FLYING POSTMAN PRESS

良作が続々公開、日本映画は面白い

あの時、あの場所で起こったこと
小栗旬×松坂桃李×池松壮亮×窪塚洋介
未知のウイルスに最前線で挑んだ人々

 2020年2月3日に横浜港に入港し、その後、日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス。乗客乗員は56カ国3711名。感染者数不明、治療法不明──。当時、日本にはウイルス災害専門の機関は存在せず、船内の救命活動に駆り出されたのは、災害医療を専門とする医療ボランティア的組織のDMAT(ディーマット)だった。地震や洪水などの災害対応のスペシャリストではあるが、未知のウイルスへの対応は専門外だった医師や看護師たちが、最前線でどうウイルスに立ち向かっていったのか。家族や日常を捨てて命を救うことを最優先にした人々の姿を描き出す。

 企画、脚本、プロデュースを担うのは、ドラマ『救命病棟24時』(2005)、ドラマと映画になった『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』シリーズ(2008~2018)、Netflixシリーズ『THE DAYS』(2023)などを手がける増本淳。医療現場で命と向き合う人々や、未曾有の災害が派生した際に最前線に立った人々の姿を描き続けてきた増本が、300ページを超える膨大な取材メモをもとに、これまで知られることのなかった船内のエピソードも丁寧に盛り込み、映画の脚本としてまとめあげた。

 知られざる物語をひとりでも多くの人に共有してもらいたい。そんな増本の願いに共感したキャストが集結し、豪華な布陣となっている。DMATの指揮官・結城英晴に小栗旬、厚生労働省から派遣された立花信貴に松坂桃李、DMAT隊員の真田春人に池松壮亮、同じく仙道行義に窪塚洋介。さらに、森七菜、桜井ユキ、美村里江、光石研、滝藤賢一らがダイヤモンド・プリンセスの乗員や乗客、取材するメディア、下船した乗客の隔離を受け入れる病院の医師を演じ、それぞれの立場でドラマを織り込んでいく。

 あの時、日本中が、世界中がダイヤモンド・プリンセスにおける医療活動を注視していた。その中に、最前線で未知のウイルスと戦う人々のことを心配し、応援していた人はどれだけいただろう。むしろ、最前線にいる人々を慮る余裕などない人のほうが多かったように思える。未知への恐怖は偏見に繋がり、自分がアクセスできる(あるいは信じたい)情報だけをうのみにして、ファクトチェックすることなく拡散していく。“外側にいる人たち”の言動が“最前線にいる人たち”をどれほど追い込んでいたのかが、本作を観るとよくわかる。そして、批判され、偏見にさらされてもなお、目の前で苦しむ人たちを救おうと懸命に努力する人々に熱いものがこみ上げてくる。

 事実に基づく物語であり、今を生きる人々に突き刺さる社会派な物語でもある。またそれが、スケール感のあるエンタテインメントになっているのがいい。全編を通してスリリングだし、感動に打ち震える瞬間も多々。文句なしに面白い映画だからこそ、大切なテーマがより多くの人へと届くのだろう。

 あの日、あの時、あの場所にいたら──あなたならどうしたか? 今観たい、愛と勇気の物語がここに。

『フロントライン』

https://wwws.warnerbros.co.jp/frontline/

2025年/日本/129分

監督 関根光才
企画・脚本・プロデュース 増本 淳
出演 小栗 旬 松坂桃李 池松壮亮 窪塚洋介 ほか
配給 ワーナー・ブラザース映画

※6月13日(金)より全国公開

©2025「フロントライン」製作委員会


日本中を騒がせた教師による児童いじめ
男は本当に“殺人教師”か、それとも──

 2003年に日本で初めて教師による児童へのいじめが認定され、日本中に衝撃を与えたことを記憶している人もいるだろう。この実際の出来事を題材にした福田ますみのルポルタージュ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』を原作に、三池崇史が監督を務めて映画化。児童に悪質ないじめをはたらいていると保護者に告発された小学校教諭の薮下と、告発した保護者の律子。両者を中心に据え、保護者の告発がやがて民事裁判へと発展していくさまをスリリングにドラマティックに描写していく。

 精神的にも社会的にも追い詰められる薮下を鬼気迫るアプローチで体現するのは綾野剛。薮下を訴える律子を確信をもって演じ、異様な存在感を示すのは柴咲コウ。さらに、亀梨和也、木村文乃、光石研、北村一輝、小林薫らが出演し、小学校教諭と保護者の全面対決を盛り上げていく。

 実名報道によって殺人教師と呼ばれることになった薮下は、法廷で「すべて事実無根の“でっちあげ”」だと完全否認する。果たして薮下は殺人教師なのか、それとも――。真実に基づく、真実を疑う物語が誕生した。

 とりわけ印象的なのは、保護者の視点で展開される“氷室律子の供述”と、小学校教諭の視点で展開される“薮下誠一の供述”。ある家庭訪問の様子をそれぞれの視点で語るというシーンなのだが、これが面白い。映画冒頭で“氷室律子の供述”が始まると、一気に引き込まれていった。体のパーツのみを映すショット、後ろ姿だけを見せるショットが抜群の効果を発揮し、不気味で異様な空気がスクリーンを満たしていく。この“氷室律子の供述”から見える薮下と律子の人物像と、のちに展開される“薮下誠一の供述”から見えるふたりの人物像が、別人と言ってもいいほど違うのも面白い。両極を演じられる綾野剛、柴咲コウがすごいのはもちろんのこと、巧妙な演出とカメラワークにより、スリルと人間ドラマを最高潮で保ち続ける三池崇史監督もまた見事だ。

 小学校教諭と保護者の全面対決に夢中になりつつ、鑑賞後は考えを巡らせることにもなるはず。“面白い”の中に、現代の社会に巣食う問題の数々がちりばめられていたことに気づくから。三池崇史監督はエンタテインメント性と社会性を両立させるのに長けている。第一に“面白い”と思え、その上で今を生きるひとりの人間として考えさせられる、という作品が多い。本作もそのひとつであることは間違いない。

『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』

https://www.detchiagemovie.jp

2025年/日本/129分/PG12

監督 三池崇史
原作 福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
出演 綾野 剛 柴咲コウ ⻲梨和也 木村文乃 光石 研 北村一輝 小林 薫 ほか
配給 東映

※6月27日(金)より全国公開

©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会