FLYING POSTMAN PRESS

2020年の青春『この夏の星を見る』

部活の顧問の先生みたいな映画監督

──山元監督はキャストのみなさんと、それぞれの演じる役柄や物語の背景を綿密に話し合われたのでしょうか。

山元 打ち合わせの時にひとり40分ぐらいはしゃべりました。原作、脚本を読んでどう思っているのかを話したり聞いたりしつつ、プラスアルファ、“どういう温度でカメラの前に立つのか、あなたと現場でどうしていきたいか”というのを伝えるのが監督の仕事だと思っているので。

──キャストと言葉を交わすことで見えてくるものもあるでしょうし。

山元 そうですね。例えば、渋谷区立ひばり森中学の真宙を演じた黒川(想矢)君と最初に会った時はブラックホールとか、映画『インターステラー』(2014)とか、宇宙に関する話ばかりして。黒川君は宇宙の話になったら目の色が変わるんですよ。プライベートでも自分の望遠鏡を使って天体観測しているような子で。ちょっと話しただけでも宇宙がすごく好きなのが伝わってきたし、夢中で話している様子がまたかわいかった。 “このかわい気を純度を落とさずに撮りたい”と思いました。そういう、言葉を交わすことで改めて気づいたみんなの良さを、できるだけ映画の中に入れていきたいと思っていました。

辻村 なんか山元監督、この話に出てくる顧問の先生みたい(笑)。

山元 本当だ(笑)。

辻村 “やらされていない青春”の話なんですよね。大人にやらされていない、あくまで子どもたちが望んだ活動であって、その責任を大人たちが取るという。そういう大人たちの光り方と似た感じが撮影現場にもあったんだなと今、話を聞いていて思いました。

山元 確かにそういうところがあったかもしれないです。この現場では大人チームもすごく良かったんですよ。

辻村 大人チーム、いいですよねぇ。

山元 五島の天文台の館長・才津を演じた近藤(芳正)さんがクランクアップの時にスピーチされて。「若い子たちの中に大人ひとりで混ぜてもらって。みんなで映画を作っているんだけれども、映画の中でもうひとつ、スターキャッチというみんな作り上げているものがあって。本当にみんなが楽しそうに作っている背中を見ながら、僕自身もその世界にちゃんと入って楽しんで、今、五島列島から帰っていくことができます」と。素晴らしいコメントだなと思って。

辻村 本当に素敵です。

山元 そんな目線でちゃんと見てくれている大人が現場にいて、それが映画の空気感に全部出ているような気がします。茨城県立砂浦第三高校の天文部顧問の綿引役の岡部(たかし)さんも、生徒役のみんなを連れてごはんを食べにいき、悩みも聞いていたそうです。ひばり森中学の理科部顧問の森村役の(上川)周作も同じで、ずっと見守るスタンスでいてくれて。子どもたちも大人たちも全員が作品の中で大事にしていることをちゃんと心に留め、抱きしめながらやってくれた感じがすごくあります。