FLYING POSTMAN PRESS

PTA×レオナルド・ディカプリオ

ポール・トーマス・アンダーソン監督作
テンパる革命パパVS変態軍人
息もつかせぬ怒濤のチェイスバトル

 本年度の賞レース本命の1本と目されるポール・トーマス・アンダーソン監督最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』が10月3日(金)より公開となる。主人公は、テンパる元革命家のパパ。対するは、変態軍人。映画界に革命を起こすチェイスバトルの幕が上がる──。


レオナルド・ディカプリオ念願のタッグ

 カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの世界三大映画祭の監督賞を唯一制覇した天才、ポール・トーマス・アンダーソンが監督・脚本・製作を務めた最新作。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』(1997)の主演オファーを断ったことをキャリア最大の後悔と公言するレオナルド・ディカプリオとのタッグが約30年越しに実現。トマス・ピンチョンの小説「ヴァインランド」にインスピレーションを得て、レオナルド・ディカプリオ演じる元革命家で今は落ちぶれたボブが、娘を狙われたことを機にテンパリながらも必死に戦い、怒濤のチェイスバトルを繰り広げるさまを描き出す。

 『レヴェナント:蘇えりし者』(2015)で第88回アカデミー賞主演男優賞を受賞したレオナルド・ディカプリオをはじめ、キャストには賞レースの常連が集結している。とある理由からボブとその娘ウィラの命を執拗に狙う変態軍人ロックジョーを、『ミスティック・リバー』(2003)、『ミルク』(2008)で第76回、81回アカデミー賞主演男優賞を受賞したショーン・ペン。ボブがピンチの時になぜか現われる空手道場の“センセイ(先生)”を、『トラフィック』(2000)で第73回アカデミー賞助演男優賞を受賞したベニチオ・デル・トロ。

 さらに、ボブの革命家仲間のデアンドラに『最終絶叫計画』シリーズ(2000~2006)のレジーナ・ホール。ボブの妻でカリスマ的な革命家のペルフィディアにアーティスト、モデル、監督としても才能を発揮するテヤナ・テイラー。ボブの娘ウィラに若手注目株のチェイス・インフィニティ。個性と実力を兼ね備えたキャストたちがポール・トーマス・アンダーソンの世界で躍動し、光を放っている。


ポール・トーマス・アンダーソン節炸裂

 27歳で長編監督デビューを果たし、前述した『ブギーナイツ』をはじめ、『マグノリア』(1999)、『パンチドランク・ラブ』(2002)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)、『ザ・マスター』(2012)、『インヒアレント・ヴァイス』(2014)、『ファントム・スレッド』(2017)、『リコリス・ピザ』(2021)などの名作・快作を世に送り続けてきた、現代映画界を代表するフィルムメーカーのひとりであるポール・トーマス・アンダーソン。常に自作において新たな挑戦をしてきたため作品から受ける印象は一様ではないが、PTA節とでも言い表したくなるような魅力はどの作品からも感じられる。ストーリー展開には予定調和がない。アメリカの社会を痛烈に皮肉る視点もにじませつつ、根底にあるのは主人公とその家族、あるいは恋人といった身近にいる人との愛の物語だ。映像や音へのこだわりも強く、ワンカットの長回し撮影や大胆不敵なカメラワークを好み、劇伴の付け方や劇中曲のセレクトに抜群のセンスを見せる。

 本作においてもPTA節は健在だ。加えて、今回はキャリア史上最大と言っていいほどのスケール感のある銃撃戦やカーチェイスシーンを取り入れている。笑いとエモーションが混在するのはいつものことだが、アクションとスリルをここまで強く押し出した作品はなかったように思う。緊張感が続くからこそ“笑い”が際立ってくる。追い詰められた人間の、必死であるがゆえの言動が絶妙に笑いを誘うわけだ。さらに言えば、たっぷり笑わせられた後のエモーショナルなシーンは効果が倍増。結果的に、指折りの“笑って泣ける”映画に仕上がっている。


オスカー受賞俳優たちの妙演&怪演

 レオナルド・ディカプリオが演じる主人公のボブはバリバリの革命家だったが、妻が自分と娘を置いて出て行って以来、落ちぶれていく一方。中年となった今や、日々酒と大麻でハイになり、あらゆる物事に被害妄想を抱き、娘を守ることだけに執着している。そんな彼が娘の命を狙われ、戦わなければいけなくなったわけだ。繰り返すが、今のボブは落ちぶれた中年。次から次へと起こる不測の事態に対処できるはずもなく、それでもとにかく必死にがんばる姿がだいぶ面白い。テンパる元革命家のパパを人間味のある魅力的な主人公としたレオナルド・ディカプリオはさすがのひとこと。

 ショーン・ペン演じるロックジョー大佐もすごい。歩き方からして絶妙で、その足の運び、胸の反らし方、手の振り方すべてがまさに変態軍人のそれになっている。何よりすごいと思うのは、ロックジョー大佐を典型的なヴィランとはしていないところ。レイシズムに毒された秘密クラブの一員になろうと執着する中で、ロックジョー大佐は同時に混乱する。その姿に滑稽さだけではなく、哀しみすらにじませるショーン・ペン。脚本の読解力がケタ違いなのだと感じさせる。

 ベニチオ・デル・トロがセンセイとして放つカリスマ性もヤバい。よくいる近所の道場の師範と思いきや、まさかこれほどの力があったとは。センセイこそが自由の志士といった印象で、テンパるボブを落ち着かせ、自信を持たせ、やがては羽ばたかせる。最後まではっきりと正体を明かさないところ含め、猛烈に格好いい。

 ポール・トーマス・アンダーソン監督作では俳優たちの魅力が最大限に引き出される。本作ももちろんそう。名優たちが披露する妙演&怪演に注目してほしい。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』

https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie

2025年/アメリカ/162分/PG12

監督・脚本・製作 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 レオナルド・ディカプリオ ショーン・ペン ベニチオ・デル・トロ レジーナ・ホール テヤナ・テイラー チェイス・インフィニティ ほか
配給 ワーナー・ブラザース映画

※10月3日(金)より全国公開

©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.