CINEMASPECIAL ISSUE
山田裕貴が堤真一と共に生きた日々
戦うだけではダメだと教えてくれた作品
──FLYING POSTMAN PRESSは<GOOD CULTURE, GOOD LIFE>をコンセプトに展開しています。山田さんの人生を豊かにしてくれたカルチャー作品と言うと?
山田 最近で言うと、マーベル作品の作り方が面白いと思っていて。どの作品も脚本家さんが3、4人いて、それぞれにパートを振り分けて同時進行で書くそうなんです。マーベル作品の生みの親であるスタン・リーは、すごく忙しくなってどうしても自分で脚本が書けないとなった時、自分はアイディアだけ出し、脚本は何人かに任せることにしたらしくて。それ以降、続いている作り方だそうです。例えば1本の映画をA、B、Cとパート分けしたとして、Bを書く人はAを読めないまま書いていくことになります。となると、急に展開が変わったりするわけで。“急に展開を変えられるからこそ面白い”という考えからそんな手法を取っているそうです。ひとりで脚本を書く時は当然ですが、つじつまを合わせようとするじゃないですか。つじつまを合わせようとしていない作品には、それはそれでまた別の面白さがあるということを僕はマーベル作品から教わりました。あとはやっぱり、『機動戦士ガンダム00』(2007~2010)ですね。俳優になろうと上京してきた自分を支えてくれた作品です。主人公は自分のことを“戦うことしかできない破壊者”と思っているような子で。主人公が銃を持って戦っているところから物語が始まるんです。敵に追い詰められて『この世界に神なんていない』と絶望した瞬間、天からビームライフルの光線がビュンビュンと降ってくる。助けてくれたのは0ガンダムで、その瞬間、主人公は“神いるじゃん”って思うんです。そして“自分はこれになりたいし、ガンダムに乗りたい”と思うところから物語がスタートする。つまりは戦争の話なんですが、その当時の僕にとって上京は戦争の感覚だったというか、どこか戦場にいるような感覚があって。
──当時の自分の状況や気持ちとリンクしたと。
山田 はい。僕は名古屋出身ですが、地元の友だちみんなに「俳優になるから」と言いふらし、俳優になれなかった時の自分が徹底的にみじめになるように、あえて自分を追い込んで上京しました。東京に来てからは俳優の養成所に通って、そこでも絶対に馴れ合わないようにしていました。“戦っている”という思いをリンクさせながら『機動戦士ガンダム00』を観ました。ガンダム・シリーズのほとんどは人類が地球に住めなくなって宇宙に出てから、宇宙世紀が始まってからの話です。『機動戦士ガンダム00』はそれ以前の話。地球上で戦争が起こっていて、戦争を戦争で止めようとしているガンダムの話だったんです。戦争で戦争を止めようとするのは、そもそも間違っているじゃないですか。主人公もそれに気づいて“戦っていいものか”と思い悩むことになる。それでも戦いながら、主人公は人類として初めて進化することになります。特殊な能力が芽生えるんですが、それが人と人の声を繋げるというもので。要は、戦場にいる人たちみんなに会話させられるようになった。つまり、戦争を終わらせるのは戦争ではなく対話だと。そういうことを描いている作品なんです。
──なるほど、深いですね。
山田 何周もしているぐらい大好きな作品で、すごく影響を受けました。僕も俳優として進化しようと思うなら戦っているだけじゃダメだと、対話こそが重要だと教えてもらいました。戦うきっかけと、戦うだけじゃダメかもしれないと気づいたきっかけ、その両方をもらったとても大切な作品です。
山田裕貴(やまだ ゆうき)
愛知県出身。近年の出演作に映画『ゴジラ-1.0』(2023)、『キングダム 大将軍の帰還』(2024)、ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(2023)、『君が心をくれたから』(2024)など。9月12日(金)より映画『ベートーヴェン捏造』、10月31日(金)より映画『爆弾』が公開される
映画『木の上の軍隊』
https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/
2025年/日本/128分
監督・脚本 | 平 一紘 |
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原作 | 「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし) |
出演 | 堤 真一 山田裕貴 ほか |
配給 | ハピネットファントム・スタジオ |
※沖縄先行公開中、7月25日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開
Ⓒ2025「木の上の軍隊」製作委員会