CINEMA
戦後の沖縄を描く映画『宝島』
戦後の沖縄を生きた人々の想いが迫る 衝撃と感動のエンタテインメント大作
第160回直木賞、第9回山田風太郎賞、第5回沖縄書店大賞を受賞した真藤順丈による傑作小説を原作に、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(2010)、実写映画『るろうに剣心』シリーズ(2012〜2021)などを手がける大友啓史が監督を務めて映画化。1952年から1970年にかけたアメリカ統治下の沖縄を舞台に、戦果アギヤーと呼ばれた若者たち(※米軍基地から物資を奪っては住民らに分け与えていた若者たち)が駆け抜けた激動の約20年を描き、戦争とは何か、正義とは何か、尊厳とは何かを問いかける。
戦果アギヤーのひとりであり、のちに刑事になる主人公グスクに妻夫木聡。その幼馴染みで教師になるヤマコに広瀬すず、同じく幼馴染みでヤクザになるレイに窪田正孝。戦果アギヤーのリーダーでヤマコの恋人、ある襲撃の夜に予定外の戦果を手に入れたのち、突然消息を絶ったオンに永山瑛太。日本映画界に欠かせない俳優たちが集結し、それぞれの道を選び、生き抜いた人々を情熱的に体現する。
東映とソニー・ピクチャーズが共同で配給し、ハリウッドを拠点とするLUKA Productions Internationalも製作に参加するなど、日本映画の枠を超えて生み出された本作には、圧倒的なスケール感が備わっている。とりわけ、戦後の沖縄における米軍向け歓楽街=特飲街、嘉手納基地のフェンス、米軍戦闘機墜落事故の現場となった小学校、コザ暴動の舞台であるゲート通りなどを綿密に再現したセットは見もの。観る側も戦後の沖縄の街に入り込んだかのような、没入感を味わえるものとなっている。
オンが姿を消したあの夜から、グスク、ヤマコ、レイは刑事、教師、ヤクザとしてオンの影を追いながら、それぞれの道を歩んでいく。果たしてオンはなぜ消えたのか? あの夜、何を手にしたのか? オンが基地から持ち出した“何か”を追って米軍も動き出す中、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とは──。
point of view
沖縄生まれの人たち=“うちなんちゅ”は、自分たちの街に駐留する米軍関係者たちを“アメリカー”と呼び、日本の本土から来た人々を“日本人”と呼ぶ。つまり、うちなんちゅにとっては日本人も外側の人々であり、自分たちの苦境を知らぬ、もしくは見て見ぬふりをする傍観者であるというわけだ。実際に本土で生まれ育った現代の日本人が本作を観ると、ハッとさせられる場面が多々あるはず。戦中・戦後の沖縄のことは教科書で読んで知識はあったが、本当の意味で知っていたわけではなかった。沖縄の人々がどんな苦境に立たされ、どんな悲しい思いをし、どんな屈辱に耐え、どんな時に怒りを爆発させてきたのか。観ながらにしてそれらを体感し、衝撃を受け、どうにも胸が熱くなり、胸が痛む。
とりわけ胸を突くのは、妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太が最大出力で届けるうちなんちゅの想い。幼馴染みの4人は戦後の沖縄をそれぞれの生き方で生きていく。現実を見据えてその時々の最善の手段を選ぶ者、とにかく声を上げて行動し続ける者、憎悪を武器に敵に立ち向かう者、自分の持てるすべてを手渡そうとする者。それぞれに正義があり、それぞれの正義がぶつかり合う瞬間も描かれる。そのエネルギーのすさまじさと言ったらない。
これは遠い過去の物語ではなく、今にも通じる物語だ。長い歳月を経た今なお、人間は同じ過ちを繰り返している。現実がそう簡単に変わらないことはわかっている。それでも、自分たちの想いを受け継いだ未来の人々がより良い世界を作ってくれると信じ、理想を掲げ続け、声を上げ続けなければいけない。戦後の沖縄を懸命に生き抜いた人々の姿に夢中になるうち、いつしかそんな教訓が得られるはずだ。
『宝島』
https://www.takarajima-movie.jp
2025年/日本/191分/PG12
監督 | 大友啓史 |
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原作 | 真藤順丈『宝島』(講談社文庫) |
出演 | 妻夫木聡 広瀬すず 窪田正孝 永山瑛太 ほか |
配給 | 東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
※9月19日(金)より全国公開
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会