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DNAから「日本人」のルーツを紐解く
あなたの祖先はどこから来た? 最新の研究で辿る「日本人」のルーツ
人類の足跡を辿る古代DNA研究。その最新の研究成果から見えてきた日本人の足跡を紹介する展覧会が、名古屋市科学館(愛知)で開催されている。親子で行っても友だち同士で行っても盛り上がること間違いなしの本展の注目ポイントを紹介する。
縄文人、弥生人、だけでくくれない 「個人のストーリー」
近年、技術の発展によって古代DNA研究は飛躍的な進化を遂げ、それに伴い、続々と新事実が判明している。人類史が塗り替えられるばかりではなく、「日本人」の概念までもが変わるかもしれない。そんな最新の研究成果を目の当たりにできる貴重な機会となるのが本展だ。
写真はなく残っているのは骨だけという遥か昔の祖先たちがとてもリアルにその姿を再現され、生活ぶりがわかるなら、みなさん、知りたいのでは? 本展に足を運べば、その好奇心は満たされる。本展は、縄文時代や弥生時代に生きた私たち「日本人」の祖先「個人」の顔や、人生までもが垣間見えるようなものになっている。
例えば、本展にて見られる「船泊遺跡23号 人骨」。縄文時代に北海道・礼文島で生活した女性の人骨だ。そのDNAを解析した結果、血液はA型で目の色は茶色、髪はくせ毛で、肌はシミができやすく、耳あかがしっとりタイプ…といったさまざまなことがわかっている。さらに、人骨からは食性分析により、食べていたものなどもわかるのだとか。彼女はデンプンの消化が苦手だったためにどんぐりなどを主食にすることができず、海産物を食べていたということまで判明。そして、毎年夏には危険を冒して海で食用の海獣を獲り、たくさんの子どもを産み、ある夏、40代で亡くなったという。
こうした各時代の“代表者”の骨をもとに生前の顔を復元し、その人物の人生物語を紹介するばかりではなく、復元された人物が映像となり、私たちに直接語りかけるというコーナーもある。その人物の人生の物語までが紹介されるだけではなく、「この人たちが、今の私たちに繋がっているのか」と、その人生をとてもリアルに感じることができるはずだ。
船泊遺跡23号人骨 複顔 / 国立科学博物館蔵
そんな細かな情報まで? 人骨で丸わかり
人骨を科学的に分析して得られる情報量は膨大。人骨から取り出したDNAからは、骨の形や大きさからだけではわかりようのない新事実が見えてくる。例えば、血縁関係。縄文時代に同じ墓に埋葬された複数人のDNAを解析し、彼らに血縁関係がなかったことが判明。その事実により、縄文時代の家族像が単に血縁関係者だけで成り立っていたのではなく、再婚や養子縁組などが頻繁に行われ、従来の想定よりも複雑だったのではないかという新たな学説が生まれた。
弥生時代といえば水田稲作を思い浮かべる人も多いだろうけれど、稲作の浸透度には地域によって大きな差があったそうだ。同じ九州でも、福岡県隈・西小田遺跡の人々は米をたくさん食べ、西北九州の人々は海産物メインの食生活を送っていたことが判明。食生活は想像しているよりも多様だったようだ。
こうした古代DNAや食性分析の研究成果と合わせ、人骨はもちろん、関連する出土品も展示されている。当時の日本人の生活や社会を多角的に見て、理解を深めることができる。
左:茶山2号墳馬形埴輪 古墳中期、5世紀 大阪府茶山2号墳 羽曳野市教育委員会 / 右:クマ形土製品 縄文晩期、2400年前 岩手県上杉沢遺跡 二戸市埋蔵文化財センター ※展示は複製品(国立歴史民俗博物館蔵)
展示物はもちろん、これらをイメージしたグッズも、お楽しみのひとつ。
より鮮明になってきた日本人のルーツ
約6万年前にアフリカから世界各地へ広がったホモ・サピエンスが、日本列島に到達した、つまり「最初の日本人」が登場したのは約4万年前と考えられている。この時代の化石証拠がなかったことから、「最初の日本人」の実態は長年謎に包まれていた。しかし近年、沖縄県石垣島で約4万年前に生きた人々の人骨が次々と発見され、ゲノム解析に成功。彼らのルーツが東南アジアにあることもわかったという。ここから列島に広がった人々が「縄文人」へと繋がり、その後、今度は稲作技術を持つ「渡来系弥生人」が列島にやって来て弥生時代が始まる。弥生時代が始まり、縄文人が弥生人へと一斉に差しかわったわけではなく、そこにはもちろん地域差があった。ひと口に「縄文人」「弥生人」といっても実はさまざまなルーツを持ち、「日本人」のDNAの系譜がとても複雑だったことが見て取れる。
ちなみに、現在の本州の日本人には、縄文人由来のゲノムが10〜20%、渡来系弥生人由来のゲノムが80〜90%残っており、さらに沖縄や北海道ではその割合が違うのだという。
左:白保竿根田原洞穴遺跡 4号人骨 旧石器時代 沖縄県白保竿根田原洞穴遺跡 沖縄県立埋蔵文化財センター / 右:白保竿根田原洞穴遺跡 4号 人骨 復顔 国立科学博物館
▲「最初の日本人」とされる白保人の複顔。発掘された沖縄では「知り合いにそっくり」「どこにでもいそう」といった声が多々聞かれ盛り上がったそう。
会場には、「最初の日本人」の男性から始まり、日本のさまざまな時代、場所に生きた、私たちの“祖先”が並んでいる。こうして見ると、遺伝的に均一な集団と考えられがちな「日本人」が、実はそうではないことに気づかされる。
これほどまでに、自分たちのルーツを深掘りできる機会なんてなかなかない。この貴重な機会に会場に足を運んで自身のルーツに思いを馳せてほしい。
特別展「古代DNA―日本人のきた道―」
会場 | 名古屋市科学館 |
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会期 | 7月19日(土)~9月23日(火・祝) |
休館日 | 月曜日、7月22日(火)、9月2日(火)、3日(水)、16日(火)、19日(金)。ただし、7月21日(月・祝)、8月11日(月・祝)、9月15日(月・祝)は開館。 |
開館時間 | 9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで) |