FLYING POSTMAN PRESS

『リンダ リンダ リンダ』同窓会

名作『リンダ リンダ リンダ』が4Kに
ペ・ドゥナ×前田亜季×香椎由宇×関根史織
今も色あせない青春の日々を振り返る

 映画や音楽を愛する人は、映画『リンダ リンダ リンダ』(2005)を愛さずにはいられない。観たことがないという若い世代のカルチャー・ラバーたちも、タイトルからピンと来るはず。そう、モチーフになっているのはザ・ブルーハーツの名曲『リンダ リンダ』だ。

 主人公は、文化祭まであと3日というタイミングで結成された即席の女子高生バンド。ペ・ドゥナ演じる留学生のソンが緊急加入のヴォーカル、前田亜季演じる響子がドラム、香椎由宇演じる恵は急遽キーボードからギターに転向、Base Ball Bearの関根史織演じる望がベース。4人が寄り道をしながらも猛練習に励み、思ってもみなかった輝きを放っていく姿を映した本作は、青春映画の不朽の名作と讃えられている。監督は若き日の山下敦弘が務め、オフビートなユーモアと切なさを交えつつ、愛おしい青い春の達成感を永遠にフィルムに焼きつけた。

 そんな名作が4Kバージョンになって全国のスクリーンで上映されている。公開前日の8月21日(木)には前夜祭が開催され、主演を務めたペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織が20年ぶりの再会を果たした。インタビューを実施したのはその翌日、公開日当日の8月22日(金)。前夜祭の興奮覚めやらぬ中、愛おしき4人が青春の日々を振り返る。

写真:小田原リエ 取材・文:佐藤ちほ
【ペ・ドゥナ】ヘアスタイリング&メイクアップ:SADA ITO
【前田亜季・香椎由宇・関根史織】スタイリング:大園連珠 ヘアスタイリング&メイクアップ:坂本志穂(グラスロフト)



あの頃、本当に青春していた

──『リンダ リンダ リンダ 4K』前夜祭で20年ぶりの再会を果たされました。一緒にステージに立ち、どんなことを思いましたか。

ドゥナ 実は再会する前から緊張していました。と言うのも、『リンダ リンダ リンダ』はロー・バジェットの映画で、小さくスタートしましたよね。それが、みんなで心をひとつにして作ったら、世界中にたくさんのファンが生まれ、いい映画だと評価していただけた。さらに、20年後にはこのように4Kになってもう一度劇場で上映していただけることになった。本当にすごいことだと思いますし、公開日前日にみんなでステージに立てることも光栄に思っていました。もちろん、私にとっても大好きな映画ですし、4人と山下(敦弘)監督に再会できましたし、観客のみなさんにもお会いできた。まるで夢のようで、だからこそすごく緊張してしまったんです。ともすれば、泣きそうでした。胸が張り裂けそうな思いでした。

香椎 メイク中に「ソンちゃん(※ペ・ドゥナの役名)が来たよ!」って言われて。メイクがまだ途中だったのに「ちょっといいですか?」って、3人で会いにいったんです。

前田 メイクが中途半端でもどうしても会いにいきたいという(笑)。

関根 そうだったね(笑)。

香椎 私もすごく緊張していたんですが、ドゥナに会ったらそのままだったので。ほかのみんなもそのままで、一気にあの頃に戻ったというか。

前田 うれしかったね。

香椎 また、舞台挨拶が終わってステージからハケる時、ドゥナがドアにぶつかったんですよ。

全員 (笑)。

ドゥナ お客さんのほうを見ながら手を振っていて、前を見ていなかったんです(笑)。

香椎 その姿を見た時、なんかホッとしちゃって。

前田 “ああ、ドゥナちゃんだ”って思ったよね(笑)。

香椎 そうそう。なんか昨日はずっと夢見心地だったな。

前田 こんな幸せなことは。

関根 ないね。

前田 私も何よりみんなに再会できたのがうれしかったです。あと、公開から20年経ってもう一度大きなスクリーンで観られるというのは、そうあることじゃないですよね。舞台挨拶のステージに立ったら、満員のお客さまが“待っていたよ”っていう感じで反応してくださったのも本当にうれしくて。改めて、恵まれた作品だと思いました。

関根 私もみんなと同じで緊張はしていたんです。でも、会ったら本当にみんな変わっていなくてうれしかった。そこからずっと、今もこうしてすごく楽しい時間を過ごせています。

──ペ・ドゥナさんが演じる韓国人留学生ソンに告白するマッキー役の松山ケンイチさんもサプライズで登壇され、劇中の告白シーンを再現されました。返事を催促されたドゥナさんが劇中のソン同様に「嫌いじゃないけど、好きじゃない」と返されて。段取りなしのサプライズだったと思いますが、あの台詞はずっと覚えていたんですか。

関根 そう、あれとっさによく出てきたね。

ドゥナ 撮影している時から珍しい台詞だと思っていて。『嫌いじゃないけど、好きじゃない』ってある意味残酷じゃないですか(笑)。“面白い、こんな言い方もできるんだ!”と思って、ずっと脳裏に焼きついていたんです。

全員 (笑)。

ドゥナ もしかしたら日本式の言葉なのかもしれないけど、あれはよくある返しなの?

香椎・前田・関根 ない(笑)。あれは山下さんの。

ドゥナ ああ、山下さんの(笑)。

──20年前の撮影現場を振り返り、今でも印象深く残っていることはほかにもありますか。

ドゥナ 3人は本当にプロフェッショナルでした。現場では辛い時もあったはずなのに、そんな素振りはまったく見せなかった。あと、カメラが回っていない時もずっとバンドの練習していたことが印象に残っています。最後の文化祭のライブをやり遂げるんだという強い気持ちで、とにかく練習しようと。3人のそんな姿を見て私も練習しなきゃって思ったことを覚えています。この3人が私の基準になっているんですよね。ほかの現場に行き、ほかの俳優さんたちと会う時も3人を基準にしている自分がいて。この3人に基準値を上げられましたね(笑)。

香椎 私たちが基準とかではないんですが(笑)、この作品が基準になったという感覚は私にもあって。この映画は私にとって俳優になってから3本目の出演作で、香椎由宇としてまだできあがっていない中での参加だったんです。そんな中、ペ・ドゥナさんという韓国の女優さんが来ると。で、亜季ちゃんはあの頃からできあがっていたじゃないですか。

前田 いや、できていなかったよ(笑)。

香椎 かつ、のんちゃん(※関根史織の役名・望にちなんだ愛称)というプロのミュージシャンがいる。この中で私はどんな立ち位置でどうしたらいいんだろうと、ソワソワしながら現場に入ったんです。でも、実際に始まったらもうそんなの関係ないというぐらい楽しかった。4人はホテルが同じで、もちろん、それぞれ部屋はあったんです。でも、いつも誰かの部屋にみんなで集まっていましたね。ドゥナがキムチを持ってきてくれたり、豆腐を買ってきてみんなで食べたり。私には“楽しい”っていう思い出しかなくて。ただただ楽しかった。

前田 ただただ一緒にいたよね。

香椎 常に一緒だった。何をやっていても楽しかったな。

──本当に青春していたんですね。

香椎 そうなんです。当時現役の高校生だったんですが、正直、この映画の高校生活のほうが楽しかった(笑)。

前田 私にとっても青春でした。

関根 うん、そう。

前田 今思うと貴重でありがたい時間でした。ドゥナちゃんが言ったように撮影の合間にはずっとバンド練習をしていて。誰かひとりが練習を始めるとみんなも釣られて練習し始めるんです。そういうのも本当に楽しかった。

関根 当時現場に<写ルンです>を持っていったんですけど、今開催中のパネル展で展示されている写真の中には私やメンバーが<写ルンです>で撮った写真も結構あって。その写真を見返してみると本当に仲がいいんですよ。自然に抱き合ったりしていて。

前田 ベタベタしていたよね(笑)。

関根 ベタベタしていた(笑)。ああ、すっごい仲良かったんだなぁって。

香椎 今も仲良いでしょ(笑)。

関根 そうなんだけどね(笑)。

前田 距離がすごく近かったね。

ドゥナ 今、私たちがこんな感じでいられるのは、音楽がくれた効果もあるのかなと思っていて。

前田 確かに音楽が繋いでくれたよね。今、みんなで初めて演奏を合わせてみた時のことを思い出したんだけど、すごくうれしかったな。「うわ、合った!」みたいな。

関根 「曲になった!」みたいな。

前田 そうそう、「曲になった!」っていう、あのうれしさは今でもよく覚えていて。やっぱり音楽ってすごい力があるんだよね。音楽の力でひとつになれたなって私も思います。

──劇中では初めて4人で合わせた時にはひどい演奏になりましたが、実際はどうだったんですか。

香椎 それが意外とできたんですよ。私がダメだったのは覚えているんだけど(笑)。

前田 そんなことなかったよ(笑)。

関根 なので、「映画の最初のシーンは実際よりもうちょっと下手にやろうね」って感じだったよね。

全員 (笑)。

前田 そうだった、ちょっと下手にしたかも(笑)。あのシーン、いいよね。

関根 いいよね。あのシーン、私もすごく好き。