなんだよ。本当に何もないんだよ』と言った後、堤さん演じる三宅が『わかってる』と返すところです。堤さんの『わかってる』の言い方がもう……すごかったです。“ああ、このおじさんに自分を肯定してもらえた”と、本当にそんな気持ちにさせてくれる言い方だったというか。あの『わかってる』を受けた瞬間、“堤さんってやっぱりすごい俳優さんだ”としみじみ思ったことを覚えています。こんなすごい俳優さんとこうして向き合ってお芝居できるのは本当に光栄だなと。実は今でもあのひとことをふと思い出したりするんです。“あの『わかってる』は本当にヤバかったな”って。
──その後、堤さんに聞いてみましたか。意図的に変化球を投げてこられたのかと。
鳴海 そんな、聞いていないです。堤さんご自身がどういう考えだったのかは今でもわかりません。ただ思うのは、私は自分の役のことでいっぱいいっぱいだったので、お芝居のテンポ感もありきたりなものになりがちだったんです。堤さんは変化球を投げることでそんな私に助け船を出してくださっていたのかなと。“あ、私流れでやっちゃっていた。このままだと生感が消えちゃう”とハッと気づかされる瞬間が何度もありました。あともうひとつ、堤さんはこれまで本当にたくさんの作品を経験してこられたわけですよね。もしかしたら、ご自分でご自分を飽きさせないようにされているところもあったのかもと思ったりします。
──撮影期間はそう長くはなかったかと思います。
鳴海 10日間ぐらいでした。
──限られた時間の中で、目を覚まされるような瞬間が何度も訪れたわけですか。
鳴海 そうなんです。次にいつ堤さんとこれだけガッツリとお芝居できるかわからないと思っていたので、現場では堤さんの一挙手一投足を逃さないようにしていたんです。絶対に全部を見て学んで帰りたいと思っていたので、より感じられることが多かったのかもしれません。
──ほかにも印象深いシーンはありますか。
鳴海 焚き火のシーンは本物の火を使うことにこだわり、スタッフ、キャスト一同練習を重ねて臨んだシーンなので印象深いです。CGで焚き火を描くこともできた中、本物の火を使おうと選択したこと自体すごく響きましたし、演じる上でも助けられました。火を見てなんとも言えないひっそりした気持ちになると言う順子に対し、自分の心が火に映し出されてそう感じているんだと三宅が返すところがあって。そのシーンを演じていた時、本当に火と共に心が揺れ動いている感じがあった。多分、あれは本物の火じゃないと感じられなかったものだと思います。
──本物の火を使った撮影は技術的には難しいものなんでしょうね。
鳴海 難しかったです。少し風向きが変わっただけで撮れなくなり、カメラの位置を変えて撮り直したりすることも何度もありました。アナログで大変な作業でしたが、おかげで毎テイク違うものになり、お芝居にライブ感があって面白かったです。“久しぶりにこんなにワクワクしているな”と思いながらお芝居していて。ドラマと映画になる作品で、最初に放送されるのはドラマのほうだったので、焚き火のシーンの暗さが視聴者の方にどう受け止められるか実は不安だったんです。でも、あの暗さが映画になった時にはすごく生きてくるとも思っていて。映画館の中で観る焚き火のシーンは、より感じられるものがあるんじゃないかなと思います。