CINEMASPECIAL ISSUE
山田裕貴が堤真一と共に生きた日々
2年間、樹上で生き抜いた日本兵がいた
沖縄の新兵を真っ直ぐに演じた山田裕貴
生きていることを実感した撮影の日々
1945年、沖縄県伊江島で日本軍とアメリカ軍が激しい攻防戦を展開する中、ふたりの日本兵が命からがらガジュマルの樹上に身を潜め、終戦を知らぬまま2年間生き抜いた。そんな驚きの実話から着想を得た作家の井上ひさしが原案を遺し、劇作家の蓬莱竜太と演出家の栗山民也がその遺志を引き継いでこまつ座にて上演した舞台『木の上の軍隊』。沖縄戦の縮図とも言われる伊江島の悲劇を、ユーモアを交えつつ情感豊かに描いて賞賛されたこの舞台を原作に、沖縄出身の平一紘が監督と脚本を務めて映画化。沖縄にて先行公開中、7月25日(金)より全国公開となる。
映画『木の上の軍隊』で宮崎から派遣された厳格な少尉・山下一雄を演じるのは堤真一、沖縄の新兵・安慶名セイジュンを演じるのは山田裕貴。沖縄の伊江島で堤真一と共に“生きた”日々を、山田裕貴に振り返ってもらった。
写真:徳田洋平 スタイリング:森田晃嘉 ヘアスタイリング&メイクアップ:小林純子 取材・文:佐藤ちほ
普通の若者が突然、戦場に放り込まれた
──映画『木の上の軍隊』への出演オファーを受け、脚本を読んだ際にはどんなことを思いましたか。
山田 いつかこういう作品に出演できたらと思っていたんです。広島に住んでいた子どもの頃に、親に連れられて原爆ドームの資料館に2回行きました。今の資料館は表現がだいぶ抑えられている印象ですが、僕が子どもの頃はそうではなくて。原爆の被害で皮膚がドロドロに溶けてしまった人の姿も見ることができたんです。当時見たものは、今もはっきりと思い出せるぐらい衝撃でした。この作品の脚本を読み、この映画を通して今の子どもたちに伝えられることがあるかもしれないと思いました。日本が戦争をしていた時代に大変な思いをしながら生きていた人たちの思いを、映画を通して伝えられる。“伝えなきゃいけない”という使命感のようなものもありました。それと、自分が俳優として食っていけなかった時代のことを思い出したりもして。この映画のお話をいただいたおかげで、あの頃を思い出すことができてそれもすごく良かったです。
──俳優業で食べていけなかった時のことや、幼い頃に原爆ドームに行って戦争がもたらす悲劇を見て衝撃を受けたこと。そういったご自身の経験が、沖縄出身の新兵・安慶名を演じる上で役立ったと思うこともありましたか。
山田 自分が食えなかったことと、あの時代に生きた人たちが食えなかったことを一緒にしてはいけないと思っています。もっと悲惨でもっと過酷な状況があったんだと、そこは想像力で補いながら演じていくしかなくて。ただ、決して自分と一緒にはしていないのですが、自分が過去に苦しみを経験したというのは間違いなく残っているので。自分の中にあるものが演じる時に役立たなかったということはないですね。
──ご自身では安慶名をどんな人物だと思い、どう演じようと思っていたのでしょうか。
山田 彼は新兵として戦闘訓練はしていたものの、実際のところ、敵軍の飛行機を見るのも初めてなら、爆撃を受けるのも初めてだった。戦争の時代を生きている人だから“あの時代の人”と思ってしまいますが、実際のところは現代の若者とそう変わらないのかなと。彼自身は普通の若者で、それがある日、自分の家がある場所で戦争が起こってしまい、急に「銃を持て! 敵を殺してこい!」と言われ、何もわからないまま戦場に放り出されてしまった。安慶名は上官の山下と一緒に、終戦を知らないまま木の上で生き延びることになりますが、ふたりにはモデルがいるんです。佐次田(秀順)さんと山口(静雄)さんというおふたりで、本当に終戦を知らないまま2年身を潜めて生き抜いた方々で。実際は同じ木の上で身を潜めていたわけではなく、別々の木の上で身を潜めていたそうです。この映画の安慶名と山下は、同じ木の上で一緒にいます。その上官が安慶名にとっては恐怖の存在でしかない、という点も意識していました。こちらから話しかけるのはダメ、かと言ってビクビクしていては「情けねぇ!」と言って殴られる。そんな恐怖が急にのしかかってきて、安慶名はどうしていいかわからなくなっている。相手が少し動いただけでも何か言われるんじゃないかとビクッとなってしまう。特に最初の頃はそういうリアクションも大事にしていました。
──山下少尉役の堤真一さんとの共演はいかがでしたか。
山田 楽しかったです。堤さんは何をしても上官でした。だからこそ自分は何も心配することなく、ただひたすら安慶名を生きるだけで良かった。自然と、ふたりでその状況を生きていくことが大事だと思えました。どんな球を投げても返してくれるので、頼もしいを超えて一緒に演じるのがすごく楽しかったです。ひとつ意外だったのは、現場の堤さんは僕よりおしゃべりで。パブリック・イメージとは全然違うと思いますが、実は僕は自分からしゃべりかけるタイプではなくて。だから余計に、現場で堤さんがたくさん話しかけてくれたのがうれしかったです。