FLYING POSTMAN PRESS

泣き笑い必至のおばあちゃん映画

オレオレ詐欺の犯人にまさかのリベンジ
孤独に耐えながらも家族を愛し続ける
映画に見る、最高のおばあちゃんたち

 ハラハラドキドキさせる度合いはトム・クルーズ並みの93歳のおばあちゃんに、疎遠になっても家族を愛し続けるおばあちゃん。最高のおばあちゃんに魅了される2本の映画を紹介する。



93歳、まさかの大冒険が始まる
最高齢アクションヒーローに泣き笑い

 舞台俳優としてキャリアを積み、『アリス』(1990)で60歳にして映画初出演。その後、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013)では第86回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、遅咲きの売れっ子になったジューン・スキッブの初主演映画。撮影当時93歳(※現在は95歳)だったジューン・スキッブが演じるのは、仲良しの孫を救いたいがためにオレオレ詐欺に引っかかってしまった93歳のテルマ。それでもヘコたれず、自力で犯人を突き止めて大金を取り戻そうと、『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996~)のトム・クルーズにも背中を押され、電動スクーターでリベンジの旅へと繰り出すさまを描いていく。

 自身の祖母の実体験から着想を得て脚本を書き下ろし、監督・編集も務めるのはジョシュ・マーゴリン。テルマおばあちゃんと仲良しの孫ダニエルに『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024)のフレッド・ヘッキンジャー、テルマの娘ゲイルに『ボーはおそれている』(2023)のパーカー・ポージー、テルマと行動を共にするベンに『黒いジャガー』(1971)のリチャード・ラウンドトゥリーと、テルマを取り巻く面々にも個性と実力を併せ持ったキャストが集結している。

 最高齢のアクションヒーロー爆誕。笑って泣けて、とんでもなくハラハラドキドキさせられる、93歳おばあちゃんの“ミッション:インポッシブル”が今、始まる。


point of view

 愛嬌たっぷりのルックスと確かな演技力で人気に火がつき、95歳の今、キャリアの絶頂を迎えているジューン・スキッブ。満を持しての初主演映画では、彼女の魅力が炸裂している。オレオレ詐欺に引っかかった主人公のテルマは、『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズの姿にも感化されてリベンジを決意。同シリーズのトム・クルーズ同様に、ジューン・スキッブもすべてのアクションを自らこなしたという。電動スクーターでの“ゆっくり”カーチェイスや、いつどこに銃弾が飛んでいくかわからない銃撃戦、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025)における“トム・クルーズが飛行中の飛行機の翼を歩くアクション”と同じぐらいハラハラドキドキする、“ベッドのマットレスに乗るアクション”など、見どころは満載。そのアクションにはスリルとユーモアが共存していて、手に汗握りつつ笑ってしまうはずだ。その上で胸が熱くなって涙がこぼれるのは、どんな人でも心を寄せられるキャラクターとストーリーがあるから。歳を重ねる上での“あるあるネタ”は共感の宝庫に。できないことが増えていると自覚しつつもトライしてみるテルマには、勇気をもらえること請け合い。さらに、テルマの大胆な行動がテルマの家族や友人たちに変化をもたらすさまにも、心が動かされるはずだ。

 自分が輝けるかどうかは自分次第なのだと、テルマおばあちゃんは教えてくれる。観た後は、テルマおばあちゃんを人生の師と仰ぎたくなること間違いない。


『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』

https://www.universalpictures.jp/micro/thelma

2024年/アメリカ・スイス/99分

監督・脚本 ジョシュ・マーゴリン
出演 ジューン・スキッブ フレッド・ヘッキンジャー リチャード・ラウンドトゥリー パーカー・ポージー クラーク・グレッグ マルコム・マクダウェル ほか
配給 パルコ ユニバーサル映画

※6月6日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開

©Courtesy of Universal Pictures



タイで社会現象を巻き起こした家族映画
あの日、おばあちゃんと交わした約束

 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)などを手がけ、アジアのA24と称される気鋭の映画スタジオGDHが新たに描くのは、三世代が織りなす家族の物語。古い町並みが残るバンコクを舞台に、病気になった祖母に信頼され、遺産を得ようという不純な動機で介護人として祖母と同居することにした孫息子の視点から、家族の愛と摩擦、ジェネレーションギャップ、老後の孤独などの普遍的とも言えるテーマを、ユーモアを交えつつ描き出す。

 監督と共同脚本を務め、長編映画デビューを果たしたのはパット・ブーンニティパット。さらに、歌手で俳優のビルキンことプッティポン・アッサラッタナクンが孫のエム役を担い、映画初主演。エムのおばあちゃんのメンジュ役のウサー・セームカムも78歳にして長編映画デビューと、フレッシュな才能が集結している。

 2024年にタイ本国で公開され、その興行収入は年間第2位を記録するなど大ヒットとなったほか、第97回アカデミー賞では国際長編映画部門のタイ代表として、タイ映画史上初めてショートリスト入りした家族映画の新たな秀作。涙なしには観られない、愛と切なさに満ちた1本に仕上がっている。


point of view

 現代の都市部において三世代がひとつ屋根の下に暮らすのは珍しく、本作の家族同様に別々の家に暮らし、何かの折にだけ顔を合わせるというのがほとんどだろう。第一世代のおばあちゃんは老いと孤独を噛みしめつつも家族を想い、第二世代の息子たちと娘はそれぞれが家庭を持ち、日々の生活に追われている。第三世代の孫は自分の人生を上向かせることしか考えていない。時代背景は現代であり、現代的なユーモアもたっぷり含まれるが、鑑賞感は『東京物語』(1953)のそれに近いものがあった。時間の経過と共に家族が変化していくさまに切なさがこみ上げた。

 描かれているのは特別な家族ではない。多くの人が“うちと似ている”と思えるような、ごくありふれた家族だ。三世代のうち、どの世代の視点で観ても共感できる物語だが、子どもや孫世代の視点で観るとするならば、涙なしでは観られないはずだ。メンジュおばあちゃんはいつだって、子どもや孫がおなかを空かせていないか心配し、悪いことをしたら鬼のように叱りはするが、見捨てたりはしない。メンジュおばあちゃんの見返りなしの愛に、観る側もそれぞれの“愛された時間”を思い出すはず。時代や国境を越えて響く、家族映画の秀作がまたひとつ誕生した。


『おばあちゃんと僕の約束』

https://unpfilm.com/lahnmah

2024年/タイ/126分

監督・脚本 パット・ブーンニティパット
脚本 トッサポン・ティップティンナコーン
出演 プッティポン・アッサラッタナクン ウサー・セームカム サンヤー・クナーコン サリンラット・トーマス ポンサトーン・ジョンウィラート トンタワン・タンティウェーチャクン ほか
配給 アンプラグド

※6月13日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開

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